広い、広い空間。どこだここ。ただ白い空間。まるでRPGの世界の世界に飛び込んだみたい。
「綱吉」
ぼうっと白い床が光った。呼ばれた方向を見ればオレによく似た彼。なんでいんだよ。しかも、だ。周りを取り囲むのは彼のファミリーの面々。
「オレなんでここに?」
「俺が呼んだ」
「リングないけど」
リングはぶん取られたからオレの手元にはない。逆ギレ女とその周りの取り巻きによって。
「お前はもう認められた、正式なボンゴレ十代目だ」
ああ、そうか。ブッ潰すと言ったあれでも歴代ボスに認められたんだっけ。今となったら関係ないけど。
「関係なくはない」
「人の心読むなよ」
「お前はボンゴレを継ぐのだよ」
「無視か。てか無理だって」
「無理ではない。微量ながらお前の力に我々もなったと思うぞ」
「どうやって?」
「わかるさ。ああ、お前を呼ぶ声がある。行って来い」
意味がわからん。とか思っていれば突然突風が吹いた。立つことはできても、目を開けていられなくなる程の。
「デーチモは…」
「大丈夫だ」
「だが彼自身が行動起こさぬ限りはどうにもならないでござるよ」
「起こすさ。俺の子孫だからな」
その会話も、にやりと笑う彼の顔も。オレは聞くことも見ることも叶わなかった。
呼ぶ声がする。ぼんやりと、でも力強い。というより揺さ振られてる。嫌でも起きるしかないじゃないか。
「ん…」
目を開ければボロボロの天井。黒曜ヘルシーランドだ。家にも居場所がなくなったオレが転がり込んで、寝床にしてるところだった。
ばっちりと目が合ったクロームには安心した顔をして微笑まれる。大丈夫、生きてるよ。
「ボス…!」
「眉間にしわ寄せて寝てたびょん」
「眉間に…」
そんなに逢いたくなかったの、オレは彼に。いや別に逢いたいわけでも逢いたくないわけでもなかったけど。もう逢うことはないだろう、ぐらいには思ってたけど。
「…ヴァリアーから連絡来たよ」
「あー…なんて?」
伸びをしながら聞けばはい、と千種から手紙が渡された。ちゃんとヴァリアーの紋章つきで。
この下らない戯れ事にヴァリアーは協力してくれるといった。いわく「テメーを潰すのは俺だ」とのこと。スクアーロが言うには正式な十代目となるオレが勝手に名乗ってるだけの女にやられるのは気に食わないんだそうだ。ボンゴレが最強でないといけない彼らしい。
「なんて書いてあるびょん?」
「要約すればね、逆ギレ女の素性と家庭のあくどい事。やらかしてんねー」
「麻薬か?」
「それもありけり。新薬開発もしてるらしいよ。自分の持つ孤児院とか使って」
「ひどい…」
「オレらも気にくわないびょん!」
だろうね。お前ら一番嫌うことだよね。オレも正直それは嫌いかな。
自分とこでやってることを知らんとかオレは言わせねえよ。オレにやったことも性悪だしな。嫌がらせレベル越えてるし。自分もマフィアでオレもマフィア。一般人に手を出せないのをわかってるから一般人しかけやがって。むかつく。ボンゴレくれ、なんて言われてはいそうですかって渡せるか。オレの周りも騙されたのは余計に腹立たしい。
「全く、味方になれという僕らに喧嘩売ってますね」
「だな」
ぞわぞわとする感覚と共に骸が現れた。もちろんクロームから。
骸がオレの方に着いたのは驚いた。「僕に一度、まぐれでも勝った人間が僕以外に負けるなんて許しませんよ」なんて言われた時は笑ったけど。骸らしいというか、素直じゃないというか。
「…捗った、らしい」
「なにが?」
「調査が」
「それをドン・ボンゴレに伝えようです。ヴァリアーに壊滅を頼んだみたいですから」
「ほう!」
ああ、わかった。初代が言ってたことはこれか。微量ね、確かに直接的ではないけど周りを潰すのはあの女のダメージにはなるだろ。いい様だと笑ってやるには丁度いい。
骸は言うことは言ったと引っ込んだ。後はオレが行動を起こした時に現れるだろ、多分。
「ならオレ達も行きますか」
よっこいしょ、と傷ついた身体で立ち上がった。ひどい傷だらけでも手当のおかげで見た目よりは痛みはない。痛いけど。
「傷は、大丈夫?」
「大丈夫だよ。クロームが幻術をかけてくれてるから最近はましだしね」
「もう起こすのか?」
「早いうちに。オレが何もしてない証拠はお前らが集めてきてくれてるし」
「バッチリだびょん!」
「だろ。なら行こう」
馬鹿ばっかりのあの集団に、目にもの見せてやるよ。首洗って待ってやがれ。