背中に縋って引き留められたなら | ナノ アナザー・企画



  祝福/社会人・アスカガ←シン


きっかけ、っていうのか分からないけど。
目で追うようになったのはあの日から。



祝福


新入社員の俺はお昼の買出しに行かされていた。
大量のファストフードを持ちながら、
セキュリティシステムを通り抜けようとしたときのこと。


「うわ。まずっ!カード出せないし・・」


ここのセキュリティは社員カードをスライドさせないと開かないようになっている。
他人の情報が多く扱われる仕事だからそういうのには厳しい。
それは分かっているけれど、
両手を塞がれた俺にとってはそれは邪魔者でしかなかった。
けど、食べ物を下に置くのは嫌だし。
う〜ん。と悩んでいると、横からひょいと片手で持っていたファーストフードが浮いた。


「持っててやるよ」


ファーストフードの半分を持った女性はにっこりと笑った。


「あっありがとうございます」


俺はそう言って、
片手で残りを持ち直し、首から下げてあるカードを機械にスライドさせる。
ピッと機械音がし、扉が開く。


「これって、結構めんどくさいんだよな。
特に買出しの帰りなんか最悪で・・」


女の人は自分のカードもスライドさせ部屋に入った。


「・・・・はぁ」


俺は曖昧に頷いた。


「私も新人のときは結構困ったんだよな」
「・・・・先輩ですか?」


初めて、出会った女性はとてもじゃないけれど年上に見えなかった。
・・・・童顔っぽいし。


「そ。たぶん二つ上のな。
カガリ・ユラ・アスハ。
先輩の名前ぐらい覚えとけ」
「・・・すいません」


本気で知らなかった俺は頭を深々と下げた。


「・・・・お前、真面目だな。
別に敬語いいよ。こだわらないし」


カガリはフフッ・・と笑った。


「・・・・・」


俺は先輩でこんなことを言う人に初めて会ったから、目を真ん丸くした。


「・・・・買出しお疲れ、じゃあな、シン・アスカ」


カガリは半分のファーストフードを俺の腕の中に戻した。
去っていったカガリの姿を眺めながら、胸が高鳴るのを感じた。


・・*・・

『シン?聞いてるのか?』
「・・・ああゴメン。兄さんなんだったけ?」


電話口で兄さんがため息をついたのが聞こえた。
俺は早くに親を亡くしており、大学まで兄とマンションで二人暮しだった。
離れて暮らしている今でも休日にあったりと、他の兄弟よりも仲がいいと思う。


『・・・・シンに会わせたい人がいるんだ』


俺の兄さん、アスランは昔からモテて彼女もそれなりにいたようだが、
紹介されたことなんて一度も無かった。


「・・・兄さん。それって」


結婚したいってこと?


『ああ』


確かに兄さんは今年で25歳だし、適齢年齢だとは思うけど。


「騙されてないよな?結婚詐欺師とか・・」
『シン。怒るぞ』
「あ〜、ゴメンゴメン。そっかおめでとう」
『ありがとう////』


兄さんは照れながら笑った。



「シンこれ頼めるか?次の会議用に30枚」


カガリはシンに書類を渡した。


「いいですよ」


俺はにっこりと笑顔で印刷する資料を受け取った。


「・・・ご機嫌だな」
「わかりますか?」
「顔に凄い出てる。隠し事できないタイプだよな。
私は好きだよそういうの」
「・・・・・////」


なんだか顔が一気に火照った。
カガリと出会ってわかったことはこの人は天然だって言うこと。
鈍感だってこと。
いろんな人に可愛がられてて、男女問わず人気があった。
それが嫌で、俺にちょっとでも近くにいたいと言う気を起こさせた。
・・頑張って、後輩から、男に見られるように頑張らないと!
俺は心の中でそう意気込んだ。

・・*・・



二週間後、
俺は昔住んでいたマンションの一室で兄さんの婚約者に会うことになった。


「それにしても、兄さんがよくプロポーズ出来たね」
「・・・・それ言うな。練習したのにムードぶち壊しで・・」


兄さんは落ち込み気味にそう言った。


「でも、OKくれたんだから、よかったじゃん」


俺は兄さんを励まそうとそう言った。
兄さんは嬉しそうに笑った。


「シンもいい人見つけろよ」
「・・・頑張りますよーだ」


俺は幸せいっぱいの兄さんに舌を出した。
そう言いながら、俺はカガリを思い浮かべた。
年上だけど、とても可愛い女の人を。


「その人はどんな人?」
「う〜ん?天真爛漫で可愛くて、・・・・/////。
出会ったのは取引先の会社の社員さんで・・/////」
「へ〜。兄さんやるじゃん」
「だろ」


兄さんはにっこり笑った。
ピンポーン


「あっ来たみたい」


アスランはまるで、娘の彼氏に会うみたいにそわそわしだした。
・・・・誰だよ、お前。
ってか寧ろ逆だろ?
俺は心の中で兄さんにつっこんだ。
そして、玄関に向かって扉を開いた。


「・・・・・・・・・・・・カガリ?」
「・・・・・・シン?」


そこに立っているのは兄さんの婚約者なはずなのに、
・・・・・どうして俺の想い人がいるのだろう?
そこで俺の思考はストップした。


「びっくりした〜」


部屋に入ってソファに座ったカガリはシンを見てそう言った。


「偶然ってあるんだな。
本当にシンとカガリが同じ会社に勤めてるなんて知らなかった」


・・・・俺だってびっくりだよ。
兄さんの婚約者がカガリだったなんて。


「・・・・えっと。
・・今さらって気もするけど。カガリ・ユラ・アスハです。
えっと。アスランさんとは正式にお付き合いさせて頂いています////」
「・・・はい」


カガリさんが頬を染めながら紡ぎ出した言の葉はまるで死刑宣告を告げているようだった。
兄さんはカガリの左手にそっと自分の手を重ねた。
胸が痛んだ。


「・・・えっと、シン?俺達結婚するんだけど」


いいかな?
兄さんは俺にそう言った。
そんなの・・・・・・嫌に決まってる。
けど、嬉しそうな兄さんの顔を見てるのに、そんなの言えないに決まってる。


「・・・・もちろん。おめでとう」

その言葉を言うと、胸がツキンと痛んだ。
いつかちゃんと笑顔で『おめでとう』って言えたらいいなとそう思った。


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