10年後設定
装飾自体の主張は強くないが、高級感あふれる広い執務室に、小さな、それでいて深いため息が零された。
「10代目?どうかなされました?」
いかにも(と言うよりも心から)心配そうな声で彼の右腕――獄寺は眉間に皺を寄せた。
「いやぁ…ね。これこれ」
この執務室で一際目を引くをであろう机に頬杖をつき、ひらひらと今まで見ていた紙を獄寺にも見せる。数字が沢山並んだこの紙こそ、10代目こと沢田綱吉のため息の原因だっだ。
「これは、また…」
一目で金銭の書類だとわかる。獄寺は眉間の皺をより深くして、同じようにため息を零すしかなかった。
「だいたいさあ?なんなの意味わかんねぇって。多少はあっても他だってこんなに破壊てか、むしろ倒壊に近い建物の壊し方しないよ」
うげ。その言葉が一番しっくりくるだろう。
ありありと伝わる表情からは「有り得ない」その言葉が出てきてもおかしくはない。
当然といえば当然で。書類に書かれた内容はざっくり言えば、今綱吉達がいる屋敷の立て直しにあてられた費用なのだ。
「……ほらあ。またきた」
部屋の外から慌ただしい足音が聞こえてくる。ブラッド・オブ・ボンゴレを持つ綱吉の超直感は、それは確実良いものでないと告げていた。
「ツナ!」
バンッと乱暴に開かれた扉には、黒髪の端正な顔だちの男が慌てた形相で息を切らしていた。本来は獄寺がもっと静かにしろ!なんて言いたいが、それどころじゃないのは一目瞭然だ。
「山本、今度は誰?」
予測はできてるけど。
先程から賑やかになっている外の様子に、綱吉はこの場から逃避したかった。毎度毎度こんな騒ぎにするのは下っ端ではない。確実に。
「雲雀と骸が!後から小僧も加わって笹川先輩も参加した!」
「お兄さんまで…」
頭が痛い。立ちくらみするような気分だ。
「獄寺君」
「だめです。できません」
「ちょっ!待って!オレまだなんにも言ってない!」
「現実逃避で聞かなかったことにしたいとか言うおつもりでしょう?放置したら被害は更に大きくなるだけです」
「わかってんじゃん!嫌だよオレ!」
「オレも獄寺も止めれねーのな。だからツナが行くしか、な」
無理だ嫌だと自身が座る椅子の背もたれに反り返る。誰だってどんどん被害者(主に部下達)を増やす乱闘の中に入りたくなどない。
それを知ってか知らずか(知っていないわけはない)苦笑しながら黒髪、山本はとりあえずいきさつを話し出した。
「最初は雲雀と骸のいつもの騒ぎだったんだがな、骸が振り降ろした時にえぐった地面の破片が小僧に当たって小僧が参加。そこに通りかかった笹川先輩が面白そうだと言って先輩も参加したんだ」
わかりやすい説明をありがとう山本。おかげで経緯がわかったよ。
肩を落とし、虚ろな目をして綱吉はハハハと笑う。
雲雀と骸の喧嘩を止めようとしたリボーンの顔面(多分だが)に破片が激突してリボーンがキレる。乱闘になる。そこに笹川がやって来て「極限に面白そうではないか!」だの言って自ら突っ込んでいったのだろう。
予測ではあるものの、間違っていない気がする。綱吉の焦点はもう合っていなかった。
「山本お前何してたんだ」
語れるほどには一部始終を見ていたのだ。何故と疑問は浮かぶ。
「あー…いや俺もな、止めようとしてたんだぜ?けど小僧が入った時点で諦めて、なんか泣いてたランボを慰めてたのな」
ランボは被害者その一だろう。
ははー、なんて笑ってないで諦めないで。昔まだ日本にいたころに見たCMのように、諭すように言ってやりたい。うなだれるように座ったまま、綱吉は心から思った。
「ツナ」
「10代目」
綱吉に顔を向けた二人は、申し訳なさそうな顔をして立ち尽くしている(だったら代わりに止めてくれ)。しかし悲しいかな、彼らは止めるより参加の形になってしまい、破壊活動に拍車がかかることが明白だった。
「わかった!行きゃあいいんでしょ行きゃあ!」
とうとう綱吉も立ち上がる。しぶしぶではあるが、手には愛用グローブも装着済みだ。
「頑張ってください!」
「片付け手伝うのな」
当たり前だ。手伝う手伝わないじゃない。やらせるからな。
きっ!と睨み言い捨てる綱吉に彼らは頷くしか他なかった。
外では騒ぎが大きくなっているようである。
「…よっしゃ。ちょっくらシメてくる」
その後、その日部下達は氷漬けになった者を見たんだとか。
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月一で起きてそう(笑)
その度にツナがキレる