グリムジョーが戦っている。
暇があっては強そうな虚に喧嘩を売って、本気の殺し合いをするのももう見慣れてしまった。
藍染が死んでからというもの、グリムジョーは戦う相手を渇望している。その矛先が適度に量のいる虚に向いただけだ。いつか、気が向いたら黒崎を殺しに行くのだろうと思うけれど、今のところその気配はない。多分だけど、なかなか気の合う二人なんじゃないかなーなんて考えてたりする。
私達は現世にいた。
本当なら期間限定で開かれているお化け屋敷に行く予定だったのだけど、グリムジョーが唐突に「いい霊圧の虚がいる」と言って走り出してしまって、今に至る。
相手もなかなか強いのか、グリムジョーは本当に楽しそうに笑いながら虚の体を斬り付けていた。
私は離れてろと言われたので、素直に遠巻きからグリムジョーを見ていた。ある民家の屋根に乗って、あっちへ行ったりこっちへ行ったりする俊敏な戦いを目で追う。
そんなとき、ふとコンビニが目に入ったので、屋根から飛び降りてコンビニに向かった。
人間達は気が付いていない。
上空で戦闘が行われていることも、人ならざるものが存在することも。
もちろん、私も人間ではないことを。
なのに愛想よく笑って接客してくれる。真相を知らなければこんなに親切にしてくれるのに、きっと私が破面だとわかった途端、淘汰されてしまう。
人間なんてそんなものだ。
そう考えると、グリムジョーは実に白黒はっきりしている。
自分と、自分以外。
自分より強いか、弱いか。それだけだ。人間よりもよっぽど良心的に思えてしまう。
私はそそくさと一リットルのスポーツドリンクを買って、また屋根に上った。
「あれ? いない」
どこに行ったのだろう。
先まで戦っていた空にグリムジョー達はおらず、きょろきょろと見回して探す。
だけれど、どうにも見付けられない。
下手に探し回るより待ったほうがいいだろうと考えて、私はその場に座った。
膝を抱えて、グリムジョーを待つ。
待つことは得意だ。
何時間でも何年でも待てる。
明るい空を見上げながら、今が夜でなくてよかったと思った。
「ぶおおおおおっ!」
と、妙な咆哮が聞こえて振り返ってみれば、さっきまでグリムジョーと戦っていた虚が真後ろにいて、何故か私に攻撃をしかけている。
ぼろぼろだ。おおかた、グリムジョーには勝てないとわかって悪足掻きをしにきたのだろう。
私は、ついでに買ったピザマンを頬張った。
「辞めといたほうがいいと思うよ」
呟けば、自我のある虚は「は?」とでも言いたげに顔をしかめた。
そしてそのまま動かなくなった。
虚の鋭い爪が私の鼻を掠めそうなほど近くに伸びてきて、風が髪をぶわりと靡かせる。けれど、すぐに無風、無音の世界になった。
虚は固まった顔のまま、ゆっくりと傾いて倒れていく。
どごーん、と重い音を立てて倒れた虚の背後に立っていたのは、やっぱりグリムジョーだった。
汗が輝いて、肩で息をして、少し前髪が乱れて顔に掛かってしまっているグリムジョー。
「アラシに狙いを変えた時点でアウトだっつうんだよ」
「せっかくグリムジョーが力を抑えて遊んでたのにね」
「それな。ったく、準備運動にもならねえじゃねえか、雑魚が、クソが。早く壊れちまえ」
「ほれ、買っといたよ」
虚の亡骸を蹴りつけるグリムジョーにペットボトルを投げれば、一瞥もくれずにそれを受け取った。
ぐびぐびと飲み干して、掌で髪を後ろに撫で付ける。
そうすれば、もうグリムジョーの顔は元に戻っていた。
「行くぞ」
言いながら、私の手を引いて立ち上がらせてくれるグリムジョーを、一歩後ろから観察する。
よかった。
怪我はない。
いつもこうして心配してしまうことをグリムジョーは気付いているのだろうか。
グリムジョーの強さを信じていながら、それでも、もしかしたら負傷するかもしれないなんて嫁らしからぬ弱さがあることを見抜いているのだろうか。
どうか知らないでいてほしい。
グリムジョーの中の私は、いつまでも能天気な私でいてほしい。
大きな背中と、大きな歩幅に合わせて必死に付いていく。
それがどんなに幸せなことか、わからないほど馬鹿じゃない。
「暑い。マジであっちい。着替えてえ」
「わかった。わかったから今は脱いじゃダメ」
わかってるよ
(でも知らないふりをしてやる。それが旦那の役目ってもんだろ)
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