小さなお店
2011/10/11


「適任はあいつ。オレじゃなくていいじゃん。知らねーよ」

ナッツの営業も終了した午後十一時前。人通りの少ない此処では、ちらほらと居酒屋の明かりがあるが大通り程明るさはない。
そんな中で綱吉は電話相手に吠えていた。手には珍しく赤く燃えて光る煙草が煙を昇らせる。

「何かするつもりはないから。オレはこの小さな個人店で充分なんだ」

それだけ言えば煙草を口に含んだ。電話相手が何を言おうが綱吉は否定的な言葉だけを口にする。吐き出した濁った煙は今の綱吉の内心かのようにも見えた。

「もういいって。あ、たまには帰って来たら?オレは良くとも母さんが寂しがってるよ」

面倒になったのかそれだけ伝え、じゃあね。と携帯を閉じた。もう一度煙草をくわえると、ため息と共に紫煙を吐いた。
ポケットに携帯をしまい、ボリボリと頭をかいて鍵を閉めた店の戸の前にしゃがみ込んだ。

「つなよし、さん?」

不意に横から声がして、顔を向ければ帰ったはずの獄寺。必死で自転車を漕いできたのか、肩で息をしていた。

「あ、獄寺君」
「あの、忘れ物して…」
「携帯でしょ?勝手に触るのはどうかと思ったけど、戻って来るかもと思ったからオレ持ってるよ」

戻って来なけりゃ明日渡せばいいし、と笑って立ち上がり、煙草を口にして鞄から獄寺の携帯を取り出した。はい、と渡せば獄寺は安堵した表情をさせる。

「ありがとうございます!」
「気をつけなきゃねー。オレもたまにするけど」
「やっちゃった!って、なりません?」
「なる。まあしゃーねーかともなる」
「わかります」

くすくすと二人して笑って、短くなった煙草を携帯灰皿に綱吉は押し付けた。
脇に置いてあった自転車に手をかけると、獄寺に帰ろうかと促した。

「綱吉さんって煙草吸うんスね」
「たっまーに。専門卒業してからは数える程だし、凄いイラってした時だけだよ」

カラカラと自転車は回る。
いつもわりとのほほんとしている綱吉とて、イラっとくる時とてある。へぇー、と相槌を打つが、それ以外獄寺とてできない。獄寺も喫煙者だからだ。

「なんかあったんですか?」
「気にすることないよ。たいしたことじゃない。父親との会話だし」
「お父様ですか!」
「そんないいもんじゃない。父親だけど、まあ、うん。帰っても来ないんだから」
「確かに見たことはないですが…」
「ま、最近じゃ成人式以来見てないけど」
「ケッコー前ですね」

だよねー。なんて笑って前を見ているから、獄寺も前向いた。二年は勤めているが、確かに見たことがない。話しすらちらっとしか聞いたことがない。
一体どんな人なんだろうかと想像していれば、カラカラと車輪が回る音が一つ止まっていた。

「どうしたんですか?」

少し後ろで止まっている綱吉を見て疑問を投げかける。上の空な返事を返して、綱吉は街頭が光る空を見上げていた。
少し歩けば大通りに出れるので、看板のネオンも光り、車も通るし、星なんて殆ど見えやしない。

「明日日曜日だよねぇ」
「へ?ええ、そうですが…」
「獄寺君予定ある?」
「いや特には」

どうせ昼過ぎまで寝て、ナッツに出勤するくらいだ。レポートも何もないので空いていると言えば空いていた。

「よし、飲もう!」
「今からですか!?」
「コンビニで酒とつまみ買って飲もう!」
「構いませんけど、どこで…?」

土曜日の夜なんてたいがいはもう満員だ。お兄さんやお姉さんが駅前や店前で声をかけ、掻き入れる。二人なら空いてなくはないだろうが、探すのも綱吉は面倒らしい。

「うちで」
「綱吉さん家っスか!?」
「だめ?」

こてんと首を傾げる綱吉は獄寺より幼く見え、また未成年にも見える。というか未成年を誘っているのだが。煙草も酒も未成年に勧めててはいけない、なんてわかってるが本人によれば「高校生、あー…まあ、高校過ぎたら自己責任だろ」らしい。
獄寺の場合、煙草も吸うし酒を飲むことも綱吉は知っている。ついでに一人暮らしという気軽さもあるから誘ったのだが、駄目な大人と言われれば頷く他ない。

「大丈夫っス!」
「よっしゃー!ぱーっと飲むぞ、ぱーっと!」
「ハイ!」

初めて行く綱吉の家と、初めて綱吉と一緒に飲むことで、少し楽しみだったりする獄寺。そんな嬉しそうな表情をする彼の隣で綱吉も表情を明るくさせ、自転車へと跨った。

「なんか色々、忘れてぇなあ」

小さく呟いた綱吉の言葉は誰の耳にも届くことなく、獄寺とコンビニまで自転車を走らせた。







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未成年は酒も煙草も駄目ですよ!
表現の一環ですからね!

説得力ないとかわかってるけど
私成人済みですしー←


今気づいた。綱吉が煙草を吸ったのは専門学校時代となりますよね。18で入学と考えたら未成年だったコイツも!
綱吉は煙草を初めて吸ったのは、単なる好奇心とか興味本位です。それと高校卒業の頃少し精神的に苛々して不安定だったからです。専門卒業の頃には落ち着いた、と。



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