風介視点です。

風介と晴矢がおひさま園に居た頃の話です。







人間は誰もが不完全であり、醜い生き物である。

私はそれを知っている。

人間はみんな無意識のうちに綺麗なところだけを見つめて生きて行こうとする。

例えば自らの人生に終わりがあること、いつかは終わりを迎える命。

その終わりを世の中の大抵の人間は見据えていない。

目を反らし、今だけを見つめる。

私はまだ十にも満たない子供、だから死なんてずっと先、だけどいつかは必ず終わりは来るのだ。

そんなことを眠れない夜に考えるとどうしようもなく不安になる。

そもそも私たち人間が生きて世の中の理を築き、自分たちが生きていくのに役立つ知識や機械を作ったり発見したりすることには広い宇宙から見ればなんの意味もないことだ。

私は小さい子供ながら考えてしまう。

自分という存在の意味を。

…でも考えても仕方ないことだと言うのはわかってるんだ。

だって本当は私という存在にも意味なんてないんだから。



「おい風介、お前なんかがさがさうるせぇぞ。」

隣で寝ていた晴矢がぼやいてきた。

つくづく相部屋とは不便だ。

おまけにここは親が居ない子供を養う施設にある一室。

狭い部屋に二人で押し込められて…自由がきかないのは私たち人間にとって苦痛でしかないのだが、ここを出れば死ぬしかない私はこの狭い部屋で、しかも全然気の合わないこの男と過ごさなくてはならない。

「おい、聞いてんのかよ。」

「うるさいのはお前だ。

早く寝ろ。」

「スタンドつけて本を読んでるお前には言われたくない。」

晴矢はムスッとした表情で私を見てくる。

時間はもう夜中の二時をまわっていて子供の私たちはもう寝ていなければならない時間。

「…本当にうるさい奴だ。」

パタンと本を閉じて私は天井に視線を移した。

「お前は本当にウザい奴だな。」

晴矢が忌々しそうに言う。

私は晴矢の言葉に無意識に微笑んだ。

「なに笑ってんだよ。」

「お前のことはあまり好きではないが…実に面白いと思ってな。」

「はぁ?。」

晴矢はうるさい。
晴矢は暑苦しい。

晴矢は元気。

晴矢は真っ直ぐ。

晴矢は馬鹿。

…でも

「晴矢は人間らしい。」

「…意味わかんねぇ。」

「晴矢はどうでもいいことは考えないで楽しく生きている人間だろう?

私はいつも下らないことばかり考えているのだ。」

「下らない?。」

「お前には理解出来ないであろう哲学という奴だ。

私たちが生きている意味、地球という星が何故まわり続けるのか、生き物は何故死ぬのか、この広い宇宙に生まれ下らない理を築き生きる我々の人間のこと。」

一通り疑問を言い終え晴矢を見ると晴矢は意味がわからんという顔をしていた。

「お前って本当に頭かたいな。」

「そうだろうか?。」

「ああ。

意味なんてのは作るもんだ。

生まれてきちまった以上俺たちは生きるしかない。

そりゃぁ死にたいなら死にゃぁいいけど人間の一般論としては生きて幸せになるのが人間の使命的な感じだし、死ぬより生きる方が楽しいじゃねぇか。

意味なんてさ、無くてもいいじゃんか。

俺たちが意味があるって思えば意味はあるんだよ、きっと。

お前が疑問に思ってるもろもろにも。」




私はこの時生まれて初めて感心という感情を覚えた。

なんて素晴らしい考えを持っているのだろうこの人は。

「晴矢、そっちへ行ってもいいだろうか?。」

「…お前が俺のベッドに?

まぁいいけど。」

私は晴矢のベッドに移動して彼の心臓がある部分に耳を押しあてた。

どくんどくんと心地よい鼓動が聞こえる。

「晴矢…晴矢の鼓動は聞いていて心地よい。」

「んだよ…気持ちわりぃな。」

「失礼な奴だ。」

彼の顔を見上げると彼は顔を真っ赤にしていた。

「晴矢、私はお前が好きだぞ。」

「だぁああっ!

恥ずかしいことばっかり言ってんじゃねぇっ!。」

うるさいな晴矢は。

だが嫌いじゃない。

「晴矢。」

「んだ…ん…。」

うるさい晴矢の口を私の口でふさいだ。

口を離して晴矢の顔を見ると金魚のように口をぱくぱくさせていた。

「晴矢、喜べ私がお前の恋人になってやろう。

私の常々の疑問を解消してくれたお礼だ。」

「勝手なことばっかり言ってんじゃねぇっ!!!!!。」

「おやすみ。」

瞳を閉じて私は眠りについた。



…───晴矢のことを好きだと思った幼い日の長い長い夜の話。

end


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凍えた心の最様から!
風介さんは…難しい事を考えていますね;
でも2人ともかわいい!
60000hitおめでとうございますっ!