死神 | ナノ


其れがたる所以  


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※オリキャラ(男)登場します。
※関連小説
「何度でも」
「真夏の夜の怖い話」



 * * *



「姉さん? どうかした?」


ビアガーデンにいた私とグリムジョーとノイトラ、テスラの前に現れたのは、死覇装を着た男の人だった。
髪も短くて、身長もあるし、筋肉もついている。ちゃんと正真正銘の男の人。
でも、その顔は――。


「え、わたし?」


私にそっくりだった。
その私を『姉さん』と呼ぶ男の人は、にっこりと笑って、深く頷いた。
そしてもう一度、ゆっくりと繰り返す。


「そう、僕は姉さんの弟だよ」
「え、弟? え?」


よくわからない。
私は三人を見た。
グリムジョーやノイトラなら、私に弟がいたことを知っていたかもしれないと思ったからだ。
けれど、その表情は当惑に満ちている。

そもそも私達は藍染に造られた破面なのであって、もともとは虚だ。生きていた頃に血の繋がりがなければ、虚になったところで姉も弟もない。

けれど顔がまったく同じだからか、普段は暴れやすいグリムジョーも手を出そうか躊躇しているらしかった。


「信じられない? えーと、どうしようかな。ああ、じゃあこれが証拠」


思い立ったように見せてきたのは右腕だった。
私と同じ顔なのに、私と違って表情がころころと変わる。どこか柔らかくて、ふわふわとした雲のような雰囲気を纏った男の人だった。

見せ付けられたその腕にはバーコードが刻まれている。
はっとした。

以前、私は死神であるマユリに誘拐されたことがあった。
研究だと称して右腕を切り取られており、その際、腕と首にバーコードを刻まれていた。
もちろん、井上織姫の力で腕や他の傷は治してもらったけれど、どうやってもバーコードだけは治らなかった。

私は咄嗟にうなじにあるバーコードに触れた。
男の人は満足げに頷いて、頬を擦り寄せてくる。


「そうだよ。僕は姉さんの腕から、培養されたんだ。Y染色体を混ぜて男にしたところは姉さんと違うところだけど、他はぜーんぶ同じ。ん? ってことは、僕のお父さんはマユリ局長? でも姉さんは藍染隊長が父親だから、異父姉弟になるのかな…いや、局長は養父かな? 難しいね」


はは、と笑っているけれど、私としては大問題である。
頭をいったん整理した。


「つ、つまり君は私の腕から造られた?」
「うん、そうそう」
「えっと、じゃあ何でここにいるの?」
「局長が言ってた。もう、僕達の研究は終わったんだって」


その言葉に、誘拐されたときにやられた拷問ともいうべき凶行を思い出した。指先から恐怖が這い上がって、肌が粟立つ。

私はくるりと彼の腕の中で向きを変えて、弟の死覇装の胸を開いた。
「え、なになに?」と戸惑う弟を無視して、その体に広がる無数の傷痕を見つめる。古いもの、新しいもの、とにかくたくさんあって、本来の肌の色がわからない。黄土色にくすんだ肌は、いたるところにある傷に引っ張られて歪んでいた。

唇を強く引き結んで、震えるのを我慢する。


「…あいつに、何を、されてきたの…?」


問えば、弟は苦笑して返した。


「いいんだよ、知らなくて。姉さんの代わりに僕が研究をしてもらえたんだから、姉さんは助かったと思えばいい」
「私が捕まったりしたから、そのせいで君が造られて、そのせいで君はひどいことをいっぱいされて、そのせいで放り出されて」
「違うよ、違う。全然、違う。終わったことだもの。僕はね、姉さんがいるって聞いてからずっと会いたくて、だから来たんだよ」


会いたかったーと、感慨深げに呟く弟は私をすっぽりと抱き締めて、その感触を楽しんでいるみたいだった。
しばらくそうしていたかと思うと、ぱっと体が離れる。表情も明るい。


「ねえ、あの人達は?」
「あ、えっとね、グリムジョーと、ノイトラとテスラ。一緒に虚圏で暮らしてるの。破面だよ」
「あれ? グリムジョーっていう人と同じのを指につけてるね。これは何?」
「あ、これは結婚指輪って言って――」
「じゃあグリムジョーは僕のお兄さんなんだ!」
「あ、うん、まあ、そういうことになるのかな?」
「そうなんだ! わーい、家族がいっきに増えた! お兄さん、よろしく!」


握手のために差し出された弟の手を、グリムジョーは困ったように見つめて、握ろうとはしなかった。
グリムジョーのことだから、まだ弟について半信半疑なのだろう。ノイトラとテスラなんて警戒心の塊みたいな顔をしているし、まあ無理もないか。
何せあのマユリが造ったのだから。


「姉さん! 僕も姉さんと同じものが欲しい!」
「え? 同じものって、例えば?」
「うーん、わかんない! 探そう!」
「う、うん」


正真、私も信じきれていなかったけれど、弟を無下には扱えなかった。


 * * *


「これは?」
「それはピアスっていって、耳朶に穴を開けないといけないやつだよ」
「あー、なら痛そうだね、辞めよう。手首に巻くのも邪魔だしなあ、やっぱり首にぶら下げる奴かな。姉さんは何色が好きなの?」
「うーん」


安いアクセサリーが並ぶ店先に、私達はいた。
グリムジョー達は距離を取った後方にいて、意図的に二人きりにしてくれている。

私は好きな色を思い浮かべて、口にした。


「「青」」


そしたら弟も同時に言って、声が重なった。
本当に嬉しそうに笑う人である。


「やっぱり。姉さんは青色が好きな気がしたんだ。じゃあ、これにしよう」


弟が選んだのは透明度の高い水色の丸い石のネックレスだった。石の中には白色の花が沈んでいて、水中を切り取ったようにも見える。
全く同じものを二つ買ってあげて、互いの首に掛けてあげた。


「これで同じ!」
「うん、そうだね。君は――ああ、名前は?」
「ん? ないよ? 局長は研究対象の名前をなかなか覚えない人だから、つけてくれなかったんだ。姉さんがつけてよ」
「え、急に言われてもなあ…じゃあ雷の夜に会ったし、ライにしよう。ライくん。どう?」
「うん! ライくんがいい!」


その眩しすぎる笑顔に釣られて、私まで笑ってしまった。
ああ、弟って可愛いものなんだな。
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