背中に縋って引き留められたなら | ナノ アナザー・企画



  幻燈師 02


幻燈師・act2


「では」


ラクスはにっこり笑って、意識を集中させた。


「!!」


ふっと、現われたのは昨日とは比べ物にならない綺麗な景色。
ムラの無い綺麗な澄み切った空。
そこに浮かぶ、妄想の入っていない綺麗な真っ白な空。
そして、バランスの取れた色の草原。
キラは思わず感嘆の声を漏らした。・・・綺麗だ。


「すっすごいわ。
ラクスさん、とっても綺麗」


母も絶賛のようで手を叩き喜びをあらわしている。
その母の様子を見てラクスは顔を綻ばせた。
けれど、再びラクスは意識を集中させた。
すると、さっきまで綺麗な青だった空がだんだん橙色になっていく。


「これは、夕焼け・・・?」


それは、僕が昨日ラクスと一緒に見た夕焼けだ。
昨日のグラデーション、変わっていく空。
・・・凄い。こんなの・・。
僕でも出来ない。



「どうでした?」


ラクスが顔を照らせてかこっちを向いた。


「あっうん。すごかったよ」


ラクスは凄く嬉しそうに笑った。


「ラクスさん。凄いわ。
景色の変動は二年生での課題なの!!ラクスさん文句なしの合格よ!!
後はキラね。これから練習一人になるけど頑張るのよ」
「頑張ってくださいね。キラ」


・・・え?

『これから練習一人になるけど』


当たり前だ。
ラクスは合格したんだから。
・・忘れてた、そんなこと。


「キラ!」
「え?」
「昨日の空、表現できてましたか?」


『一人になるけど』


あの二人の時間は無くなる。
・・・。



「でもさ、あれって僕の発見でしょ。
それやるなんてちょっとずるくない?」


違う。そんなの言いたいわけじゃない。


「僕の発見取らないでよね」



違う。

そんなの言いたいわけじゃない。

もっと、ちゃんと凄かったって、そう言いたいのに。


「・・そうですわよね」


ラクスが教室に帰る廊下で歩みを止めた。


「・・・・!!」
「ちゃんと自分で気付くべきでしたわよね。

・・ごめんなさい」
「ちっ、ちがう。

そういうこ「今度からはちゃんと自分で考えて頑張ります。
今度も魅てて下さいね」
「へ・・?」
「早く戻りましょう。昼休みが終わってしまいますわ」
「・・うん・・」



よかった。笑った。


「あっそうですわ。私図書館で借りたい本があったのですわ」


でわ。そう言ってラクスは今まで歩いていた廊下を逆方向に歩き出した。
ラクスが角を曲がったところで、僕は思いついた。


「ラクス。向こうからの方が近・・み」


ラクスの後を追いかけて、曲がり角でラクスに声をかけようとした。
・・・・。

ラクスが目を擦っていた。

凄く悲しそうな顔をしていた。
僕が傷つけた。
キラは拳を握った。
ラクスは静かに涙を流していた。


『ずるくない?』
『僕の発見取らないでよね』


自分の言葉とラクスの言葉が離れなかった。


『ごめんなさい』



・・・ラクス。

ごめん。


・・*・・


家に帰って、キラはソファに座っていた。


「(ラクス・・・)」

「キラ。何沈んでるんだ?」
「カガリ?」
「・・あの女の子のこと?」
「うん」
「そっか」


カガリはよしよしって頭を撫でてくれた。


「どうしたら、いいのかな?」


放課後にラクスに謝った。
ごめんって。
ラクスは


「本当のことでしたから気にしないで下さい」

と言った。
ラクスにとっては終わったことなんだ。
だけど、僕は・・・。



「キラーーー!!!」
「「!」」
「ただいま!!」
「あっ母さん、お帰り」
「ただいま、カガリ。ちょっと近く寄ったから来たのよ。
相変わらず綺麗にしてるのね」
「ありがとう。私、晩御飯の用意してくるね」


カガリはそう言って部屋を出て行った。


「はぁ〜」
「何よ。ため息ついちゃって」
「・・・」
「カガリ。補習テスト合格してたわよ」
「えっ?嘘!」
「本当。母さんびっくりしちゃってカガリの担任に聞いたら凄い良かったって
あの子もちゃんと私の血が流れてるのね。
まぁあの子の努力の賜物だろうけど」
「そっか」


僕だけ置いてけぼりか。



「どうしたのよ。そんなに落ち込んじゃって」
「母さん、思いを伝えるのって難しいね」
「ラクスさん?」
「なんで!!」
「キラ見てたら分かるわよ」
「///////」


うわ〜。恥ずかしい。


「けど、どちっもどっちじゃないかしら?」
「え?」
「キラに伝わってる?ラクスさんのあの幻燈」
「?・・・伝わってるよ凄い綺麗だったって」
「ほら伝わってない」
「?」
「あの幻燈はキラに魅せたかった空でしょ?」


・・・・え?
まさか、ラクスは僕が褒めたあの空をもう一度見せたくて?



『キラ。絶対見ててくださいね』
『昨日の空、表現できてましたか?』


なのに.・・僕は。


「母さん!ラクスの家の住所知ってる!?」

「えっ?そりゃ知ってるけど...」
「教えて?」
「・・・」
「じゃあ、町だけ!」


渋る母親にキラは懇願した。



「ラクスさん家はプラント町だよ」


それを告げたのは妹のカガリ。



「「カガリ!」」
「ありがとう」


キラは家を飛び出した。
会えるかも分からないのに。
片手には幻燈機、僕の魅せたい幻燈。
ラクスに魅てもらいたい。


・・*・・



「キラ?」


・・・え?


「・・・ラクス」


声がした方を見たらそこにはラクスがいた。


「良かった」
「?」
「ラクスに魅てて欲しいんだ」
「・・?ええ」


キラは意識を幻燈に集中させた。
僕がラクスに知って欲しい思い。


「凄いですわ」



初めてキラの幻燈を見たラクスは感動している。
キラはなんだか凄く嬉しかった。
「・・・」
「!」


すっと白のワンピースを来たラクスがふわっと現われた。


「・・・」
「私?」


僕はあの時本当に凄いと思った。
ずるいと言ったのは羨ましかったから。
とるなって言ったのは寂しかったから。
ラクスがあの時魅せてくれたみたいに今度は僕が君に魅せたい。
こんなにも変えられていること。
こんなにも君に惹かれていること。
こんなにもラクスの存在が――――


「そっその以上です/////」


恥ずかしい。今なら僕恥ずかしさで死ねる。


「凄かったですわ!」
「え?」
「人を幻燈出来るなんて!!」


・・・まさかこれって伝わっていない?


「これなら絶対合格ですわ!」
「/////」


ねっとそう言って笑うラクスを見ていたらなにも言えなくなった。


「また一緒に頑張りましょうね」
「・・っ/////」


伝えるのは難しい。
けれど、・・・ま いっか


「そうだね」


まだ、この空には続きがありそうだ。

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