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静かな生活(3/4)
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茶を淹れて縁側に戻ると、小娘はそこに座り、取りこんだ洗濯物をせっせと畳んでいた。
「小娘!」
名前を呼ぶと、こちらを振り返って太陽の様に明るい笑顔を見せる。
「龍馬さん!お仕事、終わったんですか?」
「あぁ…茶を淹れて来たぜよ」
隣に座って茶を差し出すと、小娘は持っていた洗濯物を置き、礼を言いつつも、申し訳なさそうに受け取った。
「せっかくお仕事終わったのに…」
「えいよ。たまにゃぁ、わしが小娘に茶を淹れてやりたかったちや」
「…ありがとうございます」
小娘は照れたように笑い、いただきます、と言ってから湯呑みを口に近付けた。 それを見て、わしも茶を口に入れる。
一口飲み、示し合わせたかの様に、ふぅ、と同時に息を吐いたものだから、なんだかそれが可笑しくて、二人顔を見合わせ、吹き出して笑った。
それから、小娘は残りの洗濯物を畳み続ける。何度か手伝おうかと声をかけるがその度に、駄目です、とにこやかに断られた。
口を尖らせ、手持ちぶさたに横目で小娘の手元を見ながらも、漂う空気がとても柔らかく、わしの顔は段々とだらしなく緩んでいった。
その顔が余程可笑しかったのか、小娘の手がぴたりと止まり、わしの顔を覗き込む。
「…私、何か変でした?」
おまんは何をしちゅう時も可愛いと思ちょったが…
と、口にしたかったのだが、寸でのところで飲み込んだ。
数刻前まで会っていた大久保さんに、帰り際小娘の事を訊ねられ、可愛い可愛いと話をしたら、
「全く、相も変わらずの返答だ。まるで同じ言葉を繰り返すだけの子供の様だな。誉め言葉が馬鹿の一つ覚えでは、その内厭きられてしまうぞ。まぁ、小娘相手では、それくらいの誉め言葉で調度良いのかも知れんがな」
と、鼻で笑われ、厭きたらいつでも私の元に来いと伝えろ、と見送られたのを思い出したのだ。
憎まれ口を叩いても、どこか優しく微笑む大久保さんの表情が脳裏に浮かぶ。
馬鹿の一つ覚えでも、実際に可愛いのだから仕方ない。そうは思いつつも、確かに、あの人ならうまく誉めてやれるのだろうと考えると、胸の内で何かが燻るように、もやもやとする。
「龍馬さん、どうしたんですか?百面相してる…」
その声にはっとして小娘を見ると、黙り混んでいるわしを少し不思議そうに見つめていた。
「い、いんや…なんちゃぁない……」
わしは両手をぶんぶんと振り、慌てて笑顔を作る。そして、長く息を吐いた。
「わし、子供みたいで、すまんのぅ…」
突拍子もなく、そんな事を言ったものだから、小娘はきょとんとした顔をする。
「え、急に何を…」
「うむ…気を遣わせてしもうたり…他にも色々とな…」
「そんな事、ないですよ。気を遣うなんて……それに…」
「それに?」
「子供っぽいのは、今に始まった事じゃないじゃないですか!」
小娘はにっこり笑って言い切った。
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