チャイムギリギリに入ったこともあり、ヒソヒソと囁く声がしただけで、誰も獄寺君に罵声を浴びせるようなことはしなかった。何故だか首謀者の赤崎さんは泣いていたけど、またなにかよくないことを企んでんだろなあ。と半ば間違っちゃいないだろうことをオレは思う。
授業中も小さな休み時間も、寝るの一点張りをしていた彼に消しゴムや紙屑を投げる輩は後を絶えない。イラッとしながら見ていれば、山本もムスっと不機嫌を隠さない顔してやってる輩を見ていた。
教員が風邪で、四時間目が自習となれば静かにしとけよ。と出て行った別の教員の言葉虚しく獄寺君に非難は集中した。教員も口の端を吊り上げていたから、わかってたに違いないが。

「またテメェ殴ったんだってな!」
「信じられねえなお前!」

無理矢理彼を起こして胸倉を掴み、そう浴びせる。獄寺君は睨むだけで、言い返す気力は脱力した身体を見ればないとわかった。

「なんとか言いなさいよ!」
「あんたのせいで傷ついてるのに、更に暴言吐くとかサイテー!」

赤崎を近くで庇いながら女子達も言葉だけは加勢する。
見たことあんのかよ。獄寺君が彼女に暴言やら殴ったりしてんのをさ。

「ちょ、もうやめなよ!」

反論する気がなく座る彼に変わって、胸倉を掴んでいる男子を剥がした。それから獄寺君の前に立って、彼らを軽く睨む。ダメツナなめるな。

「まだダメツナはコイツ庇うのかよ!」
「ダメツナだから頭おかしいんじゃねえの」

や、お前らよりまともだと思ってるよ。

「そもそも獄寺君はやってないって言ってるじゃんか!片方の言い分だけ聞いて、もう片方を聞かないなんてオカシイよ!」

正論。正論過ぎる程の正論じゃね、これ。

「あの子は傷ついて、それで泣いてるんだぞ!?」

ちらりと彼女に視線をやれば、止めもせずに座ったまま俯いていた。大丈夫か、なんて周りにちやほやされてるのがそんなに嬉しいか。

「だからって獄寺君にこんなことしていいはずがないだろ!」
「うるせーよ!ダメツナのくせに!」

なんだよ、くせにって。またもイラッとして、言った男子を見れば何かを投げてきた。やばい。そう感じて、当たるであろう箇所に手を置いて掴んでやろうとオレはしていた。

「十代目!!」

危ない!なんて声が聞こえた時には、すでにもう獄寺君が投げられた方向にオレを庇うように立っていて。モロに何かが当たっていた。

「い、つぅ……」
「大丈夫!?」
「獄寺!血が!」

その場にしゃがみ込んで当たった箇所を押さえていても、押さえた手の下からは血が流れていた。山本も駆け寄り、持っていたタオルで血が流れるこめかみの部分を押さえる。
投げられた物はどこから持ってきたのか、少し大きい石だった。こんなの人に投げていいもんじゃない。目に当たってりゃ失明の可能性だってあるのに。

「シャマルんとこ行かなきゃ!」
「大丈夫っスよ、これくらい…」
「頭だから危ないのな」
「そうだよ!ばい菌入ったらどうすんの!」
「大丈夫、ですから」
「でも……」

だんだんと真っ白なタオルが赤く濡れていく。それを見てオレ達以外はいい様だと、自業自得だと彼を笑って。
何がいい様。お前らがこんなことしなけりゃ彼は傷つくこともなかったのに。何が自業自得。何もしてない、ただ告られて断った。それだけでこれは自業自得なんてもんじゃない。

「いい加減にしとけよ」

すくりと立ち上がる。オレだって堪忍袋の緒は切れるぞ。何してくれてんだ。

「ダメツナがなに言ってんだよ?」
「なんも出来ねえだろ」

せせら笑う声にまた何か切れた。
ガッシャンという大きな音。オレが机を蹴り飛ばしたからだ。ダメツナなんて捨ててやるよ。仲間の一人護れねえそんなもん、捨ててやるよ。
小さな悲鳴があちらこちらで聞こえた。黒川は呆れた声を出してるし、京子ちゃんもツナ君が切れた。なんて呟いてる。彼女達は一切このことには関与しなかった。黒川いわく、面倒だと。京子ちゃんは心配してたけど。

「十代、目…」
「プッツンきた。仏の顔も三度までだよ」
「三度以上堪えたのな」
「オレまじで頑張った。オレの問題だから何もしないでくれって言われたから超頑張って耐えてた」
「うん。オレもさ、頭きたんだよな」
「おま、山本まで…!」

彼自身にタオルを押さえさせると、山本も立ち上がった。仲間がやられててはいそうですか、なんざ無理なんだよ。山本もオレも。

「い、いいのかよ!ダメツナはともかく、山本は試合出れなくなるぜ!」
「そうだよ!出れなくてもいいのか!?」

予測以上にオレ達の目は据わってたらしい。あんなに威勢よかった彼らが挙動不振。赤崎すら、ア然とした顔を隠せてない。

「オレらの近くにゃあの風紀委員長がいるんだよ。出れなくなるわけないじゃん」

揉み消してもらうさ。

「赤崎さあ、獄寺に後悔させてやるって言ったらしいなー」
「後悔すんのはオレらに喧嘩売ったテメェらかもしんねえな」

十人ちょっとでオレと山本に勝てるかな。一般人とかどうでもいい。オレ達だって、ギリギリまだ正式なマフィアじゃないから一般人だろ。
誰に喧嘩売ったか思い知れよ。



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