手慣れた手つきでわからなかったペンを開け、オレの目の斜め下に黒い小さな丸いものを描きはじめた。まるでほくろ。

「ほくろだぞ。泣きぼくろだ」
「そんなことでどうなんの」
「たかがほくろだと侮るなよ。ほくろ一つで印象変わるんだぞ」
「へー」

そうなんだ、なんて思って鏡を見たくても動いたら駄目っぽいし、モロにリボーンが被っているからどうなっているのかが見えない。もどかしさを覚えつつ、今度は口の下へと手が降りる。完成を待つか、と力を抜いた。

「あとツナは血色あんまよくないからな…」
「ほっとけ!」

どうせ色白で血色よくないし。もやしっ子でインドアだ。
ポーチをあけて目の前でごそごそとなにやら探している。あったと取り出されたそれは、母さんが使っているのを見たことがあるような気はするが、オレには一生縁がないと思っていたものだった。

「これか」
「ナンデスカソレ」
「チークだぞ。お前の血色の悪さを隠してくれるもんだ」
「血色悪い悪い言うなよ!」

黙れと頭を叩かれて、大人しくチークとやらを塗られる。えらく適当に感じたのはオレが何も知らないだけだろうか。

「これでわからんだろ」
「オレどうなってんの。オレ大丈夫?」
「まあ見てみろ」

横に避けたリボーンの後ろ、鏡に映る自分はさらに違って見えた。色は白くても血色は悪くなく、ほくろのおかげかか印象も大分違う。こんな少しのことでこんな変わるのか。

「化粧ってすごい。女の人って怖い」
「だから化けるって書くんだぞ」
「なるほどなー」
「ツナ、まだ終わってねぇぞ」
「まだあるの!?」

そういえば使ってなかった白い袋。そこから取り出されたのは、オレも見たことのある代物だった。

「髪を黒にしたんだ。目も真っ黒にすればいいだろ」
「コンタクト…」

いまだに目に入れる時は怖いというのに。

「怖いくらい変わるぞ」

そう言って出されるそれ。恐る恐る受け取って、中を開けると黒くドーナツ型に塗られたコンタクトが入っていた。

「スパナのコンタクトを入れる時の練習だと思え」
「……そうする」

最初よりは早く入れれるようになったものの、両目に入れるのにまだ十分はかかる。それを早くする為の、慣らすための練習だと自分に言い聞かせて入れる。

「遅ぇ。お前が早く入れれるようになればなる程、お前の睡眠時間は増えるぞ。ツナ」

十数分後、涙ながらに入れ終えた。睡眠時間を長くとるなら早くいれるしかないということか。
若干涙目のまま再び鏡へ目を向ける。別人。先程とは全然違う。色素の薄い目も髪も、そこにはない。別人がオレの目の前に座っているようだった。

「オレ…?」
「新しいツナだぞ。これならバレねぇだろ」
「バレないよ!オレがオレじゃないみたいだし!」

すごいすごいとまくし立てるようにオレは言っていた。事実、なんか似てるかな、程度で別人だと言い張ればこれは確実にバレやしないだろう。
オレがはしゃぐものだから、鏡の向こうの別人まではしゃいでいて、なんだかおかしくなって笑いも込み上げてきた。

「思い込みも大事だからな」
「そうだね。自信持ってたらこれはいけるよ」

当たり前だと言わんばかりにまた彼も笑う。なんとなくそれで乗り切れそうな気がしてしまうオレもオレだ。

「頑張れよ、沢谷翔太」

さわだにしょうた、これがこのオレの名前らしい。


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沢谷翔太はアナグラム。
沢谷はさわだに。濁点付きです。
(でないとアナグラムにならない)



 



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