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1駅分のラブストーリー
(6/11)


大混雑の電車の中。

人混み嫌いにとっては地獄のようなものに何故私達が乗っているのかというと、事の発端は前回の現世へのお遊び最中に線路脇を歩いていたからである。
珍しくグリムジョーが電車とやらに興味を持ったものだから、善は急げとばかりに東京の通勤ラッシュを体験している最中であります。
私は一度、現世で暮らしていたことがあるから経験していたけれど、グリムジョーは予想外の混雑に顔をしかめている。
私の目の前にはグリムジョー、背中はドア。当分こちら側のドアは開かないので、私はドアに体重を預けていた。

ただ若干、グリムジョーの周りに隙間がある。

そりゃそうか。
身長186センチもあって髪は水色で、体格もがっしり鍛えられていて、その上これだけ殺気を放たれてたら通勤の慰安よりも我が身を守るだろう。

ふとグリムジョーが舌打ちをした。


「次で降りようか?」
「あー…ぶっ壊してえ」
「次で降りようね」


彼の短気さは重に知っているけれど、まさか3駅間を耐え抜くとは思っていなかった。5秒も我慢出来ないと思っていたのに、どうやらグリムジョーも成長したらしかった。


次の駅のプラットホームに電車が滑り込む。私がいるのとは逆方向のドアが開いて、さあ降りようとしたのだけれど、乗り込んでくる人波に呆気なく押し戻されてしまった。

東京すご。

結局また同じ位置に立っている私はグリムジョーをおそるおそる見上げる。


わお。キレてらっしゃる。


人の密度が濃くなったせいでグリムジョーの周囲の隙間もなくなって、本当のすし詰め状態。

肌寒い季節だというのに蒸し暑いくらいだ。


「もう無理だ。ぶっ壊す」
「あと2分で次の駅に着くから! そしたら乗客を薙ぎ払って降りていいから取り敢えず車両破壊は辞めてくれい」
「誰が車両壊すっつったんだよ。人間ごと飛ばすに決まってんだろ」
「わお」


私達の会話を聞いていた周りの客がぎょっとした顔で視線を向けてくる。
そうです皆さん。この身なりをしたグリムジョーならやりかねないという貴殿方の見立ては正常です。


「目ぇ瞑ってろ」
「待たんか!」


破壊活動を実行しようとしたグリムジョーの胸ぐらを引っ掴んで寄せる。
するとバランスを崩したらしいグリムジョーが「どん」と音を高らかに鳴らして腕をドアに突き、体勢を保った。

見事な壁ドンを目の当たりにした周囲からは「おおー」と感嘆符が漏れる。

間近で見下ろされるグリムジョーの目は怒ってるんだか嗤ってるのだか、よくわからない。
一応、口許は笑みを携えてはいる。
(一応な)


「へえ? 随分と積極的になったじゃねえか」
「今のは阻止の為と言いますか、ですね」
「何だったらキスしてやってもいいぜ」
「お断りします」





一駅分のラブストーリー
(「そんなに強く引っ張ったかなあ…」「あ? わざとに決まってんだろ。この俺があのくらいの力で傾くか」「マジか」)

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