「あれ、今日の業務これだけ?」

いつもよりかなり少ない書類を見て綱吉は疑問の声を上げる。
毎日山のようなではなく書類の山全てに目を通し、サインをする。それがドン・ボンゴレである綱吉が毎日こなす業務である。
しかし今日は違った。山といっても通常より少ない書類。それもたった一つだけ。

「本日はこれだけです」
「そうなんだ。少ないね」

ふうんと疑問は持ちつつも、専用の椅子に座り綱吉は一つ一つに目を通していく。馴れたものなのか、その速度は普通より早い。
右腕である獄寺が入れた紅茶を飲みつつも手や目が休まることはない。仕事人間と言われる日本人故だろうか。朝から開始したそれは、昼を過ぎた頃にはもう厚みがなくなる程となっていた。

「おー、ラスト終りー!」

時刻を見れば一時を回ったばかり。夜までひいひい言いながらやる綱吉が、こんなに早く終わることなど殆どない。

「お疲れ様でした」

にっこりと女性が見れば見惚れるような微笑みで最後の一枚を獄寺が受け取る。終わったと綱吉は一つ大きな伸びをして、お昼にしようかと彼に問おうとしたその時だった。

「ツーナー」

ノックと共に間延びした綱吉の親友の声。入ってーと同じく間延びした返事をすれば、彼は荷物を持って入ってきた。

「山本どしたのそれ?」
「ん、お前ら飯食った?」
「いんや。今から獄寺君に声かけようと思ってた」

なら丁度良かったとローテーブルに荷物を広げる。全てタッパーに入れられたそれらには細切りにした卵や魚の刺身、海苔などが入っていた。

「もしかしてその一際おっきな容器に入ってんのって…」
「これか?酢飯だぜ」

ほらと蓋を開ければつんとした酢独特の匂いが鼻をくすぐる。

「以前十代目は山本のとこの寿司が食べたいとおっしゃっていたでしょう?」
「ちょっとネタが少なくてな、だからちらし寿司にしたんだ」

その言葉に綱吉は目を輝かせた。嬉しそうな視線はタッパーに向けられている。

「オレすごく嬉しい!あーもう急に腹減ってきた」
「ははっ!飯にするか」

そう言うなり山本は酢飯を三人分にわけ、豪快だが美味しそうにトッピングしていく。そそくさとローテーブルを挟むソファーに座り、その様子を今か今かと綱吉が見れば彼は苦笑して待ってろよと言う。今日ばかりは突っ掛かる獄寺も何も言わず、向かいに座りただそれを見ていた。

「ほい!お待たせ!」
「やった!ありがとう。いただきますっ!」

受け取ればすぐにあらかじめ持っていた割り箸を割り口に運ぶ。その間に獄寺にも渡してその隣に山本も座る。

「美味いか?」
「めっちゃ美味しい!さすが山本!」

子どものように美味しそうに食べていればそれを見ているだけで幸せになれる。まさに二人はそうだった。

「テメェ、なんで十代目が食べるのに紙皿なんだよ」
「持ち運びやすいだろ?」
「そんな問題じゃねぇだろが」
「もーいいじゃん別に。美味しければ構わないでしょ」

ね、だなんて綱吉に言われれば獄寺には何も言えず、受け取ったちらし寿司を頬張った。山本も気にした風でもなく、同じくちらし寿司を口にする。

「あ、ねぇ。なんで今日あんな少なかったの?」

そういえばと思い出した綱吉が二人に聞けば、くすりと笑って二人は答えた。

「十代目、毎日頑張ってらっしゃるじゃないですか」
「山みてーな書類の相手で夜までかかる時もあんだろ」
「うん」
「だからたまにはお休みをと、幹部だけでなく俺達の部下からも声が上がったんですよ」
「けどほら、お前のサインが必要なやつたくさんあるだろ。だから午前中だけはな」

ボスが過労死してしまいますと部下から声があがったのだ。支部への移動、本部への移動などもあり、それほどまでに最近の綱吉は忙しかった。ひどいときは目の下に濃い隈はっきりと遠目からでもわかる程にできていたりもしたものだった。
それはまた綱吉がどれほど慕われているかと、どれほど必要とされているかを表しているようでもあった。だからこそ幹部がこうして感謝の気持ちと労りを形にしたのだ。

「…ありがとう」

その気持ちを汲み取った綱吉は、こちらこそ感謝しているんだよとふわりとした昔からから変わらぬ笑顔を向けた。

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