ただいまと言える場所




空は青空、五月晴れ

眩しさを増した陽射しの中、帰路につくワシの足取りは、自分でもわかるほどに軽い


やっと

やっと、会えるがじゃっ!


海援隊の仕事で、長崎を離れている間、どれほど会いたいと願ったことか・・・

ワシの帰りを待っていてくれるはずの、小娘と奏海(かなた)

2人の顔を思い描くだけで、頬が緩んでゆくんが止められん

天候に恵まれたおかげで、予定よりも1日早く港に船が入ることができたが

小娘と奏海は、そんことを知らんはずじゃき

ワシが帰ってくるんは、明日じゃと思うちょるはず

1日早く帰ってきたワシを見て、2人はどんな顔をしてくれるじゃろうか・・・

ワシがおらんかった間、奏海は、泣いたりせんじゃったろうか・・・

小娘は、1人で頑張りすぎちょらんじゃったろうか・・・


2人のことを思えば思うほどに、早く会いたいと逸る気持ちは増すばかりで

歩を進める足も、次第に速さを増してゆく


早く、2人に会いたいがじゃ・・っ・・


弾む鼓動と、弾む息

体温が上がり、額に浮かんだ汗が、こめかみを伝って顎へと流れ落ちる

それでも、駆ける全身に感じる風はひどく心地よく

2人が待つ家へと続く道を、ひた走りに走り抜ける

そうして、目指す家を、ようやく視界に捉えた途端、自然と頬が緩んだ



やっと、会えるっ・・



「小娘っ、奏海、ただいまじゃっ!」


ガラリと木戸を開け、駆けてきた勢いのまま、家の中に向かって声をあげたものの・・・




・・・・・ありゃ?




期待していた愛しい声は返ってこない

しん、と静まり返った玄関にいるワシの耳に届いたのは、長閑な鳥のさえずりだけ・・・

予想外の事態に、思わず指でぽりぽりと頬を掻いてしまう


おかしいのう

2人の草履がここにあるっちゅうことは、外には出掛けちょらんはずなんじゃが・・・


ブーツを脱ぎ、静かな家の中へと歩を進めたワシは

目に飛び込んできた光景に、思わず口元が緩んだ





なるほどの

これじゃ返事が無いはずじゃ・・・








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