死神 | ナノ


其れがたる所以  


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「姉ちゃん、やって行かねえか?」


お祭りで出店が並ぶ中、私はひとりのおじちゃんに声を掛けられた。
小太り、髭、ねじり鉢巻、タオルを首からぶら下げて、ティーシャツには「熱血」と大きく印字されている絵に書いたような祭りのおじちゃんだ。
看板を見なくともわかる。

射的だ。

机が置かれた少し離れた先に、景品が並ぶ棚がある。景品はぬいぐるみやらフィギュアやら、ゲーム機やら。

苺飴を舐めながら、とりあえず見るだけ見ることにした。


「何発撃てるんですか?」
「十発で五百円! やって行くかい?」
「ふむ。やってみます」


ぽろん、と五百円玉を渡すと、銃身の長い銃とコルク弾を十個渡された。
苺飴を一口で頬張って、弾を詰める。

よいせ、と狙いを定めた。
この手の店は、大きい景品は落とせないと決まっている。無難に小さいフィギュア狙うか。
ぱん、ぱん。と撃ってみるも当たらず。掠りもしないだと。


「こいつ、やりおる…」


とりあえず狙いはひとつのフィギュアに定めて、ひとしきり撃つも全く当たらなかった。
残りは最後の一発だ。


「普通は一発くらい当たるもんなんだけどなー!」


おじちゃんさえ諦念の極みである。むしろ喜んでおる。
コルク弾を詰めながら、何で駄目なんだ?
と考えつつ、戦いに関するセンスが皆無だったことを思い出して適当に撃とうとした、そのときだった。

私の持つ銃を拐う手があって、見上げればグリムジョーがいた。

頼んでいた焼きそばとたこ焼きとチョコバナナを買って戻ってきてくれていたらしい。濃い紺色の浴衣が相反する髪色とよく似合っている。


「俺が撃つ」
「わお、マジ? おじちゃん、いいですか?」
「おう、一発くらい彼氏さんに手伝ってもらってもいいよー!」
「彼氏じゃねえよ、旦那だ」
「あ、そうなの」


むやみやたらとおじちゃんを威嚇して、グリムジョーは食べ物諸々を私に預ける代わりに銃を奪い取った。
銃底を肩に当て、銃に頬を寄せて、すっと片目を閉じる。

そして人差し指で引き金をしぼ――。


どぉおおおおおん!!!


「……わっつ?」


地響きに近い銃声と閃光に私は一瞬だけ呆気に取られて、気付いたときには首を傾げて思わず声を洩らしてしまった。

景品棚に並んでいた一番高価だったであろうゲーム機が見事に撃ち落とされている。
しかも棚の先にあるテントカバーまで貫き、銃創の周囲が焦げて硝煙がくすぶっていた。


「はい? え? グリムジョー、今のって――」
「おいクソジジイ、寄越せよゲーム」
「え、あの、その、え、あれ?」
「まさか景品ねえなんて言わねえよなあ? 早く寄越せよ。ねえなら金でもいい。対価を渡せ」


そうしておじちゃんを脅しに脅しまくって六万円をせしめたグリムジョーは、お金をポケットに捩じ込んだかと思うと銃をおじちゃんに投げ返した。


「行くぞ」
「うん?」


途方にくれるおじちゃんを尻目に、先を歩くグリムジョーを追う。人混みを避けながら何とか隣の位置に追い付いた。
チョコバナナうまい。


「ねえ、さっきのあれ、私の見間違いじゃなければ虚閃だったようなー…なんて…」
「虚閃だ」
「ですよな!? なにタイミング合わせて撃ってんのかと思ったわ! どうしたの!?」
「あの銃、照準が合わねえように細工がしてあった。アラシがどんだけ狙っても当たらなかったのはそれが理由だ。んで腹立った」
「あ、なーる…って、いいのか? 人間界でほいほい虚閃撃っていいのか…?」
「誰も殺してねえよ」
「ま、それもそうか。チョコバナナ食べる?」
「たこ焼き食う」
「ほいよ」
「…!? 辛っ!!」
「あ、買ってきてって頼んだお店ね、ロシアンたこ焼きのお店なんだよね。一発で当てるってさすがグリムジョーだなー。射的も当てたもんなあー、すごいなーすごいなー」
「あとひとつ混ざってる」
「…わっつ?」
「辛いたこ焼き二つにさせた」
「私の思惑を、み、見抜いていた、だと…!?」
「おら、選べよ」
「く…!」
「おらおら」
「こ、これだぁっ!! …ぎゃああああっ!!」


そうして私達はからころ下駄の音を鳴らしながら祭りをあとにした。





不正は許さん
(六万円分のゲーム買いました)
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