死神 | ナノ


其れがたる所以  


↑old[ 名前変換 ]

相手の首を鷲掴みにして壁に叩き付けるグリムジョーの姿にはもう見慣れたと言っていい。
ブラックペッパー味のポップコーンを食べながらダイエットコーラを啜りつつ、その光景を冷ややかに見詰める。

私の瞼が半分しか開いていないのも呆れているからだ。

現世の3Dの映画に連れて来てくれたかと思いきや、私のことを見ていただとか話し掛けただとか肩に触れただとか、とにもかくにも細かい難癖をつけてはこうして喧嘩を吹っ掛ける。
(というか脅迫。しかもそんな事実あったのかさえも疑わしい)


「いい度胸じゃねえか、あァ!?」
「ひぃ!!」
「グリムジョー映画始まっちゃう」
「黙ってろ」
「あい」


あの目で睨まれてしまっては申し訳ないが従わざるをえない。
(眉間に影が出来てたマジ怖い)

何やかんやと脅された学生らしき男子は脱兎のごとく逃げ、私達は遅ればせながら席に着いた。
スクリーンの前を横切るときも腰を屈めないグリムジョーの徹底ぶりには脱帽しかありません。

私達の席は最後列のど真ん中。

周りには誰もいない。
会場の中心の方にちらほらいるだけで、ほぼ貸し切り状態といえた。

となると。


「狭えんだよ、どこもかしこも」


やはり。
我が物顔で前の席に長い御足を投げ出した豹王ことグリムジョー。両脇の肘置きを大いに利用して、あっという間にいち映画館の席が玉座に取って変わる。

しかも黒のシャツのせいか迫力満点。


「グリムジョーって格好いいけど怖いよね」
「あ?」
「怖いけど格好いいよね」
「よし、許す」


そしてサングラスのごとき3D眼鏡を掛けると、もはやその筋の人にしか見えない。違和感ゼロ。

逆に堅気です、と言われた方が驚きかもしれない。いや破面だし堅気とかも関係ないんだけどね。



映画はゾンビ物だった。
ゾンビが攻撃してくるたびに手や牙が伸びてきて「おお」と思わず声が洩れる。3Dすご。

ビルが爆発して破片が飛んできたのは反則だ。
(思わず肩がびくってなったわ。びくって。)


「虚閃撃ちゃいいじゃねえか」
「これ人間やからな」
「おー、囲まれてやがる。ここまで窮地に立ったら帰刃するか、いや浮いたまんま虚閃で済むな」
「これ人間やからな」
「響転で――」
「人間やからな」


グリムジョーは人間の反撃方法に納得がいかないらしい。
ぼそぼそと文句を垂れるので、しきりに描かれているのはゾンビと生身の人間の戦いであることを諭すのに一向に頭に入れてくれない。


そんなこんなであっという間に映画が終わって会場が明るくなる。

何だか感情移入出来なかった。
それもこれも横で現実的なことばかり指摘するグリムジョーのせいだ。こいつめ。

出口に向かいながら凝り固まった背骨をうんと伸ばす。


「お腹空いたー。ハンバーガー食べたい」
「ハンバーガーだあ? もっといいもん食えよ」
「えー例えば?」
「フルコースとか」
「だってああいうところだといちいちマナーあるし、メニュー見ても何の料理だか全くわからんし。何とか何とかの何とか何とか添え、とか意味わからんくない? ステーキ! ハンバーグ! カルパッチョ! シンプルに書いてくれないと頼めもしませんよ、私は。それにグリムジョーと距離あるじゃん」
「…あ?」
「いつもどーり、くっついたまんま食べたい。そー思わん? 慣れすぎて離れてると落ち着かないし」


そこでふと考える。
ハンバーガーなら、今は昼時で天気もいいし虚圏にはない緑豊かな公園の芝生の上で食べるのもいい。温かい日射しと、ほんのり冷たい芝生。

月見バーガーと照り焼きバーガーとチーズバーガーとアボカドバーガーとポテト特大サイズとナゲットとアップルパイとココアとシェイクと炭酸ジュースとコールスロー。
いいね。
行こう。

と、途端に立ち止まったグリムジョーを振り返れば、赤く染まった顔をそっぽに向けて手で口を覆ってしまっている。


「どした」
「お前、時々めちゃくちゃ抱きたくなること言うよな」


グリムジョーの呟きはついぞ私の耳には届かず、いつもどーり肩を抱かれてずんずか歩く。

いつもどーり大量にハンバーガーを買い込んで、公園を見付けて、残念ながら芝生はなくてベンチの上で、いつもどーりグリムジョーにいじられながら胃に収めていく。美味い美味い。

唇についたソースも、やっぱりいつもどーり舐め取られた。





特別なんていらない
(二人でいるなら)
(1/1)
[*前] | [次#]
list haco top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -