あなたを想うだけで傷だらけです | ナノ パロディノベル



  caffe 08


「あれ、アスラン…?」

いつもの様に学校が終わってからバイト先に向かおうとしたところで、
カガリは駅の軒下で雨宿りをするアスランを見つけた。

「また、傘持ってないのかな?」

梅雨と呼ぶ時期は過ぎ去ったけれど、
カガリは鞄の中に折りたたみ傘を忍ばせていた。
とは言っても降り出したのは昼過ぎからで当然カガリはその折り畳み傘を差している状況だ。
貸してあげられる傘はないけれど声ぐらい掛けてもいいだろうか。

「アスラン」
「あれ、カガリ。
…今からバイト?」
「うん。
今から電車に乗るとこアスランは?」
「俺はちょっと待ち合わせ中」
「そっか…」

じゃあ、今日はお店でアスランに会えないのか。
ちょっと残念…。

「…お店で俺に会えなくて残念とか思ってる?」
「え…何で!?」

そのものズバリの回答にカガリは大袈裟に顔を上げた。

「だから、カガリって分かりやす過ぎるんだって。
思ってることすぐ顔に出るから。
まぁ、カガリのそういうところ俺は好きだけど」
「なっ!
…また、からかってるだろう」
「そんなことないよ。
ちゃんと「アスラン、おまたせ」
「タリアさん」
「あ…」

待ち人だろうか。
駅のロータリーで車に乗ったままの女性は窓を開けてアスランに手を振った。
金褐色の髪に水色の瞳を持つ妙齢の女性。
雨に濡れるのにも気にせずアスランはその女性へと向って走った。

「あら、お友達?」
「ええ、そんなところです」

しかし、その女性はそのアスランよりカガリに興味を持ったみたいで車の傍まで寄って来たアスランに尋ねた。

「ふふっ、アスランに女の子のお友達なんてね。
あの人が知ったら驚くでしょうね。
初めましてアスランの義姉のタリア・ザラです」
「え…」

アスランのお姉さん…?
じゃあ、もしかしてこの人が…アスランの好きな人?

「勝手に自己紹介しないで下さいよ。
はぁ…カガリ、この人は俺の姉さんのタリアさん。
この子はカガリ・ユラ・アスハさん」

アスランに紹介されて「カガリです。よろしくお願いします」とぺこりとお辞儀をした。

「ザフトにある喫茶店でバイトされてるんだ。
今さっきばったり会ったところ」
「カガリちゃんね。
可愛らしいお名前ね。
ね、もしかしてアスランの彼女?」

車窓から顔を突き出して、興味津々と言った風にタリアさんはカガリに尋ねた。

「えっ…ちっ、違います!
付き合ってなんかないです。
友達です!!なっ、アスラン」
「……ああ」
「?」

目の前に両手を突き出して、ブンブンと手とついでに頭を振って否定する。
カガリはアスランに必死で同意を求めると短い間の後、
不服そうな表情を浮かべてアスランが言う。
タリアさんは大袈裟に肩を下ろした。

「そうなの?
残念。ねぇねぇ、カガリちゃんから見てアスランってどんな感じ?」
「タリアさん!
兄さん待ってるんでしょう?」
「少し遅れたぐらいで怒らないわよ」
「それはあの人があなたに甘いだけですよ」
「ふふー愛されてるわよね」
「はぁー、じゃあカガリ行くから。
バイト頑張って」
「あっうん。気を付けて」

アスランが助手席に乗って車は駅のロータリーを1周して、
駅を後にした。
その後ろ姿を見詰めてカガリはポツリと呟いた。

「あれが、アスランの好きな人…」

まさか会うとは思ってもいなかった。
話しには聞いていたし、どんな人なんだろうと気になっていた。
アスランに好きになって貰える女性は一体どんな人なんだろうって。
どんな人だったらアスランに好きになって貰えるのだろうかと。

綺麗な、大人の女性って感じの人だった。
真っ赤なルージュが引かれた唇が弧を描く度に艶やかさに目を奪われた。
私とは全然違う。
ルージュどころか化粧ひとつしていない自分の顔を指先で無意識になぞった。
自分がルージュを引いたところであんな風に色気が出ることはないだろう。
寧ろおままごとに近い、そこだけが浮いている感じ。

想像だけだったアスランの思い人の突然の登場にカガリの胸はきゅうと締め付けられた。


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