03



家につくと今日の疲れがどっと押し寄せてきてソファーに体を沈ませた。スーパーに着いたのがお昼頃だったためお腹もすいた。
何か軽食を済ましてくればよかったと後悔するが、まとわりつくような暑さで空腹は薄れてきている。

冷房のスイッチを入れて重い体を起こす。切原くんは流石と言うべきか、現役テニスプレイヤーなのでまだピンピンしていた。

「これどこ置けばいいすかー」
「そこで大丈夫。今整理するね」

買い物袋を一旦リビングに置き、切原くんの生活用品をキッチンやらお風呂場などに追加していく。
切原くんには洋服のタグを取る作業をこなしてもらい、畳んでクローゼットに収納。
これで大体の作業は終わったはず。プチ引っ越しをしている気分だ…疲れた…。

さっきまで真上にあった太陽は西の方角へ沈みつつある。オレンジ色の空に物悲しさを感じた。

「おつかれ…切原くん」
「…体力ないんすね」
「悲しいことに」
「はー、にしても夢みたいだなー。今日からここに住むんだよな…」
「寂しい?」
「そんなんじゃないけど、変な感じ。これなら副部長のお怒りも飛んでこないと思うし……こないよな…」

ぶつぶつ呟く切原くんにソファーを占領されて私は台所に向かう。整理に夢中になってたから時間の進みが早い。夕飯は何にしようか悩み、冷蔵庫にあった残り物で冷やし中華を作ることにした。

「テレビとかつけていいからね。ていうか存分に寛いでいいからね」
「はーい」

テレビをつけた切原くんはチャンネルを回して夏休みの特番、ホラー番組を見始めていた。
ホラー番組って怖いと思いつつも好奇心に負けてついつい見ちゃって後で後悔するんだ、わかってるんだ。でも見たくなるんだよね、不思議だ。

切原くんは番組に寄せられたホラー体験談の再現VTRにも動じず食い入るように見ている。私も料理の合間に見ているけど、最近の再現VTRはリアルすぎて直視できない。なので、バーンとかましてきそうなところは前もって目を反らしていた。じゃなきゃお風呂入れなくなる!

「切原くん怖いの好きなの?」
「好きっつーか楽しいんすよ!丸井さんは好きじゃねーの?」
「怖いけど好奇心に負けて見たあとに後悔するタイプ」
「女のあるあるっすね」
「ぐ……」
「つか俺のこと名前で呼んでください。名字呼びぶっちゃけ慣れてないんすよ」
「あ、うん、わかった。えと、赤也くん…でいい?」
「うっす!」

うおお…!これが少年の笑顔…!眩しいぞ!
まあそんな赤也くんのバックには特殊メイクのすごい幽霊役の人がテレビに映っていたんだけどそこは赤也くんの笑顔でなんとかカバーした。

「私のことも名前で呼んでいいから。いつまでも他人行儀じゃ堅苦しいもんね」
「へい」
「…名前覚えてる?」
「なまえっすよね」
「おおー正解」

そんなこんなで少し親睦が深められたと思う。出来上がった冷やし中華をテーブルに並べてチャンネルはそのままに、一人暮らしを始めてから初めて二人での夕食。
昨日まではテレビを見ながら淡々と食べるだけだったが、今日はなんだか楽しい気分だ。自然と弛みそうになる頬を抑えていただきますをした。

***

「ごちそうさまでした!おいしかったっす」
「それはよかった」

麺にきゅうりやらたまごをのせた上につゆをかけただけの簡単な料理だけどね。
空になったお皿を片付ける。そういえば彼の好物はなんだろう。食器を水につけながらなんとなく聞いてみた。
そしたらまあなんというか、年相応というか、食べ盛りの少年らしい答えが返ってきた。

「肉。焼肉」
「焼肉かあ。そういやしばらく食べてないな」
「あああ…思い出したら食いたくなってきた…」
「じゃあ明日の夕飯は焼肉行こうか」
「まじすか!!!」
「おーいいぞー」

よっしゃー!と腕を上げ喜びを露にする赤也くん。私も楽しみになってきた。

上機嫌になってもらったところでシャワーに入ってもらい、彼が出たあとに私も今日の汗を流した。

よしさあ寝るぞ!と言いたいところだが…。

ベッド一台しかなかったよ!
一人暮らしだから当然か…。

慌ただしくなってしまったが赤也くんがベッド、私がソファーということで落ち着いた。
お客さんにソファーで寝てもらうのもどうかと思った結果であります。

寝室には大学の教材だったりサークルで使うテニスラケットだったり鞄だったり散乱しているが、気にならない程度だったので安心。…昨日片付けといてよかった。

赤也くんを案内すると、失礼します…と学校の職員室に入るように緊張していた。そんな畏まるほどの部屋でもないのにね。

「あれ、ラケット」
「ああ、私大学でテニスサークルに入ってるんだ」
「それを早く言ってくださいよ!」
「ん?」
「明日テニスやり行きましょう!」

テニスラケットを見つけたとたんに爛々と目を輝やせる赤也くんにもちろん断るはずもなく。
ラケットも二つあることだし、ラリーくらいはできるなと脳内で明日の予定を立てていく。

「それじゃあ焼肉の前に打ちに行こうか!」

約束をして、それぞれ眠りについた。



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -