リング戦から三日くらい経った頃かな。リボーンが未来へ飛ぶ数日前か。ただ外に出たくて散歩をしに出かけた。
目的もなにもなかったから本当にぶらぶらと。現在ドン・ボンゴレもザンザスも回復してきているとその時は聞いてはいた。
「おい」
後ろから声がした。聞き覚えはある声だったけどオレじゃないだろうと振り向きはしなかった。周りに人なんかいなかったのに。
「カスが。無視とはいい度胸じゃねぇか」
カスって言った。聞き覚えがあってカスって言う奴一人しかオレ知らない。
振り向けばほらやっぱり。
「ザ、ザンザス!お前病院じゃあっ!」
「フン、抜けてきた」
抜けてきたってお前。どうなのそれ。
でもザンザスは気にしてる様子もなく、ぽいっと箱を投げてきた。
「ちょっ!」
「持っとけ」
慌てて受け取ったけどなんだこれと箱を見てもよくわからない。だって真っ白い箱なんだもん。振ってみたら少し重そうな音がした。
「なにこれ」
「携帯だ。テメェ持ってねぇだろ」
そうだけどこんな高いもの受け取れねぇよ。扱い方も多少しか知らないし。
「貰えないよ!」
「黙れ。持っとけって言ってんだろ」
「ど、どうして?」
そもそも何故ザンザスはオレにこんなものを渡してきたのか。理由なんてオレにはわからない。加えてザンザスはオレを嫌っていたはずだろ。だったら尚更わけがわからん。
「テメェの眼が気に入った」
「は?」
「眼だ。周りと仲良ししてるみたいに見せて実はほとんど期待も信用もしちゃいねぇ。それどころか世の中に期待も未来も見ちゃいねぇ。だが自分なりの譲れないものを持ってる眼をしてる」
しばらくぽかんとしてしまった。
誰にも見破られたことなかったのに。見破られないようにもしてきた。だからリボーンが来る前は人付き合いだって煩わしさが重なってしなかったのに。
「………どうして」
どうしてコイツはわかった。どうしてコイツは見破った。
「観戦してる時、仲間と会話してる時は生きてる眼をしてるように見せてるが気付いてないんだろ。アルコバレーノを含め近くの人間全員が自分を視界から外した時、一瞬だけ素に戻る。眼が変わりやがる。死んだ目っつーのが一番言葉的には合う目にな。まぁさすがにあいつらが危機になった時は多少慌てたようだが、なるようにしかならねぇって感じだったからな」
気付いてなかった。完全に癖だ。誰にも今まで気づかれなかったのが本気で奇跡と思った。ザンザスすご。でもバレてるならもう隠す必要なんかないよね。
一度目を閉じて素に戻る。他人に素を見せるなんて何年ぶりだ。
「……すげぇな。でもアンタがそれだけでオレを気に入るなんざ思えないけど?」
そんな人間山程いるだろ。それにザンザスは表の人間じゃない。なら更にそんなの見てきてるハズだもん。
先程とは異なる視線でザンザスを捕らえれば、ザンザスはニヒルな笑みを浮かべた。
「その眼。それだ。気に入ったのはテメェは自分が闘う時だけ本当に生きた眼になってやがった。好きじゃねぇとはよく言ったもんだな」
一部きじゃないのは本気なんだけどな。同意を無視した闘いや喧嘩は嫌いだよ。
「やらざるを選なくなったらやるしかないだろ。なら楽しまなきゃ損じゃん。祈るように眉間に皺を寄せて拳を奮う、だっけ?笑うよね。祈るって何に。眉間に皺を寄せるのは考えてるからだし。あのオレならどう言うかどう行動するかとか。当然、相手はどう動くかとかもね」
口の端を上げて言ってやればザンザスはなんか満足そう。近所でもなく、信頼だとか絆だとかオレにはよくわからないもんを持ってる奴に喋るわけじゃないってのは楽だね。相手に何を思われ、何を感じられてもその後差し支えないもん。
「くくっ……やっぱりお前は気に入った。俺のアドレスと番号は入ってる。何かあったら連絡してこい。場合によるが協力してやらんでもない」
「そんな時が来るなら継承しなきゃいけなくなった時じゃない?ま、せいぜいそんなんがないことを願うけどね」
まさかこんなに早く使うとはその時思いもしなかったな。今思えば本気で感謝してるよ。
その後すぐにザンザスは上手くやれやって消えてった。オレは箱をどうにかするべく公園に行って説明書を読み込み操作を覚えてから箱だけ捨てて家に帰った。
それがザンザスがオレを気に入ったと言った経緯、もしくは携帯を手に入れた経緯だ。
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綱吉もザンザスめっちゃ喋るやん…!
でも台詞書くのは
めっちゃ大好きなんで。
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