死神 | ナノ


其れがたる所以  


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「ジャンプ、ジャンプ! ジャンプってどのボタン!?」
「あー? 何か蝿が飛んでるなあ」
「グリムジョー! 教えてくれたっていいじゃんか!」
「勝負だぞ、誰が敵に塩を送ると思ってんだ」
「ノ、ノイトラ!」
「絶対ぇ、負けねえ」
「くっそグリムジョー対ノイトラのカーチェイスかよ! テスラ教えて!」
「ノイトラ様の援護で忙しい。ここにバナナを置いて、と…。ジャンプなどボタンを押していればすぐわかるだろう」
「あんたら! ゲーム買ってきたの私やからな!?」

ただいまマリ○カートの真っ最中。
四人同時プレイをしている。画面が四つに区切られ、それぞれが操作するキャラクターの視点から見ることが出来る。

藍染のいなくなった虚圏はまあ暇で暇で、グリムジョーの付き添いのもと新発売されたゲームを買ってきて、四人対戦をしている。要は暇潰し。
購入してきたのは、いわゆるカーチェイスゲームで、初めこそ皆わたわたと操作していたのに、いちはやくグリムジョーとノイトラが慣れ、次にテスラが慣れ、どうしてか私は不器用で周回遅れも甚だしい。

「うわ! バナナに引っ掛かった! スピンしてる!」
「アラシが引っ掛かってどうする。ノイトラ様、お待ち下さい今こそ援護射撃をってクッソオ! おのれグリムジョー赤い甲羅は反則だあ!」
(※赤い甲羅を他プレイヤーに当てて邪魔できる)
「誰が決めたんだよ、んなルール。ほらよ、っと」
「無敵になる、スター、だと!?」
「やめて、マジやめて何で私にわざとぶつかってくるわけ!? ドンケツやぞ!? 君ら最終コースかもしれんが私は残り3周あるんだぞ!?」
「おいアラシ、逆走してんぞ」
「ノイトラもっと早く言ってえ!」

正直、嬉しかった。
グリムジョーとノイトラは何だかんだで反りが合わなくて、もう破面は私達しかいないのに全く関わろうとしない。
もともと大きかった虚圏は、私達四人ではあまりにも広すぎた。
互いに暇を持て余してるのはわかっているくせに、繋がりを持とうとしなくて私は悶々としていた。
わざと四人プレイが出来るゲームを選んだのも、四人で過ごしたかったからだ。

例えば月に一回でもいいから。
例えば、一年に一時間でもいいから。

「ふう、やっとゴールした…まだやる?」
「おう。この野郎と6戦3勝3敗だからな、決着つけねえと気がすまねえ」
「あ? いい度胸じゃねえか水色頭が」
「うるせえ素敵スプーンが」
「この襟はデザインだ!」
「はーいスタートしまーす」

二人の言い争いは始まると埒があかないので強制スタートをして終わらせる。

今度はお化け屋敷のコースだ。
カウントダウンが始まってスタートする。

「ぬお!? 床抜けとるやないけ!」
「アラシ、その次も床抜け――あ。」
「うん、ごめんノイトラ。もう遅かったわ」
「この緑の甲羅うぜえな。命中率くそ悪いうえに荒ぶってんぞ」
「後続車の私にしわ寄せが来んだから辞めろグリムジョーぉ!」
「俺の後ろにいんのが悪い」
「何なんだこいつ…大人げねえぞ!」
「ここにバナナを置いて、と」
「テスラぁぁ!」
「だから何故アラシが罠に掛かる? ノイトラ様の援護が出来ないだろうが! ノイトラ様、アイテムをどうぞお取りください!」
「スターげっとぉ」
「あ、ノイトラが舌なめずりした。やばいよグリムジョーやばいよ。ノイトラが舐めるときはやばいよ?」
「…おい、ちょっと待て。舐めるときやばいってどういう意味だ。何でアラシがそんなこと知ってやがる。どこ舐められたんだ」
「そういう仲だからに決まってんだろうが。髪の色だけじゃなく頭の中まで晴れてんのか」
「聞き捨てならねえな、おもて出ろ」
「6番の分際で何言ってやがんだ」
「ちょいちょい二人とも。ほら、私1位になっちゃったよ?」
「十刃で最高硬度の皮膚だあ? 大量の腕で鎌をぶんぶん振り回すだけのノッポじゃねえか。なんだ身長2メートル越えって。邪魔くせえな」
「目尻に入ってるその仮面紋は何なんだよ。歌舞伎かよ。毎朝ご丁寧にお化粧でもしてやがんのかお姉さまよお。穴の空いたお腹もあっためた方がいいんじゃねえのかぁ?」
「完全にぶちギレた」

がん、とコントローラーをテレビに叩き付けて立ち上がったグリムジョー。
続けてノイトラも立って、双方睨み合う。もちろんテスラも加勢して、いよいよ掴み合って部屋を出ようとしたとき――。

「やたーー! 1位! 1位取ったよ皆! 見て見て、初めての1位! うひょー! お祝いしよう、お祝い! お菓子持ってくるから待っててねー!」

今の今までビリばかりだった私は初めての1位に歓喜して両手を挙げた。
部屋を飛び出して、地下にある食糧備蓄庫に向かう。
えーと、お菓子お菓子。
あ、今日は四人だからいっぱい持っていかないと。いつもの倍。
グリムジョーお気に入りのお酒と、ノイトラとテスラにすすめる辛いポテトチップスと、私の大好きなチーズと、それから、それから。

涙が出た。

急に、涙が溢れた。
四人で過ごせることがこんなに楽しいなんて。
こんなに、幸せだなんて。
もちろんグリムジョーとの二人の時間が退屈な訳じゃない。それでも充分、楽しくて幸せだったけれど、四人になると違う高揚があった。
グリムジョーといると胸がほっこりする。
けど四人でいると、わくわくする。
それらは幸せと楽しさの種類が違う。

私は出来損ないの破面。
能力は何もない。出来ることは何もなかった。
だから藍染に捨てられて、鎖で繋がれて放置されていた。

その過去から考えると、今の私は幸せに過ぎて、あまりにも嬉しくなってしまったのだ。

涙を拭って、トートバッグの中にむぎゅむぎゅ食料を詰め込む。
それでも足らなくて、両手いっぱいにお菓子を抱えて部屋に戻った。

「ただいまぁー!」

三人はまだ睨み合っていたけれど、構わずにテーブルにお菓子を広げる。

「これはテスラ、これはノイトラ、これはグリムジョーね」

瓶の酒を手渡して、三人の背を押して円卓を囲う椅子に座らせた。
紙皿にチーズを乗せて、ポテトチップスの封を開ける。

「はい、乾杯!」
「何で俺がこんな奴と」
「6番のお前がどうしてもっていうならやってやってもいいけどな」
「はーい、うるさいうるさい! 私の初首位にかんぱーい!!」

私は三人の瓶に自分の瓶をぶつけて一気に煽った。
ごく、ごく、ごくごく。
飲み干してから、三人の呆気にとられた顔に気付く。

「どした?」
「お前、ザルだったのか」
「あ、そか。ノイトラとは飲んだことないもんね。結構お酒飲めるよ。はい、ほらほら三人共飲んで! 私がすすめたいやつだからさー」

言うと、三人は訝しみながらもお酒を飲んでくれた。

「んぐ!?」
「あ、ごめんテスラ、それジュースとかと割らないといけないやつだったや」
「貴様ぁ!」





笑い声
(世界に響くのがたった四つの声だとしてもそれだけで美しく、儚い)
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