翌日の放課後。まだ生徒のいる教室ではなんだと、オレは三人を屋上に呼び出した。クロームには先に来て待機してもらって。

「なんでテメーがここにいんだよ」
「オレが呼んだからだよ」

あっけらかんとオレは下を向くクロームの側に行った。彼女にとっては微力かもしれない。でもオレはこんなことは許せない。

「ク、ロームちゃん…」
「そんな怯えた風にしないでよ。クロームの方が怯えてる」

スカートの前で手を握りしめるクローム。そんな彼女には怯えてるって言っても過言じゃないはずだ。

「どうして庇うの!」
「庇ってなんかない。本当のことだよ!」
「クロームは赤崎に嫌がらせしてたのな!」

嫌がらせなんてするような子じゃないって、何度言ったらわかるの。骸ならやりかねないかもしれないけど、あいつはこんな馬鹿げたようにはしない。やるならもっと狡猾だ。

「私はしてない!」
「じゃあこの傷はなんだって言うの!」

がばっと袖をたくし上げ、みみず腫れと擦り傷を見せた。確かに痛々しく見える。

「私は並盛神社で会ったっきり、貴女には会ってない。貴女は歩いて階段を降りていった」
「クロームちゃんが突き飛ばしたんでしょ!」

弱々しいが顔を上げてはっきりと言う彼女に嘘は見えない。それでも赤崎さんは引き下がらなくて。クロームがしたと一点張り。
でも、あれ。傷をじっと見てれば変な感じ。一歩近寄って見ればなんか、違和感。なにこれは。

「ツナ君?」
「まがい物…」

剥がれかかった皮のような物をめくれば、どうしたことか。なにやら気持ち悪いものが取れた。いや、剥がれた。下には綺麗な彼女のなんの傷もない素肌。

「なにしてんだ…よ…」
「お前、なんだこれ…」

オレの手にあるそれを見て、二人ともが目を丸くした。赤崎さんは真っ青だ。

「私、私はこんなの…」
「嘘。傷も言葉も嘘よ」

じっと見てクロームはそう言った。

「違うわ!」
「違わないよ。オレ見てたもん。クロームを神社に呼び出した時、すごい剣幕でクロームに消えざるを選ない状況にしてやるって言ってたじゃないか」

彼女は絶句。クロームも驚いたようだ。山本や獄寺君からはどうしてそれを早く言わないと荒々しく言われた。

「言ったところで信じた?クロームはなにもしてないってオレ言ったのに」
「それは、その…」
「見てたのなら、また違うじゃねーか」
「違わないよ。オレは言った。実際クロームがなにかしたのかはオレは見てない。でもオレはクロームを信じてた。仲間だもん」

仲間。その言葉に二人はばつ悪そうな顔をした。仲間を信じられないことの方がオレは信じられないよ。

「まったく、好き勝手してくれましたよねえ」

ぞわぞわとした感覚。クロームが骸へと姿を変えた。初めて見る骸に小さな悲鳴を赤崎さんはあげた。

「僕のクロームに。沢田綱吉の一番側にいたいからクロームが邪魔?馬鹿げたことを。沢田綱吉という人間をまるでわかってない」

やれやれといったように薄ら寒い笑みを浮かべて赤崎さんへと近付く。そんな彼女は気圧されてか、ぺたんと座り込んでしまった。

「そもそも沢田綱吉という人物にとって、順序など無価値。なぜだかわかりますか?」
「どういうことよ…」

見下すように骸は立ち、オレ達はそれを見ているしかない。手がだせない。

「身近な者、つまり彼の言葉でいう仲間はそれぞれ一番だからですよ」

確かにそうだ。それぞれ皆大事だ。仲間も京子ちゃんやハルのような友達も大切だ。
おそらく立てないのだろう赤崎さん。そんな彼女に骸は三叉槍を振りかぶった。

「ひぃっ!」
「待った!」

頭を抱えるようにして縮こまるの彼女を見ていたくはない。オレは振り上げた三叉槍をしっかり掴んだ。

「離しなさい」
「もういいって!殺す気?」
「僕のモノに手を出したのですよ。報いです」
「やりすぎだから!」

その後も少し睨み合っていたけども、根負けしたように諦めてクロームへと姿が戻った。

「赤崎さん」
「…な、なによ」
「君がクロームにしたことは許せない。それにクロームが前言った通り、そんなことした君をオレは何かに選ぶつもりはないよ」
「くっ…」

悔しそうにオレを見上げ、立てるようになった身体を起こして屋上がら出ていった。クロームに謝りもしないなんてひどい。
くるりと向き直れば獄寺君と山本がオレに頭を下げていた。なに、どうしたの。

「すんませんでした!十代目の言葉を信じずに…!」
「すまん!オレらもしかしたらクロームに操られてんじゃねーかって、本当にごめん!」
「違うでしょ」

確かにオレにたいしてもそりゃひどくないか、とは思うけど違うじゃん。オレより先に謝らなきゃいけない人がそこにいるだろ。

「まずクロームに謝って。クロームこそ、突き飛ばして擦りむいたりしてるんだから」

顔を見合わせた後、同じように二人はクロームに頭を下げた。よかった。自分がしたことをわかってくれてるのかな。

「うん、顔、上げて」

胸の前で手を握るクローム。二人が顔を上げれば、パシンと二発。よく響く音がした。驚いて声も出なくて、二人は頬を手で押さえている。

「おあいこ」

くすりと笑ってる彼女にイイ性格してんなあ、なんて男三人思ったことだろう。
見上げれば晴天。今の気分のようにすがすがしい程の青空が広がっていた。



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