幻燈師 01
幻燈師・act1
K*L
幻燈師の学校、アカデミーの教室の一角。
先生らしき人がこう言った。
「キラ。
じゃあ、テーマは空と草原」
目の前にいる、キラと呼ばれた少年は静かに頭の中に景色を浮かべた。
そして幻燈機と呼ばれるものにそれを通す。
すると、まわりにふっとキラが想像(イメージ)した景色が想像世界(イメージ)が具現化する。
言われた通りの透き通った青そして白。
下には黄緑色の草原。
「・・・・」
さすがだ。キラには才能がある。
私譲りの。
「・・・・!!!」
急に魅せていた景色が子供が落書きしたような景色になった。
「以上。僕の幻燈でした」
「キラーーーー!!!」
「何?」
「何?じゃない!どうしてキラはそんな途中で適当にして終わらせるの!
・・・カガリはちゃんとするのに」
「カガリは一生懸命なんだけどね・・・」
「・・・」
「・・・」
二人は遠くを見た。
「はぁ〜。ともかくまた不合格。どうするのよ。これに受からなきゃ進級できないわよ」
「・・・」
「まぁいいわ。キラがその気ならこっちにも考えがあるわ。
明日また放課後ここに来るのよ」
「分かった」
僕は幻燈師が嫌いだ。
理由は母を見てきたから。
母はこの学校の先生であると同時にプロの幻燈師でもある。
毎日来る大量のオファーに大量の人付き合い。
大量のサインに大量の中傷。
そして、あきらかに疲れて帰ってきた母を心配した僕達双子にげっそりした顔で言った台詞。
「しあわせよ」
子供ながらに思った。
絶対にこうはなりたくないと。
双子の片割れであるカガリはそんな母に憧れて幻燈師になりたいと思っているみたいだが、
僕は違う。僕は蝉のように生きたい。
何年も土の中にいて地上にでて一回ぱっと花を咲かせる。
そんな感じに。
「大体この学校だって、母さんが無理やり」
嘆いたところで、どうにも成らないんだけど・・・。
進級試験に落ちて絶対普通の高校に行ってやる。
・・*・・
「初めまして、ラクス・クラインですわ」
「初めまして」
なるほど。
そうきたか。母が考えそうなことだ。
協力させてやる気を出させようとしているんだろう。
「今度の補習、ラクスさんとやってもらうから。ちゃんと練習するのよ」
「よろしくお願いします」
彼女はふわりと笑った。
母は「じゃあね」と二人を残して部屋から出て行った。
「あの、キラとお呼びしてもいいですか?」
「えっあっうん」
彼女の顔が明るく輝いた。
「私のことはラクスとお呼びくださいな」
「うん」「キラの方から先にしますか?」
「ううん。ラクスからして」
「では」
彼女は幻燈機えを片手に目を瞑った。
ふわりとラクスの雰囲気通りに景色が現れる。
次のテストもテーマは空と草原。
ラクスが想像した空。
それは・・・。
「・・・ぶっ」
キラは笑ってしまった。
空と言えば思い浮かぶのは、水色の空と白色の雲だ。
いや、うん。ちゃんと空なんだけど。
雲に顔がある。
しかも眉毛濃いし。
・・・・なんか中年オヤジ的なものが。
「あら、また」
よかった。
僕が笑ったのは気付かれなかったみたい。
「もう一回!」
必死だね。まぁ本来そんなもんだろうなぁ。
幻燈師は才能のある人しか成しえない。
憧れの職業。
けれど、僕は知っている。
確かに地位も名誉も手に入る。
けど・・人生が駄目になる。
「ラクスはどうして、そんなに幻燈師になりたいの?」
「えっ?」
意識を集中していたラクスはキラの声で目をあけた。
「あっごめん邪魔した」
「いいえ。
私は・・・魅せてあげたい人がいるんです」
「魅せてあげたい人?」
「はい。私の祖母ですわ。
おばあちゃんは幻燈師なんです。
私はそんなおばあちゃんにたくさんのものを魅せてもらいました。
ですから、おばあちゃんにわたしの幻燈を見て欲しいのです」
駄目ですか?ラクスは首を傾けた。
「ううん。凄いね、ラクスは」
「・・/////」
そんな考え方もあるんだ。
身内用か・・・。
僕にもそんな人がいたらな
・・*・・
「お帰りキラ」
「ただいま。カガリ」
今は双子の片割れと二人暮しだ。
結構充実してる。
「カガリは補習の練習、出来てる?」
カガリは、僕と同じアカデミーの生徒だ。
才能はともかく・・・。
「うっ!」
「頑張れ」
「うん!」
カガリには、幻燈を魅せたい人はいるのだろうか。
どうして、アカデミーの生徒は幻燈師になりたいんだろう。
僕は・・・幻燈師なんて嫌いだ。
「なぁ、キラ。
お手本みせて」
「いいよ」
そう言って僕はスクールバックから、青と白を基調としたランプの幻燈機を取り出した。
キラはすっと深呼吸した。
ふわり。
幻想的な世界がそこに現れる。
「うわぁ」
カガリが感嘆をもらす。
「・・・?」
「!!」
僕が作る幻想。
それは、いつものように、テーマ通りの空と草原。
けど、昨日までとは違うそれ。
・・・・ラクス。
「女の子?」
カガリは初めて見る女の子に戸惑う。
その子は、真っ白なワンピースを身に付け草原を微笑み歩いていた。
時折振り向いて、歌を口ずさんで。
「妖精みたい・・」
カガリはそう口にした。
「////////」
キラはカガリとは別の意味で戸惑っていた。
・・・・人間の幻想は凄く難しいって聞いた。
それは、その人のことをちゃんと立体的に記憶していなくちゃいけないからで、
その上、それを実体化するには大変な集中力がいるからだ。
というか、僕ラクスに今日会ったばっかりなのに、
そんなにラクスのこと印象に残ってたのか??
うわ〜////。
すっと、幻想が消えた。
「・・・・/////」
「キラ?」
カガリが心配そうにキラの顔を覗き込んだ。
キラの顔は今までに無いくらい真っ赤だった。
「どうしよう、カガリ・・・//」
「?」
「僕、人をすきになっちゃたかも知れない...////」
しかも今日会ったばかりの人に。
「おめでとう。キラ」
よかったねってカガリは笑った。
その笑顔がラクスとどことなくだぶった。
・・*・・
「今日もキラは幻燈を魅せてくださらないのですか?」
「あっうんごめん」
幻燈にラクスが出てこなければ魅せられるんだけどね。
・・というか、それってほとんど告白したも同然だし。
あれから、二人は放課後教室で補習の練習を行っていた。
ラクスの幻燈は少しずつだけど、レベルが上ってきていた。
むらがあった空はどことなく均等になってきたし、雲の模様も消えつつある。
相変わらずラクスは一生懸命に練習をしていた。
そして、僕はそんな彼女を見ていた。
「ふ〜」
「疲れた?」
「ええ」
「出来具合は?」
「空が絵の具で塗ったみたいにべたべたになってしまって・・・」
そう言って、ラクスは窓を開けた。
「夕焼け」
「綺麗ですわね」
ラクスが開けた窓には綺麗な夕焼けが広がっていた。
陽が落ちて空は焼けるような橙から夜の深い群青へ・・・・。
「グラデーション」
「?」
「水平線にかけてあんなに色が違うんだなって」
「本当。凄い移り変わりですわね」
ラクスは感動したようで、夕焼けを眺めていた。
・・・って何言ってるんだ。僕。
・・・・前なら絶対気付かなかったよな。
それは、ラクスに出逢ったから。
「変わるっていうのも悪くないかもね」
キラは夕焼けを眺めた。
変わる。
景色もそう、そして自分も。
「綺麗だ」
ラクスは夕焼けを眺めるキラの顔をじっと見つめていた。
・・*・・
次の日の昼休み、キラは母に呼び出された。
もちろん教師としてだ。
「母さん。何?」
「いっらしゃい。突然ですが、ラクスさんのテストをします」
「・・・何で僕が呼ばれるの?」
「私が呼んいただいたのですわ」
「?」
「キラ。絶対見ててくださいね」
「うん?」
キラは疑問符を浮かべながらも頷いた。
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