[ 5 / 7 ] 俺のベッドの横に並んだ椅子がふたつ。 椅子は向かい合うように置かれ、椅子との間にちょうど高さを合わせるようにチョッパーの医学書が平積みされている。 そしてそのうえに薄いシーツが掛けられた。 「ま、そうなりますよねー」 俺が女部屋に行くわけにもいかず、こういうことになった訳なのだが、なんでお前は何も言わずに椅子の方に寝転がってんだ。 「おい、お前がベッドに行けよ」 「その大きい体でここに寝られるとでも思ってんのかい」 「寝られる」 「無理だね。ゾロの肉体なめたらいかん」 「寝心地悪いだろうが」 「私の特技はどこでも寝られる。しかも微動だにしない。適材適所。早く寝よ。疲れた」 言ってる傍からアラシは瞼を閉じて、寝息を立てはじめた。 明日は俺が椅子で寝てやろう。交代といえば、こいつも了承するだろう。 ベッドに横たわると、思いのほか俺も疲れていたのか、どっと体の重みを感じた。 目を閉じる。 同時に意識が遠退いた。 * * * * * ふと目が覚めた。 何でなのか、わからない。 まだ夜中であるしルフィのイビキも聞こえてる。 本来なら朝まで起きないのだが、どうしたものか。 寝返りをうとうと体をひっくり返して、しまった、と思った。 手錠のことをすっかり忘れていた。 気付いたときには既に遅く、寝返りとともに腕を引っ張ってしまって、つられてアラシの体も傾いてしまった。 スローモーションで椅子から落ちていくアラシ。 「ちょ、待っ!」 またもや間一髪、右腕一本で抱き止めた。 足だけが椅子に乗ってる状態で、元に戻すよりベッドに引き込んだほうが楽だと判断した。 ずるりとベッドに寝かせ、毛布を掛けてやる。 すると、今度はアラシが寝返りをうった。 俺の方に。 なんでわざわざ俺の方に寝返るんだよ。 「微動だにしないって言ってたじゃねえか…」 胸の上にあるアラシの頭。 撫でてやるとその頭の小ささに驚かされる。 俺の気も知らずに眠りこけるアラシ。 寝よう。俺も寝よう。 寝られない。 アラシが震えているからだ。 椅子の上で寒かったのか、体も冷たい。 俺も体勢を変えてアラシを抱き締めてやった。 向かい合わせになる体と顔。 唇にアラシの吐息がかかる。 目を瞑って耐えようとしたけれど、逆効果だった。 アラシの肌と香りがぶわりと俺の体を支配し始める。 沸き上がる欲望。 我慢しろという俺の良心。 貧弱な葛藤が行われたあと、 心の中で舌打ちした。 あっさりと白旗をあげた俺の良心。 気付けば欲望のまま、アラシの唇に俺の唇をぶつけていた。 「くそ…全然寝られなかった」 何とか理性を取り戻した俺は、ようやく朝を迎えていた。 隣で未だに眠っているアラシに異様に腹が立って、額をべしっと叩いた。 「ぐ」なんて顔を歪めたくせにまだ起きる気配がない。 溜め息をつくのと、コックが部屋に入ってくるのはほぼ同時だった。 「てめえ! なんでひとつのベッドで寝てやがんだああ!」 頼むからこいつをどうにかしてくれ。 list haco top |