死神 | ナノ


其れがたる所以  


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脱衣場をノックすると「アラシ?」と、返事があったのでガチャリと無遠慮にドアを開けた。
けれど上半身裸のザエルアポロの姿が目に飛び込んできて「おうふっ!」と頓狂な声を挙げて、慌てて扉を閉めた。


「ごめん、開けていいのかと思った!」
「いいんだ、入ってきてくれて構わない。アラシは僕の着替えをしてくれていたんだし、裸を見られたところでどうということはないよ」


それもそうか。
私は超人薬で意識のなかったザエルアポロを数ヶ月だけお世話していた時期があった。失礼ながら裸は何度も見ているので、確かに今更どうしたというものだ。納得して再び脱衣場に入った。


「あ、また髪が濡れたまんまだよ。ぽたぽた垂れてる」
「これは…実はタオルで視界を覆うのが怖くて出来ないんだ」
「おう、そうか。なあんだ、早く言ってくれればよかったのに。このワタクシがやってしんぜよう」


言って、近くにあった丸椅子にザエルアポロを座らせて背後からタオルで髪をわしゃわしゃと拭いていく。


「喋り続けてくれないか」
「んー? あ、そっか、そうだね。えーとね。あ、そうそう。ザエルアポロは寝てる間、乾燥しない?」
「平気だよ。すぐ傍に水分補給用のコップを置いてるし、濡れマスクもしてる」
「あー、やっぱり対策って重要だよなあ。実はね、グリムジョーもノイトラ達も乾燥がひどくて大変なんだって。だから皆でどうしようかーって考えてたところ。現世の加湿器だと小さすぎて役に立たんし。あれ八畳用とからしいんだけど、宮ってどんなに狭い部屋でも三十畳はあるからさあ。何かいいアイディアない? 」
「僕の宮になら大型加湿器があるけども」
「あー、そうなんだー、大型ねー」


ピンク色の髪にドライヤーを当てながら、軽く聞き流してしまった言葉を頭が認識する。


「んん!? 大型加湿器!?」
「そう。以前、研究で湿度が重要な個体があって、作ったんだ。今はもう保存しなければならない個体もないし、使っていない。ここへ運んでさえくれば稼働すると思う。寝室ぐらいなら管理できるスペックは備えてるよ」
「マジか! 使わせていただく! よし、乾いた! さらさらの美しいピンクの髪! うーん、いい香り! この香り好きだよー」
「ありがとう。アラシも使っていいよ」
「やったー! よし、じゃあ早速、加湿器を持ってこよう!」
「そうだね。でも、あの三人も連れて行ったほうがいい。出来るなら、テスラは帰刃したほうが望ましい」
「え、何で?」
「かなり重い」



 * * *



いざザエルアポロの宮にある研究室に来て、設置してある大型加湿器を見上げた私達は数秒、沈黙してしまった。
高い天井に届きそうなほど巨大な加湿器は、むしろ加湿装置だ。両手を伸ばしても一辺の端から端まで届かない。私が大の字になって、ちょうど二人分くらいの幅がある。

グリムジョーが試しに押してみた。


「びくともしねえぞ」
「あちゃー。グリムジョーで動かないんじゃあ、無理かなあ」


けれどノイトラは余裕たっぷりな表情で指を鳴らしてみせた。


「出番だテスラ、やってみせろ」
「はい! ノイトラ様の仰せのままに!」


そうして帰刃したテスラがぐんっと腰を入れて押すと、ずずっと加湿器が埃を巻き上げながら動いた。


「お! 動いた! 凄いテスラ!」
「よし。よくやった」
「ノイトラ様のお褒めに預り、光栄です!」
「なんか腹立つ」
「グリムジョー、さすがにこの状況じゃテスラが一番だよ」
「だな。別にアラシの前で少しも動かせなかったことなんか気にすんじゃねえぞ」
「やっぱすげえ腹立つ! おい、テスラ、そっちに傾けろ! こっちは俺がやるから持ち上げるぞ!」
「貴様の指示に従うのは癪だがやってやろう」


そして苦労して加湿器を傾けて出来た隙間にグリムジョーが指を入れて持ち上げる、のだけど。


「あがらねえッ!?」
「軟弱」
「はあ? じゃあオメーがやってみろよ!」


と、ノイトラと交代する。

床と機械との隙間に指を入れて「ふんっ」とノイトラが力を込めたのだけれど、やはり上がらない。
そうかと思うと、ノイトラは何事もなかったかのように掌についた砂埃を叩き落として、しれっとした顔で元いた場所に戻ってきた。


「オメーも上がらねえじゃねえか! 怪力が自慢なんだろうが! あの大量の腕はどうしたんだよ!? いま使わねえでいつ使うってんだ!」
「うるせえな! そっち持て! 装置の四隅さえ持てば何とか上がんだろ!」
「くっそ、何で俺がこいつと協力しなきゃなんねえんだ! 仕方ねえ、ザエルアポロも手伝え!」
「遠慮する。服が汚れてしまう」
「あ、じゃあ私が――」
「おいザエルアポロ、てめえ、アラシに一瞬でも手伝わせたらどうなるか、わかってんだろうな」


ぴきーん、とその場が凍り付いた。
グリムジョーの怒気をおくびも隠さない脅迫と、さらにグリムジョーとノイトラの威圧感たっぷりの恐ろしすぎる睨みは標的でないはずの私でさえ身震いした。
二人の一睨の餌食になったザエルアポロはそそくさと袖を捲って装置の底に指を入れた。
グリムジョーが指揮を執る。


「おら、行くぞ! 1、2の…3! ぐおおおおおお!」


全員の戦闘を思わせる気合により、ようやく装置が浮いた。凄い。何か皆、殺気立っている。


「あわわわわ。力になれなくてゴメン! えっと、じゃ、じゃあ私はドアとか開けたり障害物どけたり、とにかくサポートに徹するから!」


さあ早く開けようと出入口に向かって、扉を開けて、はたと気付いた。
一歩一歩近付いてくる皆に声を掛ける。


「…あのー、四人共?」
「んだよ、どうした!」
「非常に言いにくいんだけど、このドアの大きさじゃ、加湿器、出せなくない?」


四人の目がいっせいに注がれたあと、ザエルアポロが思い出したように言った。


「あ、そういえばあまりにも重くて巨大すぎるから運ぶのは困難と判断して、材料だけ従属官に運ばせてこの場で組み立てたんだった」
「「「殺す」」」
「んん! ザエルアポロの従属官って凄い人数だったよね! なのにこの四人だけでこんなに大きくて重たいの持ち上げるなんてすごいなー、すごいなー! さすが十刃! エリートぉ! ひゅーひゅー! 皆、格好いいなあ! 格好いいよ! ブリュレ! ブリュレ食べる? あっ、エッグベネディクトでも作ろうかなー! とろとろ半熟卵のやつ!」
「「「ぜってー殺す」」」
「くっ! 誰も誤魔化されてくれない!」





適度な湿度
(結局、分解して運んで組み立て直しました。けど装置はひとつしかないので、夜だけは皆で雑魚寝になりそうです)
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