「臨也ー、入るぞー」

臨也から渡されている合い鍵を使って、部屋の鍵を開ける。
俺はドアを開けてすぐに驚いた。もう夜なのに部屋の中は真っ暗で、電気もなにも付いていなかったからだ。
暗闇の中、窓から入る月明かりに照らされて、臨也は座っていた。椅子ではなく壁を背もたれにして床に座り込んでいて、焦点の合わない虚ろな目でただぼーっと部屋のどこかを見ているようだった。
その時、


ぽろっ

「え、ちょ、臨也どうし、」

臨也が泣いていた。いや正確には、臨也の目から涙が零れた。
一粒だけ。
俺は背負っていた斜め掛けバッグをそのままに、臨也に駆け寄った。

「ど、どっか痛いのか?何か当たったのか?あ、平和島さんが原因か?自販か標識がどっかに当たったのか?それとも平和島さんじゃなくてほかの誰かににやられたのか?それとも、っ」

俺、今、凄くおろおろしてる。どうすればいいか分からない。
臨也は何も言わずに相変わらずぼー……っとしていて、俺の言葉が聞こえているのかすら分からない。

「えっと…当たった所みせろよ、応急処置くらいした方が…あ、病院行くだろ、」

「ちがうよ」


やっと臨也が喋ったと思ったら、それは否定の言葉。

「え……………」
「何も当たってないし、怪我もしてないよ」
「じゃあ、なんで泣いて………っ」

あれ、何で俺、

「なんで君が泣きそうなんだ」
「だ、だってっ……臨也が泣いてる所なんて見たこと無いし、…っ俺どうしたらいいか分からなくて、」

少しの沈黙の後で、臨也が口を開いた。


「………ちょっと…さみしくてさ」

「……寂しかったのか?」
「うん、」


何だ……怪我したんじゃなかったのか…良かった。


「なんで、寂しかったんだ?」

「…最近仕事忙しくてさ……夏木くんに会いたかったのに全然会いに行けなくて、メールも電話も出来なくて、」
「それは、仕事なんだから……仕方ないだろ………」
「分かってる、分かってるけど、…………………さみしくて、」
「………そっか…………って、うわっ!」


突然臨也が俺に抱きついてきて、俺の首筋に顔を埋めた。
とっさに後ろの床に手を付いてやっと受け止めたけど、俺的にこの体制は辛い。俺自身を支えているのに加え臨也の体重もプラスされている。
いつもの俺だったら、いつもの臨也だったら、俺は躊躇も遠慮もなく突き飛ばしている所だけど、……今は、今だけは、もう少しこのままでいてあげようと思った。


まあ、そのあと臨也が俺の服の中に手を入れてきてあったかい……なんて言うからどっちにしろ突き飛ばす事になるのだけれど。


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なんという微妙な終わり方。

というわけでここでもし、夏木くんが突然の事で反応出来なく、後ろに手を付けられなかったら!


突然臨也が俺に抱きついてきて、俺はその反動で臨也ごと後ろに倒れてしまった。

「い、いたい…………」

主に背中が。
頭は臨也の腕が首の後ろに回っていたから床にぶつける事はなかった。臨也の腕の方が痛いんじゃないか…?臨也大丈夫かな……
それでも尚、痛いとも言わず黙って俺を抱き締めたまま離さない臨也に苦笑してしまう。
どんだけ寂しかったんだよ。

「臨也………」
「何?」

おお、喋った。

「俺も、寂しかったよ……」
「っ、夏木くん………!」

ぎゅううううう

「うぐっ…し、絞めんな、そこ…っ首!首だから!」


どうして泣いているの、
(ほんとにさみしかったあああああああああ)
(分かったから、分かったから!……し、死ぬ………!)



おわり!

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なんだ、こっちの方がいいじゃん。
とは誰もが思った事でしょうね……^p^p^p^
私もそう思いました!(逃