死神 | ナノ


其れがたる所以  


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重い。
眠りながらも何となくそう感じて寝返りをうった。
それでも息苦しくて、その根源を求めるように身体をまさぐる。すると私のものではない手足が数本、乗っていることに気が付いた。


「ん?」


瞼を押し上げて見下ろす。
グリムジョーの腕が私のお腹の上にある。
右を見れば、やはりグリムジョーが寝息を立てていた。グリムジョーを起こすとこの上なく機嫌が悪い唯我独尊状態になるので、起こさないように起こさないように慎重に、しれっと腕を払い落として反対側へと寝返る。

と、もうひとつの寝息。

ノイトラだ。

ノイトラのさらっさらな髪が頬に触れて、くすぐったいと感じるくらいには至近距離にいて、びっくりした。
離れようとするとノイトラの腕が私の首に、長い足が私の足に絡み付いていて全く引けないことに気付く。

ななな何だ、この状況。

思い返してみて、ああ、そうだ。
昨日は現世で調達したゲームを、私とこの二人とテスラの合計四人で楽しんでから、お酒を飲んでそのまま雑魚寝してしまったんだった。

ということはテスラもいる筈。


「テスラー」


小声で呼んでみるけれど、応答なし。
ノイトラ以外の声に反応しない、テスラの極端な性格を思い出して項垂れた。
(あいつめ)

そもそもですよ。
このちっこい身体の私に身長186cmのグリムジョーと2m越えのノイトラの手足が乗っている時点で窮屈なのですよ。
彼らの安眠を邪魔しても許されるレベルの苦しさですよ。起こしてでも退いてもらおう。

そう決めて、ノイトラを揺すった。


「ノイトラ、ごめん、ちと苦しい」
「……飲み過ぎた…」
「マジか。気持ち悪い?」


ぐかー。再び寝息。
手足は数ミリも動いていない。
あーマジかよ。
しかし体調悪いノイトラを無理に起こす気にもなれず。
(酒を飲ました張本人が私というのも大きな理由のひとつです、はい)

仕方ない、しばらく我慢してやるか。

天井を仰ぎながら、もう一度眠ろうとすると、ぐい、と引き寄せられた。
寝惚けたノイトラによって完璧に抱きくるめられてしまっている。

あー。でも気持ち悪そうだし。

ここは我慢してやるか。
(お酒を飲ませた張本人)

しかし案の定ノイトラの力が強くて息苦しく、目が覚めてしまった。

羊が一匹ー。二匹ー。三匹ー。
想像している羊がいつの間にか帰刃したテスラに変わるほどには数え続けていると、ふと視線を感じた。

どす黒い。重い、鋭い視線。

ぐぎぎぎ、とぎこちなくグリムジョーに首を巡らせる。


「旦那の目の前で不倫なんざいい度胸してんじゃねえかクソチビ」


しっかり目覚めてらっしゃったグリムジョーにがっつり頭を鷲掴みにされた。


「違う、これには正当な理由が…!」
「二人とも殺してやる」
「違うって!」


きゅおおおっと手に虚閃を溜め始めるグリムジョー。
あ、これ本気パターンです。


「ちょ、ノイトラが傷付くレベルで攻撃されたら私が先に死ぬって!」
「ああ死ね」


がん、とガチな勢いで虚閃が放たれた。
わたわたとしていると、さらにノイトラに抱き寄せられて不覚にも護られてしまった。
起きているのかと思いきや、ノイトラはまだ寝ている。さすがノイトラ、傷ひとつありません。

けれどグリムジョーの神経を逆撫でしたのは間違いないようで、ノイトラの腕の隙間からやっとの思いで顔を出すと、憤怒に染まったグリムジョーの顔があった。

今度はグリムジョーに胸ぐらを掴まれる。


「こっちに来い」
「いや、あのね、私も存分に動きたいのだよ」
「来ねえのか?」
「だから動きたい気持ちはあるんだってば。引っ張ってくれればわかるけど、動かないのさ」


ぐい、と引っ張られた。微動だにせず。


「…ほらね?」


舌打ちをしながら、次は私ではなくノイトラの丸々とした襟(スプーン)を引っ掴んだ。
ぎゅうぎゅうと変形する勢いで引いている。するとさすがグリムジョーの腕力、ノイトラと私の間にゆとりが出来た。


「ほら、出ろよ」
「はい」


そそくさと腕からすり抜け、ようやく解放された。
ベッドの上で座り込み、ふう、と息をつく。

ノイトラの隣にはテスラが寝ていて、グリムジョーが何事もないように踏みつけているのが見えるけれど、そっとしておこう。
爪先が頬に食い込んでいるけど、そっとしておこう。


「ふう。朝御飯作ってくるよ。何がいい?」
「炒飯」
「あいよ。いってきま――ぶふぉっ!?」


立ち上がろうとして、抵抗を感じて顔面から床に落ちた。
強打して、じんじんと痛む鼻を抑えながら身体を起こす。涙目でグリムジョーを振り返ると、その顔には疑問符が浮かんでいた。
わざわざ両手を広げて、ひらひらと見せてくる。


「何もしてねえよ」
「え、だって引っ張られた…」


二人で原因に目を落とす。

あらやだ。
ノイトラの手がまだしっかりと私の服の裾を掴んでいた。
仕方なく指一本一本を外そうと身体を反転した瞬間、再びぐいと引き戻される。
そして、また、すっぽりとノイトラの腕に収まってしまった。


「こ、のスプーン野郎…アラシにめんじて我慢してきてやったが、もう耐えらんねえ。ご自慢の腕を切り落としてやる」
「ぎゃーっ!!」





嵐の前の静けさ
(すっかり思い込んでたよ。ずっと、続くんだって)
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