あなたを想うだけで傷だらけです | ナノ パロディノベル



  アンサンブル*01


ひとりひとりが奏でる異なるメロディー。
多くのメロディーが重なるときそれは輝くアンサンブルになる。

アンサンブル

*1*

3月。

「うわー。空が綺麗・・」

カガリは澄み渡った空を仰ぎ見た。
蕾の桜の花がこれからの未来を想像させた。
大学に今春受かったカガリは今日から学生アパートで一人暮らしを始める。
今日から始まる新しい生活に胸を高鳴らせた。
カガリは大きく深呼吸をした。
腕をぐいっと後ろに伸ばし声を張り上げる。

「よしっ!頑張るぞ!」
「プッ」

後ろから笑い声がした。
カガリは慌てて後ろを振り向いた。
そこには知らない男性が立っていた。
微笑んだ口元を隠すために手で口を覆っていて、
藍色の髪が風に揺られている。
背は高くスラリとした印象を受ける。
顔も凄く整っていてそして何より強い翡翠の目にカガリは目を奪われた。

「・・・!」

慌てて我に返ったカガリは思い出したように言った。

「人の抱負を聞いて笑うなんて失礼だと思わないか?」
「いや、ごめん。
笑う気はなかったんだけど随分元気のいい子がいるなって思っただけなんだけど。
気分を害したなら謝るよ。・・すまなかった」
「へ?」

正直そこまで謝られると思っていなかったカガリは戸惑った。

「・・いや、別にそんなに謝ってもらわなくても。
こんなところで叫んでいた私も私だし」
「そっか、ならよかった」

男の人はふっと顔を綻ばせた。
・・・美形の笑顔って凄い絵になる。
なんてことをカガリは考えていた。

「・・あっ!」
「?」

アパートへの入居時間が迫っていたことを思い出して
カガリは慌てて腕時計で時間を確かめた。
・・・まずい。

「えっと、ごめん。
まちあわせの時間があるだ。急がないと」
「うん。ばいばい。
・・・またね」
「?」

カガリは軽くお辞儀をして走り出した。
・・・またね。
また、町で会えるかもってことかな?

・・*・・

時間より数分遅れてしまったけれど管理人さんは快く受け入れてくれた。
・・・はずがなかった。

「・・・・へこむ」

カガリは項垂れた。
ってかこれ怒られる?
いまさら入居しないでとか言われたらどうしたらいいんだ。

「あれ、もしかしてカガリちゃん?」

前から茶髪の・・どちらかと言えば幼顔の少年が現れた。

「ああ」
「あーそっか。アスラン今学校だもんね」
「アスラン?」
「うん、管理人の名前」
「学生なのか?」
「そうなんだよ、今年から変わってね。
いままで年寄りのお爺ちゃんだったんだけど亡くなってね。
変わりに孫がここの権利を得たんだよ」
「へ〜」
「まぁそれはいいとして、僕はキラ。
大学3年生。よろしく」
「カガリだ。
よろしくな」

カガリは差し出された手を握った。

「荷物さっき部屋に来てたよ。
・・手伝おうか?」
「本当か?・・なら」
「駄目よ」

お願いしてもいいか?と続くカガリの声は女の人の声に遮られた。

「なんでだよ。フレイ」

どうやら声の主はフレイと言うらしい。
そして目の前に現れた深紅の髪を持つ少女はにっこりと笑った。

「部屋の片付けの手伝いは私がするわ。
よろしくねカガリ。
私のことはフレイって呼んで」
「・・・よろしくフレイ」

フレイとカガリは握手をした。

「ところでカガリ。
キラのこの顔に騙されたら駄目よ。
部屋に入れたりしたら何をされるかわかったもんじゃないわ」
「酷いよフレイ。
僕そんなのしないよ」

フレイは握った手を離し、キラの頬を引っ張った。
頬を伸ばしたままフレイはカガリに顔を近づけた。

「いい分かった?」
「・・うん(怖い)」
「じゃあ、さっそく始めましょう」
「僕も手伝うよ」
「キラあぁぁ」

フレイはキラを睨んだ。
キラも負けじと言い返す。

「・・・ほら、家具の移動とか大変でしょう?」
「ここ、家電付きだったわよね?」
「・・・何かと男手が必要」
「じゃあ、二人とも手伝って。
午前中に終わらせたいから」

カガリはいつまで経っても終わらなそうな争いにピリオドを打った。

「カガリが言うなら仕方ないわね」
「うん。さすがカガリちゃん分かってる」

・・*・・

もともと少ない荷物を三人掛かりで片付け始めたのもあってすぐに私の新しい部屋が出来上がった。

「よーっし。出来た!」
「ふぅ」
「二人ともお疲れ!
・・・はい。引越し蕎麦」

カガリはほかほかに出来上がった蕎麦をテーブルの上に置いた。

「わーおいしそうありがとう」
「いただきます」

二人はおいしそうにパクパクと蕎麦を口に運んだ。

「管理人さんっていつ帰ってくるんだ?」

できれば今日中には挨拶ぐらいはしておきたい。

「うーんそうね。
そのうち帰ってくるんじゃない?」
「・・そのうちって」

キラにしてもフレイにしても、良く言えば対等というかなんか凄い扱われ方してるな。

「それよりさ。
お酒飲もうよ」
「いいわねぇ、それ」
「私未成年だし」
「えーいいじゃんどうせ大学で飲まされるしさ。
準備ってことで」
「・・遠慮します。
あっけど別に飲んでもいいぞ。
私は飲まないけどな」

キラは了解と言って、一度カガリの部屋を出た。
帰ってきて数分で、というより住んでから数分でカガリの部屋は空の缶ビールでいっぱいになった。

「(なんで、ふたりだけでこんなに飲むんだ。
というかダンボール一箱持ってくるキラもキラだし)」

・・っぷ。

カガリはぐーすかと眠っている二人を見て微笑んだ。

「なんだかこれから楽しく過ごせそう」

・・*・・

昨日実家を出てそのまま電車で数時間直接ここに来て片付けて・・。

「あっ。そうだ。
管理人さん帰ってきてるかな?
・・けど、この時間はちょっと失礼な気がするけど」

とりあえず、行くだけ行こう。
そう思ってカガリは立ち上がった。

「・・いないみたい」

管理人ことアスランさんが住んでいるらしい部屋にはいないみたいだった。
もう寝ちゃったのかな?
・・帰ってないとか。朝帰り?
そんな風に考えていると昼間には開いていなかった屋上への階段が開いていることに気づいた。

「入っていいのか?」

このアパートはレンガで出来た古いつくりでとてもお洒落。
全部で三階建て、その屋上ともなれば中々高いはず。
高いところが好きなカガリは胸を躍らせた。
カガリは扉を開けた。
キーッと低い音を立て扉が開く。

「わー!」

屋上は低い柵に囲まれている以外目立った障害物がなく、
夜空に輝く星が煌いて見えた。
凄い360°満天の星空。

「綺麗だろう?
ここから見える星は」
「え?」

鍵が開いていたのだから人がいてもおかしくはないのに
それを考えていなかったカガリは驚いた。
声からして男の人が言葉を続けた。

「一番好きなんだ。
この空間が」
「・・・私も凄く好き。綺麗」

暗闇のためぼんやりとしか分からないが男の人は望遠鏡を覗き込んでいるみたいだった。
トコトコとカガリはその人に近寄った。
顔は見えないが、男の人は微笑んだ気がした。

「カガリにそう言って貰えてよかったよ」
「・・名前」

何で・・?

「朝、会っただろう」

そう言って男の人は望遠鏡から顔を離してカガリを見つめた。

「・・・あっ!」

夜空に溶けてしまいそうな藍色の髪、そして月明かりを受けた澄んだ緑。

「アスランです。
よろしくカガリ」
「・・・・アスランって・・じゃあもしかして管理人さん!」
「そういうこと」

朝と同じようにアスランは顔を柔らかく綻ばせた。
そして今日から私の新しい毎日が始まる。

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