06



翌日の今日は朝一番にプリントの採点をして、起きてきた赤也くんに結果を伝えるところから始まった。

「赤也くん、すごいよ!国語90点だよ」
「まじすか!へへ、国語得意なんすよ」

文章はちゃんと読み取れていたし、漢字もよく書けていた。
90点と聞いてすっかり目をさました赤也くんには申し訳ないが、残念な結果も伝えなければならない。

「だがしかし、英語が…」
「…」

英語のプリントを出すと点数を見ながら固まった。

「おかしいな…もう少しいったと思ったんすけど」

そんなコメントを頂いたが、点数なんと10点。
問題は10問だから1問しか合っていないということになる。単語と文法問題を半分ずつ出して1問。それも辞書を置いていたのにも関わらずだ。
これなら英語を全力で拒否していた理由もわかる気がするが…。

結構、いや本気で心配になってきたぞ。

「辞書見た?」
「見たけど何書いてあるかわかんなかったっす」

辞書の引き方からアウトらしい。

「be動詞はわかる?」
「あー、聞いたことはある」
「おおう…」
「だってこれ日本語じゃねぇもん」

それはそうなのだが。
将来外国に行く予定がないなら覚える必用なくない?とは誰もが思うであろう疑問と思う。
しかし、悲しいことに英語は試験に必須な教科でもあるのだよ。

「辞書の引き方から勉強しよっか…」

その金輪際英語に関わりたくないって顔、隠す気ないよね!これでも傷付くのよ!

「昨日頑張ったからいいじゃないすかー!」
「1時間だけ。終わったらストリートテニス行こう」
「ぐ…!」
「あと約束のご褒美。帰りにゲーセンでもいいよ」
「や…やります…」

40.5巻の情報は強かった。よかった買っておいて…!

渋々といった表情で教えた通りに辞書を捲る赤也くんは、早く終わってほしいのか時計を忙しなくチラ見していた。

一通り教えたら実際に単語を出して、辞書で意味を引いてもらった。
さすが若い子の頭は飲み込みが早かった。
そのため、20分も早く切り上げることができたのだ。

「頭使いすぎた〜まじ英語しんどい」

と言いつつストテニ場へ行く準備だけは早い赤也くん。
玄関で待つ赤也くんに催促されながら急いで用意をすれば携帯電話とテレビのリモコンを間違えて持っていこうとするという失態を犯した。

***

「なまえさん早く早く」
「ちょ、そっちじゃない。反対の道!」

赤也くんが先頭をきって迷走中。テニスしたい気持ちはわかるが迷子になったらいろんな意味で危ないからどこでもなんでも曲がり角は曲がらないでほしいなあ。
二人目の弟を持ったみたいだ。

やっとの思いで着いたストテニ場。今日は混んでいるようでコートは1つしか空いていなかった。

「強い奴いねーかなあ」
「いるといいねー」

この前と同じようにラリーを始める。赤也くんに教えてもらったフォームはとても打ちやすかったのだが、やはり途中で私の体力がなくなりベンチで休憩というパターンに。
本当に運動系サークルに入っているのか疑われるレベルだ。

赤也くんもベンチに座りながら他のコートを眺めていたが、奥に壁打ちできるところがあるのに気が付いてちょっと行ってくるっす!と行ってしまった。
本当に申し訳ない。

左右に走り回ってボールを打ち返したり、その場から動かないで一点を集中して打っていたりと練習熱心なんだなあ。見習いたくなる集中力である。

「あのー」

スポーツドリンクを補給していれば声をかけられた。
見れば隣コートの人たちで、一人は屈強な、もう一人は金髪の鶏冠みたいなのが立ってる男性で。(つい3度見した)
普段あまり接しないようなタイプの人たちだったからか少し体が強張る。

「なんですか…?」
「いやあ君暇そうだったからさあ。俺たちと打たない?」
「すいません、連れがいるので…」
「あのワカメの子でしょ?あっちで一人でやってんじゃん。ちょっとだけだからさー」
「そうそう。こっちのほうが楽しいよー。人数いっぱいいるし」

ワカメって赤也くんのこと、だよね。まあ確かに癖毛の手入れが大変そうだけど、初対面でそれはカチンと来るものがある。
私の知り合いだってわかってるのに私の前で言う気が知れない。どんな神経してんだ。

二人の後ろを見ると他のコートで試合をしていた人たちが手を止めこちらの成り行きを見ているではないか。

団体さんでしたか。しかも金髪の人みたく髪形が突っ込み所満載の方ばかり。
スポーツするなら派手な髪形やめんかいこら!

正直嫌な汗が噴出しているわけで、断り続けてもしつこく寄ってくるパターンだと薄々勘づいた私はどうしたもんかと必死に思考を巡らせた。

「ね、やろーよ」
「休憩してるだけなので気を使って頂かなくても大丈夫ですよ」
「そこはフォローするからー」

どこを!なにを!

もうやだこの人たち突っ込み所多すぎてうずうずしてきた。会話も成り立たないしひきつった笑いしか出てこない。

「ねえまだー?」
「この子全然OKしてくんねぇ」
「早くしろよー」

退屈そうに外野はおうおうと野次を飛ばす。
が、OKもなにも、生理的にこの人たちとはテニスをしたくない。諦めてどっか行ってくれないかな。
呆れたてめ息しか出てこない。

それがだめなら、練習の邪魔はしたくなかったけど赤也くんのところに避難させてもらおう。

荷物をまとめてベンチから立つと屈強な男性に腕を掴まれそうになった。が、その間をものすごいスピードで何かが飛んできたおかげで掴まれずにすみ、その何かは男性の顔面ぎりぎりを通り抜けた。

がこん!と音がして横に顔を向けると。

金網にテニスボールめり込んでた。

「これ、ナックルサーブっつって、バウンドしたらどこに跳ねるかわかんねぇサーブなんすよ」

そっか飛んできたのはテニスボールなんだね!と納得するどころか、もし当たってたらひとたまりもなかったと私も男性たちも顔が真っ青だ。

「もう一球打ってやろうか?次はテメーらの顔面直撃するかもしれないけどな」

打った張本人、一回り低い声を出す赤也くんの目は、赤く染まっていた。



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