!基風要素あり





「…………くそ、」


風介は、呟いた。


「なんでっ、」


一人、ボウルに入っている茶色い物体をかき混ぜながら。







前日。



携帯が突然震えた。
メールだと思ったし、面倒だったからそのままにした。
なのに、何故かずっと鳴り続けているから、慌てて携帯を開いたら、着信だった。



『遅いよ、風介』


そして相手はヒロト。


「…切っていい?」


『えっ!ちょ、待って待って!風介は明日さ、晴矢にあげるの?』


切ろうとしたのに、『晴矢』という単語が出てきたせいか、電源ボタンが押せなかった。


電話を切るタイミングを逃してしまった。


「……何の話?」

『だからさ、チョコだよ!』


『だって明日はバレンタインじゃないか!』

「!」

『俺はね、風丸くんにあげようと思って、…あっ、もちろん円堂くんにもあげるよ!』

「…それで?」

『だから、風介はあげないのかなぁって、』


「…………あげた方が、いいのか?」


『そりゃあもちろん!晴矢だって喜ぶよ』

「よろこ、ぶ…」


「私も、今から作ろうかな、」

『そうしなよ!うん、それがいいよ!』

「じゃあ、頑張ってみる」

『うん、頑張れ!』

「………じゃあね」


ピ、と音がして、通話が切れる。
なんだか少しだけ嬉しくなって、思わずふ、と笑みが零れる。



だが、コンビニでチョコレートを買ってきて、それを溶かしたりしてみたものの、…うまくいかない。

何故だ。



そして、今。

さっきヒロトと話した時は、晴矢のため、と思ってとても満たされたような気持ちだった。

が、

チョコを溶かして型に入れて凍らすだけなのに、何故かうまくいかなくて、段々イライラしてきた。

どうして出来ないんだ、と。



とりあえず解決策を、と思ってヒロトに電話をしてみた。



出ない。

持っている携帯を折りそうになった。





落ち着け、私。

とりあえず、風丸に電話してみよう。
もしかしたら解決策も見つかるかもしれない。

携帯の電話帳から、『か』の行の『風丸』を探して発信ボタンを押す。


風丸は、意外とすぐに出てくれた。


『もしもし?涼野か?』

「そうだよ、」


『どうかしたのか?』

「………いや、何でも、ない」

『? じゃあ何で電話してきたんだ?』


涼野って面白いよな、と笑いながら言われ、少し恥ずかしくなった。


「お、面白くなんか…」

『面白いよ、』


『チョコ、作るんだろ?』

「えっ…何で知って、」

『ヒロトから聞いたんだよ』

「…そうか」


『がんばれよ、板チョコをとかして、型に流し込んで、凍らすんだぞ、…あ、溶かすのは電子レンジでも出来るみたいだぞ』


…………電子レンジ?


「かき混ぜて溶かしてた私が馬鹿みたいじゃないか…」


『ははは、大丈夫さ…じゃあもう1つ。冷凍庫で固めない方がいいってさ』

「えっ!」

『まさか涼野…冷凍庫で凍らしてたのか?』


「……………そっちの方が早いと思って、」


『馬鹿だなー、涼野は、』


私は……馬鹿だ。


『今からでも余裕で間に合うからさ、もう1回作ろうぜ、な?』

「…うん、分かった……頑張る」

『頑張れよ!』


電話を切って、視線を台所の方に移す。

よし、やろう。








冷凍庫でやったから、食べた時になんか固かったんだ。
きっとそうだ。

風丸から言われた通り、今度は電子レンジでやってみた。
そして今、冷蔵庫から出したチョコレートを4等分したものの1つが、私の目の前にある。


これを食べてさっきより固くなかったら、残りを他の友人にあげよう。


私は、手を伸ばしてそれを、口に入れた。

……………おいしい。



少なくともさっき作ったチョコレートよりかは全然おいしい。

これ、他の人にあげても大丈夫か?
私の味覚がおかしいのかもしれないし。



まぁ…いいか。

頑張ったし………
チョコを作るのは初めてだから、今年はこれで我慢して貰おう。

来年は皆に、所謂『生チョコ』とかいうのを作ってあげればいい。
あれはすごくやわらかくて、おいしい。
口の中で、とろける。


チョコ…私も2、3個くらいなら貰えるだろうか。
少し楽しみになってきた。







次の日。
バレンタインデー当日。




私の予想は、外れた。
……………良い意味で。

2、3個どころではなく、15、6個貰ってしまった。
頭の中がほぼ貰ったチョコレートでいっぱいになっている私は、忘れていた。

自分も渡す側にいる、ということを。


そしてそのまま時間が経ってしまい、もう昼過ぎになって、何気なく鞄の中を見た所、『それ』は入っていた。


「あ、チョコ」


そこには水色の包装(一応買った)と昨日作ったチョコレートが入っているビニール袋。

完っ全に忘れていた。

晴矢はどこだろう…と席を立ち、周りを見渡したら、廊下に居た。
声を掛けようと思ったら……たくさんの女の子達に囲まれていた。

困っている。
それにイライラしているみたいだ。


これは……渡せないな………


とりあえず一度椅子に座る事にした。

頬杖をついてそのまま晴矢の方を見ていると、一瞬、晴矢と目が合った、気がした。
私に気付いた晴矢がこっちへ来ようとして歩き出すけど、残念ながら全く進めてない。

………しょうがないな。



私は席を立った。





このあと、あの集団の中からどうにか晴矢を連れ出して、
チョコを渡し一緒に家に帰った私をどうか褒めてほしい。





2011 バレンタインデー

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長いくせに内容がまったくない