「なんもしてねぇってんだろ!」
大きな音がして山本と駆け付けてみれば獄寺君が罵られていた。場所はあまり使われはしない教室で、一人二人じゃない。大勢で、だ。
どうしたのって山本に聞いてもオレといたんだからわからない。だから眺めてる奴捕まえて聞いてみた。
「獄寺が赤崎を泣かせたんだ」
「え?」
「殴ったらしいぜ」
意味がわからない。どんなに悪態をつこうが同級生の女の子に獄寺君が手を挙げる、なんて想像がつかない。なんだそれ。山本を見てもわけわからん。といった顔してるし。
そう、とだけ返事をすればこちらに彼は気づいたらしい。
「十代目!」
ざっとオレと山本のいる一角だけが開く。彼の顔もいつもにはない不安げな顔色だった。あんな大勢で責められたらそりゃそうか。
「オレはなにもしてません!」
それでもオレを見る目は力強い。そしてその力強さのまま彼はそう言い切った。
「獄寺君」
開いたんだから進もうかと進めば不安な顔は更に曇る。
「じゅうだい、め…」
目の前まで来て彼を見上げれば、彼の意思の強い瞳が揺れる。しん、と静まる中で泣かされたと言う女子のすすり泣く声だけが響く。
「十代目も、オレを信じてくれないスか…?」
四面楚歌。今の彼に似合うんだろう。
声も震えていた。しょうがない右腕だね。にっこり笑えば獄寺君は顔を少し明るくさせる。
「信じない、なんて言わないよ。仲間だろ。オレは君を信じるよ」
笑って信じると、そう告げた。それだけで彼には十分だったようだ。より明るい表情になる。
「獄寺が女子を泣かしたんだぞ!?」
「女子殴るとかありえねーだろ!」
それはまさに、どうして獄寺君をオレが信じるのかという問い。直感的にもやってないってわかるし。
そりゃ真剣勝負で、尚且つオレの為なんていうなら彼は女の子でもお構いなしだろうけど。でもそうじゃないだろ。オレも彼も山本も、あの家庭教師様から「マフィアは女を大事にするもんだ」なんて耳にタコができる程言われてんだ。ボンゴレ十代目の右腕になりたい獄寺君がその教えを無下にするはずがない。
「やってないって言うんだ。オレは彼を信じるよ」
ダメツナのままだけど、力を込めてそう言った。所々でなんでだよ。って声もしてるけど、お前らがなんでだよ。
「なんかの間違いじゃねーの。獄寺はそんなことしないって」
へらへらっと山本もそう告げれば、囲む人間の顔が曇る。三人対大勢、ってことかな。
なんでもいいけど、くだらないことだけはやめて欲しいよ。