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敵は近くにあり
(4/11)


「私は恨む。絶対にだ」



「くそ」



私とゾロは壮大なジャングルの中を歩き回っていた。

その時間にして既に丸一日と十時間。

見上げても天辺が見えないほどの高い大樹に囲まれ、蔦はぶらりと行く手を阻むように垂れ下がり、数知れないスコールのせいで地面はどろどろ、加えて虫はいるし、最悪のオンパレード。

どうしてこうなったのか考えたくもない。

皆と歩いていたはずなのにいつの間にか姿を消して迷子になりそうだったゾロを必死に追いかけて、やっと追いついたと思って振り返ればもうそこには誰もいなかった。



「何でだ…何でこんな怪物の心配なんぞしてしまったんだ」



「こっちの方角な気がする」



「だまらっしゃいいい!」



このままゾロに従っていては絶対にいつまで経っても辿り着けないと確信に近い気持ちでいっぱいです。

もうすぐ二度目の夜を迎える。ジャングルを緋色に染めていた夕陽が落ちて暗闇に包まれつつある。

まあゾロのせいでこうなった訳だけれど野獣に襲われても何だかんだで大丈夫だろうと思える程度には頼りにしている。

ちらりとゾロを見やると、これだけ歩いているのに滲むほどの汗しか掻いておらず尚且つ涼し気な顔をしておる。

この余裕っぷりは自分には何が起きても乗り越えられるという確固たる自信があるからなのだろう。



「そろそろ暗くなって来たし、寝るところ探そうか。歩き回って変な夜行性の獣に出くわしても嫌だし」



「だな」



「まあセオリーは樹の上ですかねー」



昨日はたまたま洞窟があったのでそこで爆睡出来たのだけれど、今日は周囲を見渡してもそういった好条件の場所は見受けられない。

となるとやはりサバイバルの鉄則、樹の上というのが無難だろうか。

仰ぐと、真っ直ぐ伸びた幹の遥か遠くの上の方にようやく枝が見える。

安全な分、行くには少し手間が掛かるらしい。

私は仰ぎながら言った。



「あれ、やりますか」



「やってやりますか」



ゾロは返しながら刀を抜いた。

鞘から抜き出す特有の高い音がして私は距離を取る。

ゾロが構えてから助走をつけてゾロに向かって飛んだ。



「せーのっ!」



それに合わせてゾロが刀で足場を作って私を振り上げる。

ゾロとサンジ得意の連携プレイを模倣して、私は跳躍力を合わせて枝まで一気に飛んだ。



「わたたたっ!」



少し飛距離が足りずに枝に抱き付く形で何とか難を逃れる。
(サンジなら余裕だったろうとは思う)

枝に乗っかってから近くにある蔦を垂らしてやると、腕力だけでゾロがあがって来た。さすが。



「意外と細えな」



枝に乗るなりゾロが呟いた。

それに関しては非常に同感である。

幹は太く、背も高い樹なのでもっと立派な枝なのかと思いきや案外にも細く頼りない。

眠れなくはないけれど若干の不安が残る。折れはしないだろうけれど。

枝と体を蔦で縛り付けておけば、まあ落ちないだろうという結果に至った。



「寝るか」



「うむ」



そうして私達は枝に体を縛り付けてそれぞれ眠ることにした。




 * * * * *




「おい」



意識の浮上は突然だった。

ゾロに体を揺さぶられ、はっとして目を覚ます。



「何、獣?」



急いで周囲を警戒するけれどそれらしき気配はない。

ただひっそりと暗闇が広がっているだけで、時折、風に靡いた草木の揺れる音が聞こえる妙な静寂が続く。

どうして起こされたのか。

ゾロを見てようやく理由がわかった。

互いの息が白い。

頬に触れると霜が降りたように、ざり、と凍っていた。



「どんだけ気温下がってんの」



うんざりしながら思い出したように全身を襲う寒さにぶるりと震えた。

肌を突き刺すような、肺を突き刺すような冷えた空気。

吸えば鼻腔が痛むせいで口呼吸しか出来ない。

ゾロの唇にまでチアノーゼが出てしまっている。

薄紫色の変わったそれに触れると指先と同じ冷たさが伝わった。

その手を握られる。



「これはやばいですな」



「しかたねえ。来い」



ゾロが幹に凭れ、私がゾロの体に跨るようにして互いに向き合って座り、抱き合った。

そして蔦を私の背中に回すようにして、幹ごと私達の体を縛り付ける。

ぐっと近づいたゾロの体は冷え切っているけれど、それでも外気よりは温もりがある。

暖を取るように抱き寄せると、ゾロもそれに倣った。

目の前には暗い幹しか見えない。

瞑目してゾロの首に顔を埋める。



「寒い」



「わかってる」



がちがちと奥歯が鳴った。

歯を噛み締めて我慢するのだけれどどうにも止まらない。

体が硬直していくみたいに感覚がなくなっていく。

頼りは互いの体だけ。

ほとんど爪を立てるようにしてゾロの背中を抱いていた。

顔を埋めたまま嘆息つくと、ぞくりとゾロの肌が鳥肌を立てた。



「馬鹿。煽んじゃねえよ」



「…え?」



次の瞬間、首筋に生暖かいものが這った。

それがゾロの舌であるとわかるのに数秒要した。

わかったところで縛られているし、ここは枝の上であるし逃げられないのだけれど、何とか逃れようと身じろぎするとそれさえも抱きすくめられる。

腰にきつく回されたゾロの腕がどことなく熱い。



「それ、誘ってんだろ」



言い終えるが早いか、途端に首に噛み付かれた。

ちくりとした痛みに肩が跳ねる。

本気で歯を立てやがった。こいつ。



「ちょ、やめ」



「あーうぜえ。よりによって何でオメーと二人なんだよ我慢出来る訳ねえだろうが」



「待っ」



「うるせえ抱かれてろ」



言いながら荒々しいキスをしてきた。

寒気の中で異質の吐息が混じる。

熱を帯びてさえいる呼気は二人のどちらのものともつかない。

ぬるりと侵される口内。歯列をなぞられ、舌が絡む。

逃れようと舌を引いても無駄足で、余計に迫ってきたゾロと距離が縮まってしまった。

この唾液は私のものかゾロのものか。

それさえもわからないほど熱く交わされる口付けに、頭がほだされそうになる。

しかし何とか理性を引き寄せた。



「待たんか変態!」



ごつん、と頭を殴ると恨めがましく睨まれる。

口の端に乱れた唾液を親指で拭ったその姿が艶やかだとは絶対に思ってやらない。感じてやらない。



「服だけ借りてここから蹴落としますが」



ゾロの盛大な舌打ちがあって、大人しくすることを暗黙のうちに承諾してくれた。

警戒しながらも夢の中に落ちる。

しかし翌朝の羞恥心といったら例えようがない。

まあ寒さのあまり混乱したのだろうと思うことにした。

太陽のおかげで気温もあがり、汗ばむほどになってから枝の上からダメ元でサンジの名を呼んでみた。

隣で呆れ顔のゾロ。



「聞こえねえだろ」



「いーや、サンジなら私の声が届くはず」



言うと不機嫌になったゾロを後目に、三分後にばびゅんと飛んで来たサンジと合流することが出来た。


助かった。まじで。





敵は近くにあり
(貴様が獣だったか)

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