私がギンを連れてきたのは尸魂界だった。
死神が住む街の、門の前。
私達を見た門番が慌てて何かを叫び、サイレンのような音が鳴り響いている。
私はギンと、門が開くのをじっと待っていた。
指の痛みは増すばかりだけれど、それ以上に緊張で身体が震えた。
「アラシ、殺されるかもしれんで?」
「ギンは死神を心から裏切った訳じゃなかったんでしょ。やることがあっただけなんでしょ。なら、話せばわかってくれる。そしたらまた死神に戻れるよ。ギンは死神が似合う」
「その前に殺されるで。自分、破面なのわかっとる?」
緊張を見抜かれたのか、ギンに頭を撫でられた。
「ギン、ちゃんと謝るんだよ?」
「難しいなあ」
「ちゃんと頭下げて謝るんだよ」
「怖いなあ。傍におってくれる?」
「皆が許してくれるまで傍にいる。死神に戻ったらまたいつでも虚圏に遊びに来て。それか一緒に現世でお月見しよう」
「…せやね。死神と破面同士、敵になっても、遊びに行ったる。グリムジョーと離れる気はないん?」
「ない」
「さよか」
そうこうしていると、重い音を立てながら門が開き始めた。
門の向こうには死神という死神がずらりと並んでいて、その気迫に後退りしそうになるのを必死に堪える。破面の敵、死神。
命を狙われている死神。
門が開ききると、切迫した空気が張り詰めていた。
皆が皆、斬魄刀を剥き出しにして構えている。
各隊長が勢揃いしていた。その中には阿散井恋次や朽木ルキアもいて、私達を認めると大きく目を見開いた。
がちがち、と奥歯が震える。
私がグリムジョーやノイトラくらいに強かったら、戦えたなら、もっと心にゆとりがあったのだろうと思う。
けれど私は弱いから、一緒に戦ってあげられないから、こんなにも恐怖に震えてしまう。頼りない私を許してほしい。
けど、ギンに死神に戻って欲しい気持ちは誰にも負けないから。
突然、とすん、とギンが膝をついた。
地面に手を付き、額があたるほどに頭を下げる。優雅な流れ。そして――。
「すんまへんでした」
ギンが呟いたのを、死神達は呆気に取られたように見入っていた。
私も倣って土下座をする。
「ギンを許してください」
死神が互いに見合う気配があった。
* * *
虚圏に戻るなり、グリムジョーとノイトラが駆け付けてくれた。
グリムジョーにパシーンと頭を叩かれる。
「何してんだ、オメーは」
「うう、すんません…」
「とにかく怪我は。指」
「痛い」
指を差し出せば、曲がりくねった指にノイトラが触れた。
一方、グリムジョーが私の頬を包んで、ぐに、と頬肉を顔の中心に寄せられる。
強い力でグリムジョーの目を見させられた。
おちょぼ口で鳥のようにぴーちくぱーちく話すはめに。
「他に何にもされてねえだろうな?」
「他にって、例えば?」
「触られたとか」
「友達並かな」
「何して過ごしてたんだ」
「服とかご飯とか――いっ!?」
話している最中、掛け声すらなく急にノイトラが私の指の骨をぽきんと元の位置に戻した。
痛烈な痛みのあとでじんじんと痺れが続く。
「くぅー…痛い…」
「ったく、心配かけさせやがって。おら戻るぞ」
「テスラが肉焼いてるぞ」
「食べる」
「本当に何もされてねえだろうな?」
「されてないよ。あ、そういえば月が綺麗ってどういう意味?」
言うと、私を背負ってくれたグリムジョーとノイトラが珍しく目を見合わせた。
「…市丸に言われたのか」
「うん」
「知らなくていい」
「なんと」
「いいか、調べんじゃねえぞ。知らなくていいからな」
「う、うん、わかった」
そうして私達はテスラが作ってくれていた焼肉丼を食べ散らかして、四人で雑魚寝した。
(がっつりグリムジョーに掴まれてました)
独りになんてさせない
(貴方を選べないのならせめて貴方の居場所を)
(5/5)
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