後ろを向いて一歩踏み出した瞬間だった。無意識のうちにピクッとなったのが自分でわかった。

「沢田綱吉、聞いたことありませんかー?」

尚も続けやがる。知ってるよ。いやむしろ知らないはずがない。オレなんだから。
くるりと振り向いて苦笑いを浮かべながら知らないふりして答えるけどね。

「誰です?」
「あ、知りませんかー。元ボンゴレ十代目候補だった人物なんですけど、だいぶ前に行方不明になった人ですー」

死んだことになってるらしいですけどー、なんて言われずともわかってるよ。張本人はこのオレだ。
正面に身体を向けて、見据えてみた。ああもう掴めない表情しやがって。

「なんか聞いたことある気はしますね。けど行方不明、つまり亡くなったんでしょう?」
「みたいですけどねー。ミーも正直、写真も現物も見たことないんでどんな人物か知らないんですけど。名前くらいしか知りませんし」
「うーん、オレにはさっぱり……その方がどうかなさったんですか?」
「ミーの師匠が簡単に死ぬような人物ではないとか言いましてー。なーんか生きている気がするとか」

師匠って誰だ。そうだよその師匠の言う通りいじめられた程度で簡単に死ぬような神経しちゃいねぇよ。むしろボンゴレ十代目にならなくて良くなんじゃね?って思ったから逃亡というか失踪して、オレは喜々として並盛から出たんだから。

「そう、ですか……そしたら生きていれば良いですね」
「そうですよねー。師匠も張り合いもなくなったって言ってましたし」
「張り合い?」
「沢田綱吉だったからこそ虎視眈々と自分がボンゴレを乗っ取って潰してやろうと思ってたらしいんで」
「………酷く物騒ですね」

冷や汗が出た。こいつは幻術使いで師匠がいて、オレの読みこと直感は外れてなかったのかもしれないと。
薄気味悪く揺れる草木がより一層内心をざわめかせる。

「物騒きわまりない人ですからー。あ、情報屋さんなんですよね、いいこと教えてあげますよー」
「いいこと?なんです?」
「そのうちボンゴレは潰れます。推測ではなく確定の方で。師匠が独特な笑い浮かべて言ってましたー」

ああうん、これはもう本人じゃないのか。独特な笑い方するのって骸だろ多分。うわもう嫌になる。それにオレを乗っとるって言う奴なんざあいつしかオレ知らない。
けどオレら以外にも潰れると予測できる奴がいるとは。放っておいても潰れるけど、ヴァリアーが潰すよ君達がね。

「……それが本当ならこちらには有益な情報になりますね」
「高く売っちゃってくださーい」
「断言できるようになればそうさせてもらいますよ」

へらへらとした口調の割になんていう眼をするんだこいつ。七割ぐらいの確率で気付いてるよ。オレが行方不明者だと。くそうオレの運はここまでか。

「……ああそうだ。もしその沢田綱吉が生きていたとして貴方や貴方の師匠はどうするんです?」

いやだったらオレが開き直ればいい。計画はまだ穴はあるけども、空き時間すべて費やして埋めていけばいい。危なくなった時、すぐにでも遂行できるように。



 

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