caffe 02
「お待たせいたしました」
コトリとテーブルの上にコーヒーを置く。
彼は一瞬こちらに目を向けた。
「ありがとう」
たった一言なのに私はその言葉が聞けたことが凄く嬉しい。
低くそしてとても甘い声。
「ごゆっくり」
私は一礼をしてその場を去る。
それから数時間が経った。
彼が席を立つのを目線の先に捉えてレジに向かおうとするが、
レジにはもうラクスさんがいてカガリは諦める。
「ありがとうございました」
「ごちそうさま」
そして彼はいつものように、微笑んで店を出た。
いいなラクスさんと少しだけ嫉ましく思う。
名前も知らないのにその人の笑顔や声を見たいと思う。
「あっ・・」
カガリはあることに気づいて、オーナーに少しだけ抜けますと告げて急いで更衣室に戻る。
・・*・・
「あのっ!!!」
「・・・え?」
カランコロンと店の扉の前に取り付けてある鈴が音を鳴らすのを耳にしながらカガリは精一杯声を出した。
彼は目の前で驚いた顔をした。
そういえばいつも笑顔や勉強している顔は見たことはあっても驚いた顔を見るのは初めてだ。
「突然すいません!!
あのっ、けど困ってるように見えて、よかったら使ってください!」
カガリはずいっと手に持っていた傘を差し出した。
天気予報では晴れだったのに夕方から急に振り出した雨。
最近夕立が多い、その上夕立なのに長引くことが多くてカガリはいつも傘を持ち歩くようにしている。
柄はオレンジの水玉で男子高校生が使うには派手だろうが、生憎持ち出せるのはこの自分の傘しかない。
「・・・・」
「あの・・?」
やはり迷惑だっただろうか。
そろりと顔を上げると少し困ったような彼の顔。
「けど、それは君の傘じゃ?
それに俺なら大丈夫です。
少し行った先にコンビニがあるからそこで傘を買うから」
「いいんです。
せっかく来ていただいた御客様を濡れて返すわけには行きませんから!!
それに・・・、コンビニで傘を買うよりも
またお店に来てコーヒー飲みに来て欲しいです!!」
彼は目を見開いた。
そして何が面白かったのかプッと吹き出した。
ポカンとカガリがしていると彼は少し笑いを抑えて告げた。
「はは・・っ、面白いね。
君。
俺傘買うかコーヒー飲むかを選ばなくちゃいけないほどお金に困ってないよ?」
「あっ、そうですよね////」
ぼぼっとカガリは顔を赤くさせる。
いくら高校生でも数百円で困ることはないのだろう。
「けど、君の言うとおりだね。
コンビニでビニール傘を買うくらいなら
ここのおいしいコーヒーを飲みに来たほうが有意義だ。
傘借りてもいい?」
彼は私の手から傘を抜き取って微笑んだ。
「あっはい!!」
「俺はアスラン、君は?」
「・・・カガリです!」
「分かった。ありがとうカガリ。
また次来た時に返すから、それまでこの傘借りてくね」
そしてアスランと名乗った彼はカガリの派手なオレンジの水玉の傘を差して人ごみの中に消えていった。
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