背中に縋って引き留められたなら | ナノ アナザー・企画



  restart/運命後・同志なシンとカガリ


restart



トントントンと音がする。
階段をリズミカルに下りる音。
コンクリートの階段を下りると一面に海が開けて、
そしてその場所には俺の家族の慰霊碑があった。


「なぁ、アスハ?」
「・・?」


俺は足を階段で止めて口を開いた。
正直俺がここにアスハと一緒に来る日なんて来ることを誰が想像しただろう。
きっと俺もこいつも死んだ家族ですら想像していなかった。


「付き合ってくれてありがとう」
「ああ・・。
今日はな割と気を利かせてくれる人が多いんだ。
明日は父様の命日だから・・」



明日はオーブが一度滅んだ日でもあるから明日は式典が行われる。

だから国家元首のカガリはゆっくり父の命日を過ごすことも出来ない。

その上での計らいだ。



「(だからこそ、

せっかくの休日を俺なんかに費やしていいのかって聞いてるんだけどな・・)」

「・・」
「・・」


2人は無言になった。
別に不思議でも何でもなかった。
俺たちが階段を降りる酔うにリズミカルに話をすることなんて滅多にない。
それは今でも同じだった。


「ここさ、・・・ここでマユが、俺の妹が携帯を落としたんだ」
「携帯?」
「そ、避難の途中に、それで携帯は滑り落ちて木にぶつかって止まったんだ」


そう言ってシンはかつて木があった場所に目をやった。
そこには木はなく数々の緑と花がそこを埋め尽くしていた。

オーブも随分と復興したもんだ。
カガリは何も言わず、立ち止まったシンに文句を言うこともなくそれを静かに聞いた。


「母さんは諦めなさいって言うけどいつまでたってもマユが叫ぶもんだから、俺が坂を下りてそれを取りに行った。
その直後かな?
後ろで爆発したんだ。モビルスーツのビームが、さ。
フリーダム・・のだったのかなぁ?
それで俺は吹き飛ばされた。
そして、目を開けたら、・・・皆丸焦げだったよ」
「・・・・」
「今でも夢を見る。
悪夢だ。

さっきまで一緒に歩いていた家族が次の瞬間いないんだ。
死んだんだ。
それも腕も、体も、全部バラバラで・・」
「・・・・・・・・・」
「それで、取りにいった携帯が妹の形見になった。
皮肉だよ」
「・・・・・・・」
「・・・黙るなよ、空気重くなるだろ?
ほら、行くぞ」



シンは笑った。

空が青い。

あのときも、こんな風だった。



「あいつら結構ミーハーだかたら驚くかもな。
・・あっ、けどあんたここによく来るんだよな。
業務とかで・・・」


ふわりっ
後ろから回される腕。


「カガリ・・?」
「・・」
「・・別にお前のこと責めてないだろう?」
「・・・私・・シンになんて言って・・・あげたらいいか分からないっ」


シンは笑った。
何だか、少し可笑しかった。


「泣くなよ、せっかく慰めてんのに泣かれたら俺立場ないだろう?」
ひどいことを言っても笑っても結局カガリは泣くばかりだ。
「あんたは、そういうの分かってるだろう?」
「・・・・」
「なぁ、カガリ?」
「?」
「・・・・カガリは俺達ってなんか似てるかもな?」
「え?」
「わかんねぇ、けどなんとなく似てる気がする・・。
考え方とか境遇とか。
なんとなくだけど・・」
「そうかもな・・。
私もな、友達が死んだときってシンみたいに思った。
殺した相手が憎くて、悔しくて。
その、な、お母さんに形見をもらったんだ。
あの子はきっと私にあげたかったはずだからって、
マラカイトの原石。
加工してあげるつもりだったんだって・・、
それはきっと出来上がって、本人からもらったら凄く嬉しかったんだろうなって思った。
けど、それは二度と本人から貰うことはないんだって思ったら、
凄く悲しかったな・・」


嗚呼、やっぱりこいつは俺と似ているかもしれない。


「・・・・俺達不幸大会してたら、誰にも負けるきしませんね」



それは矛盾していたが俺達は誰よりも辛い思いをして、
立ち上がってここにいるという意味では誰にも負ける気がしなかった。


「そうだな・・」


カガリは笑った。
少し無理をしていたのかも知れない。


「あー、もうシンがくらい話するから、私までくらい話しちゃったじゃないか!
シンの馬鹿!」
「はぁ?
俺のせいかよ?」
「シンのせいだろう?
なんだよこの湿っぽい空気!」
「言ったな!!」


俺はカガリのほっぺを強く引っ張った。


「ひ、ひたひ〜」
「何言ってんのかわかんねぇよ」
「ひんのはか〜」
「言ってろ言ってろ」


そうして俺達はじゃれているのか本気で喧嘩しているのかも分からない組合を長く行った。

「なぁ、シン?」
「ん?」
「今更だけどいいのか?」
「何がっすか?」
「私が花を添えて・・」
「それこそ今更ですね、あんた今まで「それとはまた意味が違うだろう?」
「・・・・さっき暗い話が嫌って言ったくせにまた暗い話をしようとしていますよ?」
「・・・ん」
「いいんすよ。
それが俺の始まりになりますから」
「始まり?」
「はい、こらからが俺の人生です。
今まで、家族の為にがむしゃらに戦って、戦って。
守りたい者のために戦って戦って、
だからこれからは自分のために生きていこうと思うんです。
もちろん守りたい者は守るし、
自分が積み上げてきた今を否定するわけではないですけど。
これが、これからが俺のリスタートです」
「・・再出発か」
「・・人が英語でかっこよく言ってんのに、わざわざ訳さないでくれますか?」
「うん。いいな、それ」


人の話聞いてないですね、この人・・。
やれやれとシンは笑った。


「・・・だから、あんたはそういう人を守ってくださいよ。
俺達をさ」
「うん。
けどちょっと今ので考え方変わったな・・私も。
国のためとか、お父様のためとか誰かのためとか何かのためとかじゃなくて、
自分のために生きていくのが一番いいのかも知れないな。
少しわがままになってもいいのかも知れない。
ありがとう、シン」
「どういたしまして」
「じゃあ、花添えて下さいね」
「ああ。
喜んで添えさせて貰うよ。
もう、こんな悲劇を起こさないように努力する。
それは何為でもなく自分の為に」


カガリは笑った。
連られてシンを笑った。
そう、俺達の道はここから始まる。

・・*・・

君は何のために兵士になったの?

力が欲しかった。


どうして?

大切な人を守りたいから。


大切な人って誰?

・・もう俺には大切な人なんていない。
けど、俺は力を求めた。
それはきっと、やっぱり家族のためだったのだろうか?
だから、俺はいつまでも前を向けない。
だから、俺は大切な人を守れなかった。

そんな話。
暗い話なのに読んでいただいてありがとうございます。



prev next

[back]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -