死神 | ナノ


其れがたる所以  


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翌朝、目覚めると、まずギンの顔がすぐ近くにあった。

腕枕をしていてくれたらしい。しかも起きていて目が合い、にっこり笑っている。


「寝なかったの?」
「せや」
「何で? あんなに寝るの好きだったのに」
「アラシが逃げんように見張っとった」
「大丈夫だよ。私、現世は怖くてひとりで歩けないもん。前に知らない死神に見つかって殺されそうになったから、ひとりでは来ないようにしてるんだ」
「危なかったなあ。これからは僕がいるさかい、安心しいや」


返事は言えず、ただ頷いた。
頭と頬を撫でてくれる指が、いつ私を殺すのかわからない。
ギンはきっとそれを躊躇なくするだろうし、下手をすれば私が知らない間にそれをする。気付いたときには私は、もういない。


「なあアラシ」
「うん?」
「殺してもええ?」
「…誰を?」
「グリムジョー」
「はいダメー」
「なら殺してくれへん?」
「グリムジョーを?」
「僕を。自分では出来ひん。神鎗貸したるから、突いたって」


軽い金属音がして、私とギンの間に脇差しのような斬魄刀、神鎗が置かれた。

私はそれを受け取り、刀を抜く。半身を起こしてベッドの上に座り、ギンの喉元に切っ先を突き付けた。

柔らかな皮膚に僅かに食い込んで、ぷつり、と血が滴る。

けれどそれ以上、押し込めなかったのはギンが少しも表情を曇らせなかったから。
それどころか待ち望んでいたかのように優しく微笑んでいる。
初めから殺せる筈がないのに、脅しにもならなかった。

神鎗を引く。


「出来ないよ。知ってるくせに」
「嫌な子やなあ」
「とにかく出来ない。私、本当に帰らなきゃ。干し柿買いに行こう。そしたら虚圏に戻る」
「何で?」
「だって私はグリムジョーと――」
「棄てるん?」
「え?」
「僕のこと、棄てるん? 何で? 何で棄てるん? グリムジョーにもノイトラにもテスラにも『戦い』が残ってるやん。『戦い』があれば生きていけるやん。僕は何にもないで。死神にもなれん、破面にもなれん。僕にはアラシだけやのに、なんでそのアラシが僕を棄てるん? 僕、独りになってまう。独りぼっちや」


ギンは身体を起こして私を正面から抱き締めた。
神鎗の刃が擦れてギンの頬を傷付けたのに、まるで意に介していない。自分に刃が食い込むのを気にもせず、私を強く抱き締めている。


「棄てんといて。僕を棄てんといて。独りにせんといてや、頼むで。頼む、アラシ。お願いや」


目頭が熱くなった。

私はひとりの怖さを知っている。
藍染に棄てられてギンに棄てられて、グリムジョーに拾われるまでの間、ずっとひとりだった。

鎖に繋がれて、空気のように素通りしていく皆をなるべく見ないようにして、悲しまないように感情に気付かないふりをして、人形に成り果てた。
早く時間が過ぎて、早く命尽きるその瞬間を望んでいた。出来るなら、なるべく眠るように、苦しまず。

独りの怖さを知っている。

あの、重くて息苦しい恐怖を、知っている。

だから私はギンを振り払えず、応えるように幅の広い背中に手を回してしまった。


「棄てないよ」
「お願いや、棄てんといて」
「棄てない」
「アラシどこにも行かんといて。傍におってや」
「わかった」


左手の指輪が泣いたように煌めいた気がした。
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