あなたを想うだけで傷だらけです | ナノ パロディノベル



  藤の花 08


「(本当に珍しいな、カガリが泣くなんて)」

カガリに待っててと伝えた俺は部室棟に急いだ。
あんな心細そうにしているカガリをいつまでも一人にしておけない。

俺の中でカガリはいつも笑っている印象が強い。
サークルの中でも、同じ講義を受けているときでも
食堂でふたりで皆を待っている間も、
バイト先に遊びに来てくれたときも、
俺の恋愛相談に乗ってくれているときも、
カガリはいつも笑っていた。

だから、泣いているカガリを見たのは初めてだった。

シンのことではないとカガリは言っていたが、
本当はどうなのだろうか。
アスランはふとテスト前に買ったネックレスを思い出した。

サークルでカガリの誕生日パーティーを計画していたルナマリア達の話を聞いて
初めてカガリの誕生日が5月だということを知った。

ミーアの誕生日プレゼントに指輪をあげるためにバイトをしているのだが、
まだミーアの誕生日は7月だし、生活に切羽詰まっているわけでもないし、
何よりその誕生日に指輪をプレゼントするアドバイスをくれたのはカガリだった。
日々の感謝をこめてというと母親かとつっこみを受けそうだが、
本当にカガリには感謝をしている。

女の子は何をあげたら喜ぶかと聞いたときにカガリは少し悩んで、
最初にネックレスを例にあげた。

さすがに恋人でもないのに指輪なんてあげられるわけもないし、
耳にホールを開けていないカガリにピアスを送るのは憚られるから、
消去法でネックレスになったわけでもある。

アスランは鞄の中に納まっている細長い箱を思い浮かべて、
傘を取りに行って帰ってきたら少し早いが誕生日プレゼントと告げて渡そうを考えた。
それで、一時でもカガリが笑ってくれたら嬉しい。

「(恋って凄いものだと思う)」

カガリがシンと付き合っていたことには驚いたが、
やはり一番驚いたのは
カガリも女の子だということだ。
男友達の俺には決して見せない顔。

ふと思い返せば、
バイト先にシンと一緒に来てくれた時も
ふたりは同じ席に座り笑い合っていた。
そのときのカガリの顔はシンにからかわれたのか、
恥ずかしそうに笑っていた。
見たことにないカガリの表情だった。

あの頃からふたりは付き合っていたのだろうか。

俺に向けられる表情なんて、印象の強い満面の笑みと
俺がミーアの話をするときに決まって浮かべる呆れた顔ぐらい。
けれどもシンには色々な表情を見せているのだろうか。
恋人にしか見せない特別な。

それは当たり前だ。

誰しもが恋人にしか見せない顔がある。

だから、カガリが俺には見せない表情をシンには見せることに
寂しいなんて思うことは間違っているんだ。

けれども、やはりアスランの胸の奥がチクリと痛むのだった。


・・*・・

反則技ですが、視点が変わりました。
私無意識に話書き出すと視点がコロコロ変わるので気を付けていたんですけど、
カガリ視点のままじゃちょっと話進めづらくてしばらくアスラン視点に方向転換です。



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