オリジナル出てきます。
十年後綱吉と。















ゆっくりとした薄暗い空間のバーの中、一人の男が酒を嗜んでいた。しかし嗜んでいた、と言うにはあまりにも量は多い。もう止めておけと店員がカウンター越しから声を掛けても聴き入れるなどはしなかった。

「絶対なんか、でっかいのが絡んでんだよぉ…」

机に突っ伏せるような体制でぼやく。男は所詮警察官だった。平ではあれど、駆けずり回り働く、そんな男だった。

「悪は悪だろーがぁ」

泥酔一歩手前である。
正義感に強く、曲がったことを嫌う性格の男。だからいつまで経とうが平なんだと同期達は言っている。そんな事わかっていた。それでも男はその信念を曲げることをとても嫌っていたのだ。
ふと隣を見れば一つ席を空けて東洋人が座っていた。幼そうに見えるが気品もあり、自分とは全く違う雰囲気。庶民ではなさそうなのに、どこか庶民臭い、彼はそんな顔をしている。

「にーちゃんよぉ」

アルコールの力もあり、男は彼に絡み始めた。どうやら彼も一人のようだ。
一瞬声を掛けられた事に気付かなかったようだが、席を詰めてもう一度男が声を掛ければゆっくりと顔をこちらに向ける。やはり幼さがある顔をしていた。

「えらく飲んでますね」
「飲まねぇとやってられっか。聞いてくれよ」

男はそう告げるなり口を挟む隙を与えない程、呂律は頼りないが語り出した。自分は刑事で今追っていた麻薬の流通、それがきれいに潰されて更に痕跡すらも掴めないということ。捜査は諦めムードが漂っているという。

「大変ですね」
「大変なんだよぉ!クスリ流してんのも悪人だがそれを潰すのも駄目だろうが!悪人がやったに違いねえ」
「どうして?」
「俺達の介入で捕まえないと駄目じゃねぇかぁ。それを、あんな…」
「皆殺しですか」

そうだと頷きかけて男は目を見開いた。流通させていた組織は殺されていたが、皆殺しとは報道されていない。それより全員かどうかすら組織の使う建物は燃えてしまい、わかるはずもなかった。
彼は微塵も動じず疑問符を浮かべて真っ直ぐに男を見ていた。

「あれ?皆殺しじゃなかったんですか?建物が燃えて、たくさんの人が亡くなったとあったからてっきり」
「あ、ああ。そうかもしれん」

そうか。そういう捉え方もあるのかもしれない。何故だか男はほっと安心したが、少し酔いは醒めてしまった。

「…貴方は正義感がとても強い人なんですね」
「よく言われる。だから出世も中々だ。組織と言うのはキタナイ事もある。それが許せないから俺は平なんだ」

投げやりだった。現場仕事は好きだったし、別に出世したいとは思わない。それでも同期が上に上がっていくのを見て羨ましくないかと言えば羨ましい。
ふぅんと小さく彼は返して酒の入ったグラスに口をつけた。慣れているとしか思えない程スマートな仕種で。

「最近じゃあマフィアだって…」
「貴方は正義の裏は必ず悪だと思いますか?」
「え?」

問われた事をすぐに男は理解出来なかった。少し間が開いてそうだろうとは返したが何を聞きたいのかがわからない。
実際そうだと信じてきた。自分達警察は正義で、法を犯す奴らは悪だと。確かに悪い事だが、男はそれは絶対悪だと信じてきたのだ。

「その悪の裏に何があっても?」
「法を犯した時点で悪だ。思わねえか?」
「うーん、例えばそれをしないと組織は成り立たず、組織にいる人の明日の金銭、食事もできない。働く人の家族を養うことが出来ないと言っても絶対悪だと言えますか?」
「それは…」

言葉に詰まる。考えたことすら男はなかった。ただ悪人だと、そういった認識でしかなかった。
それを見兼ねたのか彼は少年のようにくすりと笑い、それでは変えましょう。そう男に優しく言った。


「ある一人の男性が世界平和を願い、のし上がろうとしています。過程でもちろん犠牲が出ることもわかっています。不満、不平が出ることも、それは誰かが亡くなってしまう可能性があることも知っています。それでもその先にあるのは平和だと信じて彼は動きます」
「いい奴じゃないか。犠牲はアレだが、その信念は素晴らしい」
「では今の現状はあまり良くないとはわかっていても、変えることは犠牲を伴うので変えません。先のことはわからない。ただ今現時点で誰かを犠牲にすることはいけない。そういった人間をなくそう、こちらは?」
「いい奴だ。やはり誰かを救いたいという気持ちがあるのはいい事じゃないのか?」

何を意図しているのかが全く男にはわからなかった。片方は平和を目指しているし、片方は現状の平和を追いかけている。一体何がどうだと言うのか。

「両方自分の掲げる信念を貫いて、正義だと思いますか?」
「ああ。こんな奴らばっかりだといいと思うよ」
「ではそんな二人が出会えば?」
「友達になれ…」

ない。信念は真逆だ。なれるはずなどないのだ。
先程の少年みたいな笑みとは違い、身震いするような笑みを彼は浮かべて、やはりじっと男を見ていた。男は自分の目を疑う。目の前に座る名も知らぬ自分より幼そうな彼は、一体自分の知らぬどれだけの事を知っているのだろうか、と。

「一方から見れば現状では改善されぬと知ってるのに、改善しようとしない上辺の偽善者に見えるでしょう。しかしもう一方から見れば平和などと吐かし征服か、はたまた独裁でもしようとする者に見えると思います。しかし二人とも己の信じることの為に行動します」

どちらが正義で悪人だと思いますか、その質問に男は答えることはできない。自分のグラスを持つ手に少し力が強くなるのが理解できた。目を下に向けて、彼の方を見れない。

「そんなに深く考えちゃ駄目です。仮定の話ですよ。現実社会は結果論。仮に起きたとして、結果が出ぬうちは前者が悪者なんです」

否を唱えようと男が目線を上げれば、いたずら好きな少年の顔が笑っていた。そんな顔をされると男は何も言えなくなる。
気にしないでと言う彼と、気にしなくていいと思う男の内心ではあったが、今にも崩れてしまいそうだった。価値観が、己の積み上げてきた価値観がぼろりと一角崩れたような気がして。

「帰んぞ」

少しの間。そんな時、小気味良い入口の音がしてそちらを男が見れば、すらりとした身体つきのスーツを着こなす青年が立っていた。凜とした声に数人しかいない客も皆注目する形となる。
青年はどう見ても一般人ではない。警察としての勘だろうか。それが男に告げる。

「ああ、わかった」

隣で声が上がる。驚き見れば彼は代金を店員に払い終わったようだった。

「ツナ」
「急かすなよリボーン」

苦笑しながらも彼の口調は穏やかだった。荷物を手に取りゆっくりと青年の元へ歩き出す。あまりに自然で、伸びた背筋がより一層気品を醸しだしていて、男は何も言えずに視線を向けるしかできなかった。

「そうそう、正義の反対はと聞きましたね」
「あ、ああ」

男は声を絞り出すのもやっとだ。

「場合にはよるけれど、正義の反対はもう一つの正義かもしれませんよ」

それだけ言って紳士の如く軽い礼を男にして、彼は青年と共に去って行った。
もう男に酔いなど残っていなかった。








----------
警察の人はオリジナル。
名前なんてない。
正義の反対が悪だなんて
お伽話じゃないのかなあ、と。
正義=信念ですね。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -