背中に縋って引き留められたなら | ナノ アナザー・企画



  05 たとえこれが勘違いだとしても


05.たとえこれが勘違いだとしても


アークエンジェルから降り立って、オーブの地に立った俺を待っていたのは、オーブの獅子。
カガリ・ユラ・アスハだった。


「皆、よく頑張ってくれた。
あなた方のおかげでオーブはこの地にある。本当にありがとう」


アークエンジェル、及びオーブ軍の激励の言葉をかけた。


「キラもラクスもアスランも皆無事でよかった」
「うん、ただいま。カガリ」
「ただいまですわ。カガリさん」
「・・ああ」


ひとりずつ抱擁を交わして微笑み合った。


「カガリ、すまないが。
閣議の時間だ」


後ろから、キサカの声。
カガリは頷いた。


「悪いな、今ゆっくりしてる時間もなくて。
・・・・・今度、身内だけで小さいが終戦記念パーティを主催するから、
よかったら来て欲しい。
なんたって、主役はお前達なんだから。そのときにゆっくり話しをしよう。
これからのことも」


カガリはそう言って、その場を去った。


・・*・・


「わー、嬉しいです。
私こういうパーティ初めてで!
アスランさんは?」


声を弾ませて言うのはメイリン・ホーク。
本当にカガリの言うとおり主役は俺達らしく、見知った顔ばかりがそこにあった。


「俺はそうだな。
一応、何度かね」
「何度か、私とも踊りましたわね」


そう言うのはラクス。
俺は苦笑した。ラクスとの婚約時代。
音楽とステップがなかなか合わずに苦労したワルツ。
アスランは思い出した。


「えー、何それ。いいな」


羨ましそうに言うキラ。
それはいつもの光景だった。
ただ、カガリの立ち位置にいるのがメイリンに変わっただけの。
だけど、その違いは大きくて。
アスランは寂しさを覚えた。


「あら」
「わぁ」


会場が一気に沸いて。
視線をその先に伸ばすとドレスアップしたカガリの姿。
黒の細身のドレスに金の髪が栄えて人目を惹いた。
アスランは思わず、感嘆の声を上げる。


「アスハ代表綺麗・・」


同じように見とれるメイリンにアスランは微笑んだ。


・・*・・


「キラ、ラクス、アスラン、メイリン。
本日はよく来てくれた」
「こちらこそ。
カガリ、とっても綺麗だよ」
「カガリさんにお呼ばれしたのですもの。
当たり前ですわ」
「あの、お招きいただきありがとうございます!」


アスランは仲良く会話する3人をじっと見詰めていた。
いつのまにか、会場に音楽が溢れ出し、カガリがキラとラクスにダンスを勧めた。
キラは先ほどの話しもあったからなのか、顔を紅く染めラクスを誘い。
ラクスも微笑みその手を取った。


「お前達も踊ってきたら?」


優雅な動作で踊る、キラとラクスを眺めていたら突然のカガリの言葉。
・・・・え?


「そんな、アスハ代表・・//」
「・・・・・・俺は遠慮する」


なぜ?
と頭を傾けるカガリに問いただしたくなった。
じゃあ、逆にどうしてメイリンと踊らなければならない?
しかも、恋人であるはずのカガリの目の前で。


「そ、そうですよね・・」
「・・・・・カガリ、話しがしたい。
いいか?」
「え?」
「これからのこと」
「・・うん」


アスランはメイリンに謝って、カガリを連れ出してバルコニーに出た。


「今後のことなんだが、俺は「・・・・・・・メイリンちゃん。かわいいな」
「え?」
「お前らすごくお似合いだ」


突然、俺の言葉を遮り放たれたカガリの言葉はまるで頭を鈍器で殴られたほどの衝撃だった。


「何を言ってるんだ?」
「言わなくてもいいよ。わかってる。
プラントに戻るんだろう?」


カガリは微笑んだ。
それはこちらが戸惑うほどの穏やかな笑み。


「何を・・」
「ラクスが議長になるって・・、キラはラクスと一緒にプラントに行くと聞いた」


それは自分も聞いていた。
議長になる決心をしたラクス。

そして、そんなラクスを支えたいというキラ。


「お前も一緒に帰るんだろう?」
「俺はオーブに帰るよ。
それに、おれの帰る場所はプラントじゃない。オーブだろ?」
そう、俺の帰る場所。それはカガリの元。
「・・・・・・・・メイリンは?」
「え?ああ、メイリンはたぶんプラントに帰ると思うが」
「なんで?」
「?」


先ほどから、どうしてカガリはメイリンの話しをするのだろう。
確かに彼女の将来も今後考えていかなければならないことである。
俺のせいでザフトを裏切らせたのだから。
だけど、今カガリと話したいのはそういうことではない。


「・・・・・・・お前はメイリンと付き合ってるんだろ・・?」
「!!!!」
「だから、別にオーブに変な恩を感じなくても、
プラントに戻ればいいよ」
「カガリっ!!!」
「なんだよっ、怒られるようなこと言ってないだろう?」
「カガリ!!」


キッと強くアスランがカガリを睨んだ。


「俺はオーブが好きだし、帰りたいと思ってる!
変な恩って何だよっ!
オーブには感謝してるし、それのどこが変なんだよっ!」
「・・・・それがだろ?
オーブはお前を縛ってる。
・・それは私もだが」


俯いたカガリにアスランは困惑した。


「カガリ・・?」
「変なのはお前だろ?
この前は自分から、オーブを去ってプラントに行ったのに。
どうして、今回はオーブを離れるのを戸惑うんだ?」
「あの時とは事情が違う」
「一緒だよ。今も前もプラントはお前を必要としている。
・・・・・そうだな、あの時は私はお前を必要としていた」


はっとアスランが息を飲んだ。


「けど今、私はお前を必要としていない」
「・・・俺がザフトに戻ったことがカガリを傷つけていたなら、謝る。

俺が浅はかだった。
けど、君だって」
「アスランと国を天秤にかけて、オーブを選んだ?」
「っ!」


冷たい空気が流れた。
そして、カガリはふっと笑う。


「わかってる。愛想を尽かされても文句も言えないことをした」
「そういうことを言っているんじゃない!」
「じゃあ、何だっていうんだよっ!
もう、いいだろう!?」


カガリは強くアスランの胸を突き飛ばした。


「カガリっ!!
俺はカガリが好きだ、守りたい、だからオーブにいたい。
それなのに、なんでプラントに戻れなんて言う!?
メイリンとは何でもない、ただ命を助けてもらったことに感謝はしているけど・・」
「・・・・・」
「カガリ!」
「私だってだろう?」
「え?」
「私だってメイリンと同じ。
私がお前に『生きろ』なんていったから。
お前はそれに恩みたいなものを感じて愛と穿き違えているんだよ。
アスランが私のこと好きだなんて、真っ赤な嘘」


トンとカガリがアスランの胸を押した。


「・・カガリ?」

「もう、疲れた。
私達は勘違いの恋だったんだよ。
別れよう・・」
「勘違いって何だよっ!!
俺は君が好きだ、大好きだ、愛してる!!」
「・・・それでも、勘違いなんだよ」
「どうして、カガリは俺の言葉を信じない!?
なら、この数年俺の君への思いを偽りだと否定するのか?」
「・・・・そうだ」


急激に頭が冷えていった。
今の彼女に何を言っても無駄だと。


「分かった別れよう。
カガリがそれを望むのなら・・・」


アスランはカガリに背を向けてバルコニーから出た。
残されたカガリは溢れそうになる涙をぐっと堪えた。
大丈夫。
私は間違ったことをしていない。
これで、アスランは自分の道を歩いていける。
・・・・・私は、正しいことをしたんだよな。
強く噛んだ唇から紅い血が流れた。






アスランのことが大好きだった。


守ってやりたいと思った。


傍にいたいと思った。


生きて欲しいと思った。


傷ついて欲しくないと思った。


笑って欲しいと思った。


幸せになってほしいと思った。


だから、別れを選んだ。





それでも、私の心にずっとアスランはいるだろう。
何年経っても、変わることなく。


「バイバイ、アスラン」


だから、私は生きていける。


・・*・・


アスランはパーティから早く抜け出したくて、早足で会場を横切る。


「アスラン君」
「・・・・・・キサカさん?」


そして、俺は立ち止まった。
キサカはゆっくりと微笑んだ。


「君と話がしたい。いいか」


俺はゆっくりと頷いた。


「カガリと話はしたか」


俺はコクリと頷く。


「だろうな。君がそんな顔をしている理由はそれしか思いつかないからな」
「・・・・・・・振られてしまいました。
俺はカガリを好きじゃないんだと。勘違いなんだと。
そんなはずないのに。
こんなにもカガリを見ると心がときめいて、こんなにも求めているのに・・」


気を緩めるとさきほどのカガリの言葉が思い出されて。
アスランは目を瞑った。


「・・・・正直、君たちの想いがどれほどのものか知らぬさ。
それが勘違いなのか。そうでないか。
君たちの出会いは異質だ。依存しあった関係であるといっても否定は出来ない」
「・・・・」
「けれど、私はそういう恋の始まり方もあるのだと思ってはいる」
「!」
「君たちを見ていると特にな。
君はこれから、どうする?」


キサカは微笑んだ。


「・・・・・わかりません。ついさっきまでは当然のようにオーブに帰ろうと考えていました。
けど、正直わかりません・・」
「・・・明後日。プラント行きのシャトルが出る。
明日・・午後5時」
「?」
「それまでに君がもし望むのなら、オーブ軍へ来い」
「・・・え?」
「私はこれでも『カガリ』の味方でね。
あの子を望むことをしてあげたい」
「なら・・」


カガリが望むこと。それは俺がオーブを去ることではないのだろうか。


「言っただろう。『カガリ』の味方だと。
無論、『オーブの代表カガリ・ユラ・アスハ』の敵にあるわけではないがな
優先するのは『カガリ』の想いさ」
「キサカさん・・」
「これでも、首覚悟だよ・・」


ふぅーとキサカはため息を吐く。
全く意地張りで困るよ。キサカは微笑んだ。
アスランはそんなキサカをまじまじと見つめる。
そして、ふっと肩の力が抜けたように笑った。


「キサカさん。
俺、決めました。オーブに残ります。
カガリの傍にいれなくてもいい。
カガリの力になりたい。
よろしくお願いします」


そう、たとえこの恋がカガリの言うとおり勘違いだとしても。
それでもこのカガリを守りたいという想いは、真実だから。
どうか・・。
焦らなくていい、夢は同じだ。
たとえこれが勘違いだとしても。




・・*・・
アスカガ悲恋話を書くと基本的に同じに話になってしまうのが悩みの種です。
一番悩んだのは別れ話のところ。
カガリが別れ話を切り出してアスランが了承するところですね。
アスランが了承する以降の話を先に書いてたので、アスランに別れを了承してもらわないといけないのに。なかなか(笑)。
カガリが悲観になっててアスランが冷静だとこのカップル壊れないと思いますね。
うん。アスランが粘り勝ちしそう。
けど、今回も無理やりそうしたんですがカガリが冷静でアスランが悲観というか熱いというか頭に血が上ってると別れ話が成立する危険盛大です。
アスランは出来るだけ冷静でいてください。


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