藤の花 07
その日は突然訪れた。
今日は大学の創立記念日で中途半端に午前中だけ講義がある日。
私は部室に忘れ物をしていたことを思い出して、
部室に行こうとしていた。
守衛さんに鍵を貰いに行ったら、もう持ち出された後で誰か部室にいることがわかった。
部室塔の階段を登って、ドアにはめ込まれた目の位置にあるガラスから室内を覗く。
誰がいるのだろう。
何気ない行為だった。
けど、カガリは後にそうしておいて本当によかったと思う。
ガラスはら部室を見ることなく無造作に開けていたらと・・。
ガラスから覗いた部室には同じ椅子に座り、睦みあっている男女がいた。
片方は自分がよく知っている友人、ミーアで。
もうひとりは・・・、いつか街で見かけたオレンジの髪をした男の人だった。
男の上に乗りあがる女、互いに距離はなく互いに囁きあっているのが見て取れた。
「・・・あ」
その姿は恋人同士にしか見えなくて。
カガリは手がわなわなと震えたのが分かった。
それは怒りか・・・それとも喜びか。
固まって動けなくなってしまったカガリはそんなふたりから目が離せない。
ガラス越しのふたりはそんなカガリに気づくことなく、
微笑み合い、男が女に口付けをした。
・・*・・
気が付いたらカガリは走っていた。
逃げるように部室棟を後をした。
意味がわからない。
何で!?
何でなんだ!?
だって、お前アスランが好きじゃなかったのかよ!?
付き合い始めたときあんなに嬉しそうに言ってたじゃないか!?
何でそんな、アスランを傷つけることが出来るんだよ!?
何で、何で!?私だったら、私だったら絶対にアスランを裏切ったりなんかしないのに。
私の方が絶対アスランのこと好きなのに。
何で!!!
何でアスランは私を好きになってくれなかったんだろう?
何でミーアはアスランに選ばれておきながら、他に男を作るんだろう。
私はミーアに怒ればいいのか、それともアスランに怒ればいいのか分からない。
そして何より。
・・・喜んでいる私が許せない。
「カガリ?」
「・・・っ」
何で何だろう・・・。
今一番会いたくなくて、会いたい人が何で目の前にいるんだろう。
「カガリ、何っ、泣いて!?」
「アスラン・・・」
すれ違ったアスランは足を止めた。
アスランに言われて初めて、自分が涙を流していることに気づいた。
「どうしたんだ!?」
慌てて、駆け寄ってくれるアスラン。
アスランはごそごそと鞄の中を漁り、タオルを差し出した。
つ立ったまま動かないカガリをみかねてぐいぐいとそのタオルで涙をふき取る。
乱暴なのに痛みはなくて、ふわりとしたタオルはカガリの涙をふき取り頬を優しく包んでくれた。
「・・・・・・ハンカチじゃないのか・・、普通」
「あっ、・・・そう、だな。
鞄開けたら一番にタオルが目に入ってきたから、慌てて」
「らしいな」
「え?」
「アスラン、らしい」
「そうか・・・、カガリ何で泣いてたんだ」
「・・・っあ」
「あっ、いや俺にいえないことなら無理に言わなくてもいいが、
・・・・・・・・・・・・・シンとのことか?」
「え?」
一瞬何を言われたのかと思った。
シンとのこと・・?
「いや、この前一緒に出て行っただろう?
それで皆がお前ら出来てるんじゃないかって・・・、
それで、いやお前らのことに口出すのはやぼなんだろうけど。
ほら、一応先輩だからな」
「・・・・先輩?」
「あっ、えっと、恋愛の・・・?」
「・・・」
笑っちゃう。
何が先輩だよ。
彼女に浮気されてる癖に。
人の恋路に首突っ込む暇余裕なんかあるのかよ。
「そうだな」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
別にシンとのことを誤解されたって別に何だってない。
最初から叶う恋だなんて思ってない。
アスランにとって私はただのサークルの仲間でときどき一緒に講義を受けるクラスメイトで、
友達。
それだけ。
そんなの知ってた。
初めからわかってた。
「そのうちアスランに恋愛相談しようかな。
けど、これは別にシンのことで泣いてるわけじゃない、よ。
少し・・・・・・・・気が動転しただけだ」
「そう・・・か」
「うん」
心の隅で浮かんで、必死に押し殺していた暗い感情が心全体に広がっていく。
「やっぱり、・・・付き合ってるんだ」
心を覆う闇のせいでアスランの呟きはカガリの耳に入らない。
アスラン自身もなぜそんなことを言ったのか、自身の感情の名前には気づかない。
「なぁ、アスラン」
「えっ、あ、なんだ?」
「あのな、ちょっとお願いがあるんだけど」
「?」
「実は私昨日部室に傘を置き忘れてきたんだ。
オレンジの水玉の傘」
「あっ、そういえば昨日帰りに有ったような」
「鍵取りに行ったらなかったから、たぶん誰か部室にいるんだと思う。
だけど、私もう誰かに泣き顔見られたくないし、さ。
取って来てくれないか?
私ここで待ってるから」
「・・・分かった、取って来るよ。
待ってて」
「うん、ごめんな」
「いいよ、そんなこと気にするな。
いつもカガリにはお世話になってるし、これぐらいな」
アスランはカガリの頭を一撫でするとにっこりと微笑んで、
駆け足で部室棟に向かった。
「ごめんね。
アスラン・・・・、違うんだ。
ごめんなさい」
壊れてしまえばいい。
アスランとミーアなんて。
アスランが傷つくなんて分かりきってる。
アスランの後姿を見ながら、カガリはふっと微笑んだ。
「ミーアと別れたら、私を、私に目を向けてくれるのかな?」
・・*・・
まぁ、なんとなく校内の会話シーンとかは割と卒業した短大を思い浮かべながら書いてたりします。
一番身近な大学はやっぱ自分が通ってたとこだよね。
[
back]