俺の前には透きとおっているなにか液体の入った小さな小瓶。



「なんだよそれ」
「…さっきから何っ回も言ってるのに」

君に耳はついてるのか、とグランは呟いた。ほぼ反射的に何か言ったか、と返すと別に何も、と返って来た。


「つまり、これを飲むと猫耳が生える」

「は、………ええええ!?」
「せっかくだから、試してみようかと思って。君で」
「なっ…ふざけ、」


「ああ勘違いしないでよね、別にこれは君の猫耳姿が見たい訳じゃないよ。もしこれでちゃんと猫耳が生えたら、俺は他の誰かにも安心して使う事が出来る、そういう事さ」
「ならてめーの頭でやれよ!俺を実験台にすんな!…って、お前まさか俺の次にガゼ「え?何?聞こえない」……うぜー…」
「君が食べやすいようにと思ってわざわざクッキーに混ぜてあげたんだから、さっさと食べてくれない?」
「誰が食うか!」
「早く食べてよ」
「…っこんなもの!」

俺はグランに押し付けられたそれを強く握りしめ、思いっきり向こうへ投げた。
ざまあみろ!と勝ち誇ったような笑みを浮かべてグランを見ると、奴は涼しい顔で、

「…まあいいけど。今あれたくさん持ってるし」

と言ってグランはさっき俺が投げたものと何ら変わらない、クッキーの形やら色やら包装紙まで何もかもが同じの、そう、あれをどこからともなく取り出した。

「はい、これ食べてね」
「ぎゃああああ出すんじゃねええええ!」

俺の叫びが廊下に響く。
すると、君達うるさいよ、という声と共に誰かがこちらへ歩いてきた。途端に俺の顔が明るくなる。

「ガゼル!丁度良かった!助け…」

助けてくれ、そう言おうとした言葉はガゼルが手に持っていたものを見て発することが出来なかった。さらに、今さっきまで明るかった俺の顔が青くなる。

「そ、それ……」
「…ああ、この袋か?そこで拾ったんだが」

俺えええ!何でさっき適当にそこら辺投げた俺ええええ!俺の馬鹿!こんな事なら投げるんじゃなくて菓子なんだから砕けば良かった!ちょっと待てよくよく見たらガゼルが持ってる袋に中身が入ってないような……いや、ちょっと待てまさかまさかまさか

「ガゼルそれ、まさか食べ……」

食べてないだろ、食べてないよな、捨てたんだろそうだよな!そうだって言ってくれ……!いやまさかガゼルに限ってそんなこと、

「? クッキーなら、甘くておいしかったよ」

この食いしん坊が!横をちらりと見ると元々青白いグランの顔もガゼルの言葉を聞いてより蒼白になった。

急に俯いて黙り込んでしまった俺達を見て、ガゼルは呑気に大丈夫かい?なんて聞いてくる。大丈夫かなんて寧ろ俺らの台詞なんだけど!
俺はグランの首に片腕を回し、身体をぐいっと回転させガゼルに背中を向け、本人に聞こえないようグランに話しかけた。

「なあ……大丈夫なのか、あれ実験用なんだろ」
「お、俺にもどうだか……たたた多分大丈夫…あわわわ」

まずい。予想以上に事態は深刻かもしれない。つーか、俺にはあんなクッキー(というか薬)平気で食わせようとしたくせに、ガゼルに代わった途端おろおろしやがって。


「………、さっきから何2人でこそこそしてるんだ」

「い、いや、別に…な、グラン」
「う…うん……」

元はと言えば、グランがあんな薬作るからこんな事に……でも必死だったとはいえあんなものを放り投げた俺も悪い。

と、いうわけで

「いいかグラン、この薬に関しての責任を全部俺が持ってやる。勿論ガゼルにこれをおまえが作ったなんて言わない。そんな事言ったら嫌われるの確実だろ?」
「それは…まあ……」
「だろ?……だからお前、今すぐ部屋帰れ」
「……………は?」