あの後はすぐチャイムが鳴って、泣いていた子は支えられるようにして、オレ達はオレ達で教室へと戻った。事態はそれで収まればいいのに、なんて甘い考えをぼんやりと思って。
次の日から目に余るような出来事はないものの、元より浮いていた彼が更に浮くようになっていた。目に余るものがないのは多分、彼がいわゆる不良という部類に入るからだけど。
今まで以上に避けられてるのは明らかで、加えて冷ややかな視線と言葉が増えた。誰一人目を合わそうとはしない。

「あっからさまなー」

屋上で昼ご飯を食べがてら溜息まじりに山本が口にした。
もちろん良い気はしない。それは山本もオレも思ってる。先生に獄寺君が相談しに来たけど「それくらいツナの右腕になりたきゃ自分で片付けろ」とのことだった。面倒だって逃げやがったなあんにゃろ。

「でもよくあんな自演したよね」
「オレ、何が起きたかすぐには理解できませんでした」
「そりゃできねーって」

事が起きた当日にオレん家で事情を聞いた。さすがに学校では邪魔が入りそうだし。
獄寺君によれば、泣いていた彼女が告白してきたらしい。面倒だと思いながらも断れば、しつこく迫ってきたとのこと。目つき悪いのにさらに悪くして睨んで、もう一度断れば「後悔させてやる」なんて言われて、自分の頬をひっぱたいたんだそうだ。
呆れて物も言えなかったオレ達師弟。

「モテる男は辛いなー」

山本は呑気にそう言っていたけど。実際それはオレも少し思ったけど。
なにも被害が起きない日々もそう長くは続かなかった。次第に最低。とか書かれた髪が下駄箱に入っていたり、机の中に入っていたりと生徒達はただ冷遇するだけでなく、行動するという馬鹿なことを始めた。いちいち腹を立てていた獄寺君をまずは宥めながら、オレ達の話に耳を貸さない彼らをどうすることもできなかった。

「どうしたの!?」
「獄寺大丈夫か!」

十代目に被害が及んではオレが泣きそうになります。とのことで別々に登校しだしたある日、学校に行き、山本と会って廊下を歩いていれば頭と腕に包帯を巻いている彼がいた。空笑いをしながら大丈夫っスよ、なんて言う彼は痛々しい。

「ちょっと姉貴に会った後で体調が悪かったんです。ま、これやったのも姉貴なんっスけど」

そう笑って包帯を指さした。ビアンキも相当頭にきていたのはオレも知ってたけど、ゴーグルなしで会いに行っちゃ駄目じゃん。
言葉には出さないけど、そこを大勢でやられたんだろうなとは予測がついた。

「十代目、あんまオレと一緒にいない方がいいっス」

やはり貴方まで被害が及んでしまう。眉尻を下げてそう言う彼は、彼らしくもなく参っていた。薄々気づいてはいたけども。
エスカレートする日々の生徒達の行動に嫌気もさしているし、悪童と呼ばれて避けられてきた時は自分が側にいたいという人がいなかったから堪えられたことも、人一倍忠誠心の厚い彼には今、オレという存在がいる。だからこそ自分のせいで被害が及ぶ可能性もあり、精神的にもキてるんだろ。だからここ二、三日じゃもうやり返すのも億劫で、手を挙げる彼らにやられ放題。本当ならオレがやり返したい。

「馬鹿言うなよ。こんな獄寺君を一人放っておける程、オレは薄情な奴じゃないっての」

べしんと頭にチョップして鼻で笑ってやった。なあ、と山本を見ても当たり前だろ。といつも通り山本は笑って。

「でも!」
「でももヘチマもないんだよ。ほらほら、授業始まるよ。行きたくないなら屋上行っといで。後で行くからさ」

少しばかり泣きそうな顔をして、行きますと俯いて彼は答えた。まったくしょうがない子だね。
オレが背中を押して、山本が頭に手を置いて、教室へと入った。どうしようもない部下の為に、一皮脱いでやろうかね。



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