死神 | ナノ


其れがたる所以  


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皆で虚圏に帰って来て、ひとまずグリムジョーの宮に集まった。

えーと、ライくんも一緒に寝るから枕と毛布を探さなきゃ。どこにあったっけ。
あ、あと着替えと。なんて、箪笥をごそごそしながら聞いてみる。


「グリムジョー、ライくん用にパジャマ借りてもいい?」
「やだ」
「やだって…予想通りの返事だな…。買ってくればよかった。ごめん、テスラの服を借りてもいい?」
「ああ」


テスラはすぐに了承が返ってきた。
ちらりと見れば、ソファに座るグリムジョーは不機嫌そのもので、眉間の皺は深く、唇は「へ」の字に歪んでいる。
ノイトラは静かにライくんを観察しているしで、四人が不仲だった頃を思い出させた。
まあ今でも喧嘩は多分にありますけども。


「これでよし、と。ライくん、お風呂入っておいで、ご飯作っておくから。食べてないでしょ?」
「え、姉さんは入らないの?」
「ライくんの後に入るよ」
「一緒に入ろうよ。僕、お風呂入ったことないからわからないし、場所も使い方もわからないよ」
「あ、そっか。ごめんごめん、すっかり知ってるものだと思ってた」


そのくらい、ライくんは話しやすかった。


「ね。姉さんも一緒に入ろ」
「うん、わかった」


そして私の着替えを取ろうとしたとき、手首を掴まれて阻止された。
振り返ると、いつの間に移動してきたのかグリムジョーとノイトラがすぐ後ろにいた。グリムジョーは怒っていて、ノイトラは焦っている。


「どうしたの」
「どうしたじゃねえよ、一緒に風呂とか何考えてんだ」
「辞めとけ。な?」
「でも、ライくんひとりじゃわからないって言うし、そもそも弟だから大丈夫だよ」
「弟でも男だろうが!」
「そ、そうだけど」


グリムジョーの怒気を孕んだ罵声を間近で聞いて、びっくりしてしまう。
いつもと本気度が違う。
やっぱり自分のテリトリーにライくんを連れてこられて、怒っているのかもしれない。
どうしよう。


「あー…姉さん、やっぱり僕、ひとりでもいいよ? お水に入ればいいんでしょ?」


場の空気を察したライくんが困惑顔で否定してくれた。
そうなると、どうも「そうしてくれ」とは言ってあげられなかった。


「大丈夫、ごめん一緒に行くよ」
「お前――」
「何かあれば、駆け付けてくれるでしょ?」


そのとき、グリムジョーは「お前らの霊圧がまったく同じで、見分けがつかない」と悔しそうに言った。
それを聞いて、なぜか嬉しかった。
ああ、そうか、ライくんと私って、そこまで同じなんだ。本当に姉弟なんだ。本当に本当に、血の繋がった家族なんだ。

そう思っているとグリムジョーは気に食わなそうに目を細めた。


「なに笑ってやがる」
「ちょっと嬉しくなっちゃって。弟って、いいなあ…。うん。大丈夫! いってくるよ! ライくん行こう!」
「いいの? 姉さん、ありがとう」


ライくんの手を引いてお風呂場に向かう。
お風呂に入るにはどうしても裸になるのだけど、ライくんの露になった体はやっぱりどこもかしこも傷だらけで、言葉に詰まってしまう。
結局、何も言ってあげられない自分の頼りなさに嫌気が差した。

シャワーまで手を引いて、椅子に座らせて頭からお湯を掛けてあげる。


「髪はね、シャンプーで洗うんだよ。こうやって髪を濡らして、シャンプーを手に取って、泡立てるの」
「うん。気持ちいい」
「体はね、専用のスポンジかタオルで洗うんだけどライくんの分はまだないから、今日は手で洗おうね。背中やってあげる」


ライくんの背中はごつごつしてた。

滑らかな肌とはほど遠くて、傷だらけで、変な隆起や窪みがあって、アスファルトを撫でてるみたいだった。
なのにライくんは「くすぐったい」と楽しそうに笑っていて、可愛いのと、申し訳ないのとで胸が苦しくなる。


「ねえ『まだ』スポンジがないってことは、僕もここで暮らしていいの?」
「え? そのつもりだったんだけど、違った?」
「ううん」


そっか。暮らしていいんだ。と呟いたライくんの横顔は嬉しそうで、ああ、ずっと一緒にいようって思った。
多分、私にとってのグリムジョーが、ライくんにとっての私なのだと思った。
生きる糧というか、希望というか。そういうものなのだと思う。


「ずっと一緒にいていい?」
「もちろん。だって姉弟でしょ」


心底嬉しそうに、くすくす笑うライくんを抱き締めてあげたくなった。

お風呂から上がると、ノイトラとテスラが心配そうに部屋で待っていてくれた。「大丈夫だよ」と言えば、頷いて頭を掻いた。まだ戸惑っているらしい。


「あれ? グリムジョーは?」
「寝た」


ノイトラが指差した先にある寝室を開けると、キングサイズよりももっと大きなベッドにグリムジョーが寝くさっている。


「早っ! ノイトラ達も寝ていく?」
「いや、戻る。何かあったら呼べよ?」
「うん、ありがとう」


名残惜しそうにノイトラとテスラは自分達の宮に戻っていって、それを見届けたあとで私とライくんも寝室に入ろうとした。


「入るな」


でも、グリムジョーに止められた。


「その男、絶対にいれんな」
「え、でも他の部屋は掃除してないから、埃っぽいよ。明日は掃除するから今日はここでよくない?」
「リビングの床とか、廊下とか、どこでもいいだろ」
「床って…」
「姉さん、大丈夫だよ。六番保管庫にもベッドはなかったから、床には慣れてる」


六番保管庫。
それは私が監禁された保管庫と同じだった。
あんな冷蔵庫みたいに冷たくて固くて広くて暗い部屋に何日もいたなんて、考えたくもなかった。


「せっかくあんなところから出てこられたんだから、もう床で寝る必要なんてないよ。リビングのソファくっつけて、一緒に寝よう」
「おい!」
「グリムジョー。明日には掃除して、ちゃんとライくんのお部屋作るから」


グリムジョーの非難を遮って言うと、グリムジョーは押し黙って背中を向けた。
ドアを閉めて、三人掛けソファーを向かい合わせにくっ付けて、ひとつの毛布にくるまってライくんと寝転がる。

ライくんは驚いたように言った。


「柔らかくて、あったかい」
「うん、明日はもっとふかふかのベッド用意するからね」
「姉さんがいてくれるなら、ずっとソファでも構わないのに」


言いながら、ライくんは私の腕をぎゅっと抱いて、まるで逃がさない、放さないとでもいうように夢の中へ落ちていった。
寝息が聞こえてきたのはすぐで、そんなところも可笑しくて笑ってしまう。

私と同じってことは、ご飯もいっぱい食べるに違いない。
これから、毎食の料理が忙しくなるなあ。
そんなことを考えていると、私もいつの間にか眠っていた。
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