綱吉のひっそりとした葬式も終え、沢田家では奈々が遺品の整理をしていた。正直全て捨ててしまおうかと思ったのだが、使える物だけは使おうかと片付けていたのだ。
がらりとした人気のなくなった部屋。別に気に止めることも奈々はない。やりすぎた感はあり、自分から飛び降りたと聞いた時にはやりきれなさもあったりと、多少の罪悪感はあるものの、数日しか経っていなくとも平然となれるようになっていた。

「あら…?」

机周りを整理していた時、ふと気になる物を見つけた。点数の悪いテストやらは捨ててしまったが、引き出しの奥にきちんと綱吉にない程綺麗にたたまれた紙があった。
手に取ればそれはちぎられたノートらしい。そして数枚のそれを、何故だか読まないといけない気がしたのだ。
開いてみればもう二度と見ることのない綱吉の字。所詮それは遺書のようなものである。

「え…ツッく、ん…」

読んでいるうちに奈々の思考がぐるぐると渦を巻き出した。抜けれない渦。振り払おうとしても追ってくるように抜けることができない。
あの子は気弱な子ではなかったか。あの子は中学に入り友達が出来て、嬉しそうにしていなかったか。あの子は友人が怪我をすれば心底心配し、駆け付けるような子ではなかったか。あの子は人が傷つくのを嫌う優しい子ではなかったか。
あの子は思春期とは言え、女の子をいじめるなんて子が出来る子だったか。
ぴたりと奈々の手が止まった。結果、出てきたのは「否」という否定をする言葉だった。
できない。あの子にはそんな事できるはずがない。人一倍面倒くさがりだが、人一倍優しかったあの子にできるはずはなかったはずだ。
そこまで考えれば泣き崩れるのは早かった。ごめんなさいごめんなさい、と謝罪の言葉を紡ぎながら手紙を抱きかえるようにうずくまって。
綱吉が消えた後も家にいる居候達は何事かと駆け付けても、話ができる状態であるわけもなく。ただただ呆然と彼らは立ち尽くすだけだ。
まだ日本にいるという家光も後から駆け付け、泣き崩れる奈々を見た。これではいけないと居候達を一階に降ろし、泣き崩れる妻に家光が近寄ったが、奈々はひたすら泣くだけだった。
泣き声が響く中、家光が奈々の肩に手を置けばはっとしたように奈々は彼を見た。今までみたことがない程に目と鼻が赤い。手にはしっかりと手紙が握りしめられている。

「私、私…!とんでもないっ…取り返しのつかない事をっ!」

つかみ掛かるようにして家光に奈々は抱き着く。手に持った手紙を家光が抜きとり、奈々を支えながらも見れば我が子の字。昔となんら変わらない性格だから書けたであろう文章。

『信じてくれなくてもいい。でもオレは彼女に何もしてないんだ。誓って言える。
そもそもオレは誰かをイジメるなんてこと出来ないんだから。
ごめんね。先に逝くような親不孝で。親孝行なんてしたことないのに。
今まで、ありがとう』

一枚目の手紙にはそう書かれていた。両親に向けた物だとわかる言葉。短いけれど、変わらない綱吉だからかけた一つ一つの言葉。
だからこそ両親は理解した。自分達の子は悩み抜いて、誰かに打ち明けることもなく、打ち明けることなど出来ずに抱えて消えたのだと。腐っても親は親であるが、それはひどく遅すぎた。

「…俺も、責めることなんてできやしない」

仕事が忙しいと帰ることも出来ず、成長のほとんどは見てもいない。実際忙しかったのだが、それに託けるように日本にすら帰らなかったのは誰でもない家光自身。
自分の目で見ていたら、近くにいれば。そう考えたとて綱吉は戻っては来ないのだ。主がいなくなった部屋でわんわんと枯れることなく泣く母親と、それを支えるようにして静かに涙を流す父親がそこにいた。



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