ただいまと言える場所




縁側に続く襖を開け、心地よい風が吹き抜ける部屋

布団の上で、すぅすぅと寝息を立てている奏海と

その横で、同じく心地よさそうに眠っている小娘


奏海を寝かしつけようとして、一緒に眠ってしまったんじゃろうな


そろりと足音を忍ばせ、眠る2人の傍に、静かに膝をつく


気持ちよさそうに眠っちょるのう


向かい合って眠る2人は、大きさは違えど、まるで鏡に映したように、見事なまでに同じ格好で

それがあまりにも可笑しゅうて可愛らしゅうて、緩んだ頬が戻ろうとしてくれん


奏海は、ワシによう似ちょると、いつも言われちょるが

こうしてみると、すぅっと筋が通った鼻や、眉の形なんぞは、小娘によう似ちょるのう・・・


いくら見ても見飽きることのない、小娘と奏海の寝顔に

泣きたいような、それでいて温かな想いが、身体ん奥から、じわりと湧き上がってくる




愛おしいっちゅうんは、きっと、こん想いのことを言うんじゃろう




さらりと吹き抜けた風が、2人の髪を微かに揺らす

誘われるように、小娘の頬にかかっちょる髪をそっと避けると


「・・・ん」


小娘の口から小さな呟きが零れ、思わず手を引っ込めた


こりゃあ、しもうた!

起こしてしもうたかっ?


閉ざされていた瞼が、ゆっくりと持ち上がってゆく

そん姿を、息を詰めて見つめちょると

まだ夢の中に居るような、ぼんやりとした瞳がワシを捉え・・・


「龍馬さん、おかえりなさい・・・外、寒かったでしょ?」


ふわん、と微笑む小娘の姿と言葉に、記憶の中の姿が、綺麗に重なる


京の寺田屋で過ごしちょった時分に迎えた、ワシの誕生日

ワシの帰りを、ワシの部屋で待ってくれちょる間に、眠ってしまっちょった小娘が

寝ぼけ眼で、今と同じことを、言うてくれたんじゃったの・・・


当時のことを思い出し、つい頬を緩めちょると


「・・・あ、れ?」


次第に覚醒してきたのか、ぼんやりとしていた瞳が、しっかりとした光を帯び始める


「龍馬、さん?」

「ん?どがんしたがじゃ?」







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