俺は警戒と嫉妬の狭間に揺れている。
アラシのいないベッドは、アラシを拾ってから初めてだった気がする。久しぶりのひとりの温度というのは、なかなか寒くて全然寝付けなかった。
朝になって、寝室からリビングに出ると、寝不足の気だるさも吹き飛ぶくらい腹が立った。
ソファを二脚くっ付けているくせに、二人がいたのはほとんど一脚だけのスペースだ。
アラシの体にべったりと張り付いて眠る、アラシの弟。ライ。
その顔の近さも、無防備なアラシにも憤慨して、ライの首根っこを引っ掴んでいた。
「わ」
ライが驚いて四肢をばたつかせるが、俺だとわかると「あ、なんだ、お兄さんか」と大人しくなってへらへら笑う。アラシと同じ顔しやがって。
続いてアラシも目を覚まして、俺の腕にぶら下がっているライを見つけるなり慌ててライの裾を引っ張った。
「ななな、何やってんのグリムジョー。離して、ほら早く。ライくんおいで」
「わーい、姉さーん」
そして子供が母親のもとに戻るみたいに歓喜した顔でアラシに抱き付く。
ああ、むかつく。
アラシは俺の女で、俺の嫁で、全部、何もかも俺のだ。何で急に出てきたこいつの方が構われているのだろう。
殺してやりたい。
こんなに不安になるのは、多分、アラシの心の揺らぎがわかるからだ。ノイトラのときも、市丸ギンのときも、誰に惑わされてもアラシは絶対に俺を一番に選ぶ自信があった。
それだけ愛されてる自覚があった。
なのにライが来た途端、本物の血の繋がりを見た途端、アラシの中の優先度が俺からライに傾いた気がした。
「ライくんのお部屋は隣にするね。換気してくるよ」
「あ、僕も行く」
「じゃあ、ついでに虚圏も案内してあげる」
「やったー」
双子のように手を繋いで部屋を出ていく二人。
むかついて、どうしようもなく苛立ってソファを蹴り上げた。
もともと自覚はしていたが、恐ろしいほどに独占欲の強さを感じていた。
* * *
それからしばらく経っても、二人は戻って来なかった。
そういえばアラシは「おはよう」も言わなかったし、目も合わせなかった。ライ。ライ、ライ。ライばっかり。
指でテーブルを叩いても気晴らしになんかならなくて、拳で叩くとテーブルが割れた。
相当、苛ついてるようだ。
外に出ると、なぜかライがひとりでいる背中が見えた。
アラシはいない。どこにもいない。
あ、殺せる。
今なら、またアラシを取り戻せる。
そう考えると、俺の掌には光が溜まっていて、気付くと虚閃を放っていた。
「馬鹿野郎ッ!」
そう言いながら長い腕を伸ばして俺の邪魔をしてこようとしたのはノイトラだった。
けれど、一歩、遅かった。
力を圧縮した閃きはもう放たれていて、真っ直ぐライの背中に向かっている。
「あ、グリムジョー! …え?」
ノイトラの声に気付いたアラシがひょっこりと顔を出してきた。
ライの前から。
ライの体に隠れて見えなかっただけで、霊圧が同じで二つあるとも気付かないで、冷静さを欠いて、俺は、よりにもよって一番大事な奴に虚閃を撃った。
閃光は直列に並んだアラシとライの体を、二人共々貫いた。
急に、昔を思い出した。
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