05



クーラーを効かせる部屋でアイスを食べる赤也くんと私。
昨日あれだけお肉を食べてたのに胃もたれとかしてないのかな。ぱくぱく食べながらテレビを見ている姿は丈夫そのものだ。

天気予報では今夜も熱帯夜でしょうと絶望の宣告がされたばかり。
床に張り付いて寝たい…。
クーラーをタイマー設定でつけていたいけど、リビングと私の部屋ふたつ点けたら電気代もシャレにならないしな…。(一応赤也くんが寝てる私の部屋はつけてる)

どうしたもんかね。

まあ追々考えるとして、今日の予定だ。

「今日の夕方、バイト入ってるから赤也くん一人にさせちゃうけど…」
「バイトって家庭教師?俺は大丈夫なんで」
「うん。赤也くん暇になっちゃうかなーと思って考えたんだけど、やっぱり赤也くんも学生だし、ちょっとだけ勉強してもいいと思うのよ」
「うわあ嫌な予感」

私は三枚のプリントをテーブルに置く。

「だからね、これ英国数の問題ね」

赤也くん、嫌悪感丸出し。

ストテニ場でテニスっていう手もあったけど、一人じゃ何かと心配だしバレたら大変というのもあり、勉強ということで落ち着いた。
初日の会話からこの反応は予想がついていた。だから、単に勉強しろってわけじゃない。

「ちなみに、いずれかの教科で90点以上とったらご褒美をあげまーす!」
「ご褒美?」
「たとえば赤也くんの好きなもの買ったりだとか。とりあえずご褒美」

人生、飴とムチは大切よね。私も赤也くんの年頃だったとき勉強大嫌いでテスト前になるといつも泣きを見てた苦い思い出がある。
だから気が進まない作業をするときは自分へのご褒美が欠かせなかった。ケーキだとか洋服とかね。
そのおかげで頭は悪くはなくなるし欲しいものも手に入る一石二鳥だ。

ご褒美と聞いて気持ちが揺らいだのかプリントに手を伸ばしては引っ込める赤也くん。
そんなに迷うのか!

「辞書置いとくから気が向いたらやってみて」
「お、おす…」
「じゃあそろそろ行ってくるよ」
「夕方からじゃないんすか?」
「ちょっと調べものしていくんだ。ごめんね」

なんだか赤也くんは残念そうだった。もし耳と尻尾がついてたら垂れてたな。
もしものことを考えて、いくらかお金を置いておく。

「7時頃には帰るから!行ってきます」
「はーい行ってらー」
「あ、電話とかお客さん来ても出なくていいからねー」
「りょーかーい」

玄関まで送りにきてくれた赤也くんに手を振って外出。
その足で調べものをするために古本屋へと向かった。
古本屋なら立ち読みが出来るだろうと踏んで訪れ、漫画コーナーでお目当ての本を探す。

…あったあった。
赤也くんが出ている漫画の一巻を手に取り、ぱらぱらと捲ってみる。

ここに来た目的はある程度知識を持っていたほうがいい気がして赤也くんを調べることにしたのだ。それならば原作を見たほうが早い!と思ったのだが。

…何巻に出ているんだろう?

約40巻もある漫画だ。一冊ずつ確認していたら日が暮れてしまうだろう。
ここは友人の手を借りるしかないのか。

「?」

そこでところどころある〇.5という巻が目に入った。
番外編でも描いてあるのかと思ったが、厚さ的にそうとは思えない…。

気になって一番分厚い40.5巻を読んでみた。
各キャラクターの名前、身長、体重、血液型などなどプロフィールが書いてある巻だった。個人情報流出が心配になった。

そのキャラクターの活躍したシーンも載っていたのでこれは!と思い赤也くんのページを探す。

閉じた。

気を取り直してもう一度捲る。

………。

いやいやいやいや。ぶっ飛びすぎでしょう。
想像以上に人間離れしていて笑いが込み上げてきた。なんか涙も出てきたよ…。

長く感じていたが赤也くんと過ごしはじめてまだ3日。この…赤目とかデビル化?は普段の赤也くんと印象が違いすぎる。でも公式のデータなんだから本当なんだよね…。
あの子がこんな狂暴に…、うーん、全く想像できない!

半信半疑でページを読んでいき、ついに購入を決めたのだった。


バイトの時間になるまで40.5巻を読んで他校のキャラを勉強した。
主に立海の皆さまを覚えようと頭のなかで反芻していたら、テスト前の暗記していたころを思い出し少し虚しくなった。

真田さんと幸村さんは別人なんだね。失礼だけど二人とも中学生に見えない。中学生で許される容姿は赤也くんと丸井ブン太くらいだと思うよ。
しかし幸村さん、女顔負けの美人さんである。羨ましい…!

赤也くんの趣味は格ゲーなのか…。ゲームはあまり詳しくないけど、ゲームセンターにあるようなのが好きなのかな。…聞いた方が早いか。

リサーチもそこそこにバイトの時間が近付いてきたので生徒の家に向かった。

***

3時間の勉強も終わり先生のお仕事終了!留守番している赤也くんの心配をしつつ帰宅した。今日もおやつは美味しかった。

「ただいまー」

音が漏れているためテレビをつけているであろうリビングに向かうとソファーに転がっている赤也くんを発見。入りきらない足は飛び出ていた。

「…もしもーし」

………。

びくともしないしぐっすり寝ているようだ。起こすのも躊躇われたのでテレビを消す。
時計の針は7時を超していた。お腹すいてるだろうしさっさと夕飯の準備に取り掛かろう。

にしても、かわいい寝顔である。
中学生といっても赤也くんも少し大人びている感じはしていた。あの濃いメンバーの中では中学生相応に見えるのであって、こういったあどけない表情は珍しい部類に入るのではないか。

やはり撫でたくなるのは変わらない。腕が疼く。
そっと頭に触れようと手を伸ばした。

「?!」

すると、ガシッと効果音がつきそうな勢いで赤也くんは私の腕を掴んだ。

びっくりした…心臓に悪いなあ…!

起きたと思ったけど寝息立ててるし夢でも見てるのかな。
それでも、寝ながら阻止されたというのは若干傷付くものがあった。

すぐに力は弱くなり腕は解放されたが、掴まれたところの熱はなかなか引かなかった。


ふとテーブルを見ると、けしカスだらけの国語と数学、くしゃくしゃになった英語のプリントが無造作に置かれていた。

やっといてくれたんだ…!
丸つけはあとでやるとして、これで家庭教師のハートに火がついたのは言うまでもない。



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