背中に縋って引き留められたなら | ナノ アナザー・企画



  ハイヒール/運命後


どうして、どうしてそんな辛そうに彼を見つめるのだろう。
見つめるくらいなら声を掛ければいい。
そしたらきっと向こうもきっと気付いて振り返るだろう。
それどころか笑顔を見せてくれるだろう。
なのに彼女は彼の後ろ姿を見ているだけ。
ただそれだけ、・・。



ハイヒール



海岸には波が打ち寄せていた。
軽やかなリズムに合わさる、子供達の声。
ここはオーブにある小さな孤児院だった。

戦争が終わり、俺は一度オーブに身を寄せ、暫くそのままとどまっていた。
誰かさんの計らいで明日にでもミネルバ全クルーは
プラントに戻ることになっていた。
すなはち、俺も故郷であるここを旅立つ。
もう二度と来ることはないこの地を。
そして最終日はキラさんとラクスさんの勧めで俺は今ここにいた。
そして、ルナとメイリンと一緒に現地に赴いた俺は目を見開いた。
そこには誰かさん・・ことカガリ・ユラ・アスハと
元フェイスで隊長のアスラン・ザラがいた。
二人共別々に来たらしく机の上に置かれてコップからすると話が進まなかったらしい。


「・・・・シン、2週間ぶりだな」


先に口を開いたのはカガリだった。
そして、後ろのルナとメイリンを見止めて、同じように挨拶をした。
ただ、メイリンの名を呼んだカガリの表情は曇って見えた。



俺、ルナ、メイリン、カガリ、アスラン。
歳が離れているわけでもなく話題が弾むはずの五人の雰囲気は決して明るくはなかった。
いつもはムードメーカであるルナもメイリンも言葉は少なかった。
・・・こういうときこそ、誰かさんの出番じゃないのかよとカガリの方を見たが、
彼女はコップに口をつけているだけだった。


「遊ぼ〜」



そんなとき聞こえたのは子供の無邪気な笑い声だった。
天使!!
俺は心の中でそう叫び、大きく頷いた。
カガリも「いいよ」と子供に笑いかけた。
俺は後の残りも誘い海岸に出た。
昼ということもあって日差しが強かったがその分海面はキラキラと輝いていた。
その海に一人の少女を思い出した。
感傷に浸っていた俺を子供達は引っ張った。
子供と遊ぶなんて軍に従事していた俺には久しぶりだった。
それでも不思議と笑顔になった。
俺は子供と一緒に砂で城を作っていた。



「へぇ〜うまいもんだな」


そんな俺達に笑顔でカガリは声を掛けていた。

てっきりアスラン達と一緒に遊ぶだろうと思っていた俺は多少驚き、
アスランを探しメイリンと一緒にいるのを見つけ納得した。
今時三角関係かよ・・。


「お姉ちゃんも一緒にしよ〜」



女の子はカガリの腕を引っ張た。
どうやら子供は背の高い大人を呼ぶとき引っ張るようだ。


「いいのか?」
「「うん!!」」


子供達はいっせいに首を縦に振った。
黙々と俺達は城を作り続けた。
遠くではメイリンが日に焼ける〜と騒いでいた。
・・・コイツはそういうの言わないよな?
俺はそう思ってカガリを見た。
・・のわりに美人な方だし。
化粧もそんなしてないし。
そう考え眺めていると、顔を上げたカガリと目がばっちり合った。


「・・・なんだ?」
「!!」


俺はびっくりし、「なんでもない」と答えた。
カガリは不思議そうな顔をしたが再び作業に打ち込んだ。


「・・・なぁ、シン」
「?」
「私頑張るから。お前に綺麗事って言われないようにオーブを守っていく。
もう二度とあんな失敗は犯さない」


意志のある強い目でカガリはシンを見つめた。
シンは面を食らった。


「・・・・・・・・そっか、頑張れ」
「うん。で、最終目標はシンがオーブで一緒に家族と暮らすことな」


カガリは嬉しそうに言った。


「低っ!!」


俺はつっこんだ。
普通世界平和とか言うんじゃないか?
なんで、俺?


「えっホントか?じゃあ待ってるからな?」


カガリは声を弾ませた。


「ち、が、う!!」


カガリは残念そうにけど、楽しそうに笑った。
なんだか今日初めてカガリの素の笑顔を見た気がした。
そんな顔して笑うんだ。
なんだかつられて自然と自分も笑顔になっていた。
こうやってカガリと笑い合える日が来るなんて思ってもいなかった。
まだ、完全に許したわけじゃない。
けど、心のどこかでそれを受け入れている自分がいた。

いつのまにか日が沈んでいた。
海に映る夕日はとても幻想的だった。



「すげぇ、綺麗。なぁカガ・・」



俺は隣のカガリに目を移した。

そして視線の先に気付いてしまった。
アスラン・・。
切なそうな表情でカガリは楽しそうに話すアスランとメイリンを見ていた。
ズキン。
少し胸が痛んだ気がした。


「・・・・・馬鹿じゃねぇの。見てるだけでどうすんだよ」
「え?」

「何、余裕ぶってんだか、好きなら好きってそう言えばいいだろう?」
「私は別に・・」
「前に進まないでどうすんだよ?お前、代表だろ?国民の手本じゃねぇの?」
「・・・・・・・・・もう遅いだろ?」

「遅くなんてない」


だって、さっきお城を作っているときだて何度もこちらを見る翡翠の瞳と目が合った。それは間違いなくカガリを見ていた。
その時点、遅いわけねぇし。
遅いっていうのはその人が死んでから言う言葉だ。

生きているのに遅いなんてことはない。


「失ってから後悔することってたくさんあるから・・」


大切なものを何度も失った俺、そしてカガリも同じように大切なものを失った。
だからこそわかるもの。



「・・シン」

そして、シンは真っ直ぐカガリを見つめた。


「もし、今カガリが国を一番に考えたくて、それを諦めるのなら、覚えておいてくれ。

・・未来なんてどうなるかわからない。って。

もしかしたらあの人はメイリンと付き合うかも知れないし、
俺はルナと別れるかも知れない。

もしかしたらカガリはオーブの代表を辞めるかもしれないし。
何があるか分からない」
「・・・・」
「けど、今ある気持ちは真実だろ」
「・・・シ・・ン」


カガリは涙ぐんだ。
そして、カガリは微笑んだ。


「そうだな。先のことなんてわからないよな」
「ああ」
「じゃあ、もしさっきみたいなことが現実に起こったら、
シンのところに泣き付きにいこうかな?」
「・・・・冗談じゃねぇ!!」


俺は暫く考えた後叫んだ。
カガリは笑いながら走り去っていった。
冗談じゃなくてもいいかも知れない、なんとなく俺はこのときそう思った。
未来なんてわからないから。



今では想像できない世界がそこには広がっているかも知れないから・・。



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