背中に縋って引き留められたなら | ナノ アナザー・企画



  命/運命後・同棲(猫→バンソーコエードの続編)






「シン、大丈夫か?」
「・・ん、昨日より大分平気」


季節の移り変わりに風邪を引いた。
さっき熱を測った37度あった、昨日は38度だったから少しは引いているようだ。


「・・やっぱり私仕事休もうか?」
「いいよ、別に。
診てもらったし、薬も貰ってきたんだし。
今日一日ずっと寝てたら治るよ」


スーツを着て俺のベットの横でカガリが俺のおでこに手を当てる。
冷たくて気持ちいい。
けどもう出かけないと遅刻する時間なのでカガリの手をゆっくりとどける。


「・・・」
「そんな顔すんなって、
俺が休む分まで働いて来いって」


俺はそう言って笑ったけれどカガリの表情は変わらずだった。


「・・それに、カガリが傍にいたら襲っちゃいそうだし」
「・・っ!//」
「な♪」
「・・馬鹿。
分かった行ってくるけど。何かあったら絶対電話入れろよ?
帰ってきたらシンが死んでるとか絶対嫌だからな」


大げさだなとシンは笑う。
けど、そうやって心配されるのがなんだかすごくこそばゆい。


「おかゆでよかったら、お昼作っておいたから」
「うん。ありがとう」


他に何か言うことあったけとカガリは考える仕種をする。
そんなカガリを見て、本当に遅刻するぞと少し心配になった。


「・・Shinn一緒だけど、平気だよな?」
「・・・ぁ」


Shinnというのは今や家族の一員となっている元野良猫である。
カガリには懐き俺のことを嫌っている変な猫だ。


「・・たぶん平気。
前ほど嫌われてないようだし」
「うん、たぶんお昼時には出かけるから大丈夫だと思うんだけど。
・・じゃあ、行ってきます」
「ああ、行ってきます」


パタンと遠くで扉が閉まる音がする。
見送りたかったけれど、だるい体がそれを許してくれなかった。
というかベットから出て玄関までにいこうものならカガリに起こられそうだしな。
シンはそんなことを想像して笑った。
とりあえず、今はゆっくり眠ろう。
シンは目を閉じた。


・・*・・


「・・ん・・」


目を覚ましたのはもう眠ってから随分たってからだった。
日の上がり具合からもう昼だなというのが分かる。


「・・2時か」


どうやら、すっかり寝てしまったらしい。
ベットの脇に置かれた時計が時刻を教えてくれる。
何か腹に入れて薬飲まなきゃと寝起きと熱のせいでぼんやりとした頭で考える。


「にゃー」
「・・・Shinnか」



自分の名前を付けられた猫を俺は呼ぶ。
ドアの前で小さく俺を見つめているshinnにこっちにおいでと手招きをする。
猫はにゃーと鳴いた後、俺の傍に擦り寄ってきた。


「あ、お前今日は機嫌がいいのか?」


猫が珍しく擦り寄ってきてくれたことが嬉しくて、
シンは猫の頭を撫でた。
こそばそうに俺の手に擦り寄った。


「なんだ、お前まで病人には優しいのか?」
「にゃー」


Shinnはシンのほっぺを舐めた。


「わっ」
「にゃー」
「・・・・・・お前、本当今日愛想いいな。
一緒に寝るか?」
「にゃー」
「じゃあ、寝よ。
・・って薬か、俺は。
お昼も何か食べなくちゃいけないし」


そう言ってシンは猫の頭を撫でて部屋を出た。
カガリが作ってくれたおかゆをコンロで温めて、猫のえさを皿に盛ってやる。
火が消えておかゆから湯気が立つとシンはお茶碗にそれを持って、
部屋に戻る。


「・・あれ、Shinn?」


戻ってきたとき部屋にシンはいなかった。


「薄情な奴だな」


出かけたのだろうか?


「・・・・って窓開いてるし」


俺は小さく溜息を付いて部屋の隅に皿を置いて俺はひとりおかゆを食べ始めた。


「おいし」


結構カガリは料理が上手かったりする。
と言ってもおかゆだけど。
最初は見た目が悪かったけど、おいしくて。
回数が増えるごとに見た目も味も最高になっていった。
昼を取り終わってもう一度キッチンに戻って薬を飲んでシンクに食器を置いて水をかける。
洗う気にはならなくてそのまま置いて俺はまた部屋に戻った。
そして、もう一度シンは部屋に戻り、ベットに入って眠った。
そして、夢を見たんだ。
捨てられた、猫の夢。


・・*・・


その日は雨だった。


『ごめんね、レン。
誰かいいひとを探して』


そして僕は捨てられた。
何だろう、これは。
たぶん捨てられてから随分と経った日。
僕は黒髪の男の子と出会った。


「なんだぁ、お前傷だらけだな」


なんだ。こいつ。
失礼な奴だ。
僕は思った。


「・・・・・腹へってねえか?
今、何かあったかな?」


目の前の少年はごそごそと鞄を探す。
僕は現金にもわくわくとした気持ちになった。


「悪ィ、食べ物何にもなかった」


少年はあははと笑って俺の頭を撫でた―撫でようとした。
から、僕はムッとして手を払いのけた。
それからは威嚇のポーズ。


「しゃーっ」
「んだよ、そんな怒ることねぇだろう?」


少年は少しムッとした。


「あー、もう行くから、悪かったよ。
じゃあな」


・・・あ。
せっかく僕に話しかけてくれたのに。
悪いことしちゃったな。
シュンと僕は項垂れた。
・・・・、まだ間に合うかな?
僕は塀から飛び降りて少年の後を着いて行った。


「シン」


そしてその先で少年は女の子にそう呼ばれていた。
とてもかわいらしい女の子だった。
・・・///
僕はおそるおそる彼女の足に擦り寄った。
彼女は僕に気付いて、僕を抱き上げた。
少年はそれに気付いて少し面白くない顔をした。
なんだよ、せっかく仲良しになってあげようと思ったのに。


「お前、かわいいな。
凄くかわいい」


僕は嬉しくて恥ずかしくなった。
彼女の腕の中はとても温かくて凄く安心した。


「なぁ、この子連れて帰ろうよ」
「はぁ?」

僕は信じられなかった。
けどその言葉に僕の心臓はいっぱいいっぱい鳴った。
だって嬉しかったから。
そして少年はそれを渋々了承したらしく僕を受け入れてくれた。


「よろしくなShinn」


そして僕はその日からShinnになった。
僕はその名前が嬉しくて名前を呼ばれるたびにすぐ声のほうへ向かった。
けど名前を呼んでくれるのはカガリだけだった。
それはいつからか住む場所が変わってシンも加わるようになってからも変わらなかった。
そういえばシンの名前もシンで僕の名前もShinnだけど関係あるのかな?
いつになったらシンは僕の名前を呼んでくれるのだろう。
僕はずっと待ち続けた。


「Shinn」


そして、シンは初めて僕の名前を呼んでくれた。
ありがとう。
僕は初めて自分を認められたような気がして凄く嬉しかった。
僕はシンの手につけた自分の引っかき気宇をぺロリと舐めた。
シンはビクと体を許した後、小さく僕の頭を撫でてくれた。
それはカガリとは違う手の大きさで僕はドキドキした。
僕はシンもカガリも大好きだった。


それから僕は起きている時間より寝ている時間の方が多くなっていった。
なぜだかわからないけれど、それは刻々と僕に近づいていた。
カガリは僕を心配して病院っていうところに連れて行こうとしたけれど、
その度僕は逃げ出した。
たぶん、分かっていたのかもしれない。
そんなところに行っても僕の体はよくならないんじゃないかって。


そしてそれから暫く経ったある日シンが熱を出した。
カガリが僕に「シンをよろしくな」と不安そうな顔で言ったから僕は大きく頷いた。
任せて欲しい。
カガリにもシンにも笑って欲しかったから。


僕はこっそりシンの部屋に入った。
部屋にはくーくと寝息を立てて眠っているシンがいた。
僕は笑って傍に擦り寄った。
どうか早く元気になってくれますように。


「なんだ、お前まで病人には優しいのか?」


失礼だ。
と僕は思ったけど。
僕は頷いてシンのほっぺを舐めた。
シンは擽ったそうに笑った。

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