「なーなーこれやんねえ?」

クリスマス。私は手作りケーキを持参しブン太の家にお邪魔していた。部屋に案内されてベッド脇に腰を下ろすと、ブン太はにこにこしながらとあるゲームソフトを漁り出した。

目の前に出されたおどろおどろしいパッケージのそれは、私が前々から気になっていたゲームで。

「それ今話題のホラーゲームじゃん!やろやろ!」

ブン太の提案に乗った私は、ケーキなんてそっちのけでテレビ前にわくわくと待機した。ブン太が操作するのであろうと思っていたコントローラーは何故か私の手にあって。

「ブン太やらないの?」
「それがめっちゃこえーんだよ!なまえやってみ?」
「おっし、やったるぜー!」

怖いのは苦手だが、怖いもの見たさについついやってしまうのが私の性。怖い番組や心霊写真も、嫌だ怖いと思いながら目を覆った指の隙間から覗いてしまうビビりなんだけど、なんか面白いから夏にやっている心霊特集なんかは全てチェックしていたりするんだよね。誰でもそんな経験、あると思います。

ブン太がゲーム機にソフトをセットして私の隣にちょこんと座る。一応暖房はついているのだが、寒いのか大きめのクッションを抱えて座っている姿はなんとも可愛らしかった。

「続きから?」
「うん。進めて。こわい」
「…そ、そんなに怖いのか」

ブン太の怯えように、やるなんて言わなければよかった、と後悔の念が浮かび今すぐコントローラーを投げ出したくなったが、やっぱり興味本位のほうが上で。
ええい!女は度胸よ!
セーブデータをロードして、プレイスタート。

「ひっ」
「うわ!い、いきなり出てこないでよ〜〜」

初期位置から少し動かせばいきなり幽霊が出てきたので思わず声を上げてしまった。
しかし暫くすると消える仕組みになっている幽霊だったので、難なくクリアし次の目的地へ。

ムービーシーンはいこれきました。これぞホラーゲームの醍醐味だ。ここは主人公が押し入れを開けて調査するシーンなんだけど、視点がちょくちょく切り替わり焦らしてくる。とにかく焦らしてくる。

「こわー…」
「………」

わかってる、あれでしょ、押し入れ開けたら何も入ってなくて安心した瞬間に顔が降ってくるパターンでしょ、わかってる。だから早く…!そんなゆっくり行動しなくていいから早くびっくりポイント過ぎ去って…!焦らされるとさらに怖くなるんだから…!


パチンッ


「ぎゃあああああ!」
「うわああああ!?」
「な、ななな何の音!?ラップ音!?ポルターガイスト!?」
「それよりブン太今いいところなんだから静かにして!」

ブン太がいきなり叫んだことで私も驚いて叫び声を上げてしまった。そしてブン太は私にくっついて画面に視線を戻せば、ちょうど押し入れに血まみれの顔が降ってきたところで。

「いやああああああああ!!」
「うわ!?ブン太うるさっ!」
「こわい!心臓こわれる!」
「えええ何でこのゲーム買ったのブン太!」

正直なところ、ゲーム画面にびっくりするよりもブン太の叫び声にびっくりだ。

涙声で「なまえ〜…」と言って抱きついてくるブン太は男としてどうなんだろう。でもかわいいから許せちゃうんだよなあ。

「ブン太、離してくれないと進めないよ」
「やだ!ずっとこのままがいい!」
「じゃあそのままでいいからちょっと力を弛めようか、血流がやばくなってきてるんですよ」
「ううう…」
「……(ほんと何でこのゲーム買ったんだろう)、…ケーキ食べる?」
「食べる」
「………」

そしてこの変わり身の早さ。

テレビを消して切り分けたケーキをお皿に移す。すると目を爛々と輝かせたブン太は待てと命令された犬のようにちらちらとこちらを見てくる。

そんな目で見つめられたら悪戯心が芽生えてしまうよブン太。

「ブン太、お手!」
「おう!って違うだろぃ!犬じゃねえよ俺は」
「だってご飯を前にした犬みたいでかわいいんだもん」
「もん、ってお前なあ…」

かわいいとか複雑だ。と呟くブン太によしよしと頭を撫でればついにふてくされてしまった。

「ブン太、よし!」
「…もう引っかかんねえからな」
「あ、そう。いらないんだ。じゃあ弟くんたちにケーキあげてくるかな」
「いただきます!」

光の早さでケーキにフォークを差して一口サイズに切ったそれを口に運ぶ。
ブン太はいつも私の手作り料理を美味しそうに食べてくれるから、すごく幸せな気持ちになる。味わって食べてくれるのは、料理を作った者へ最高のプレゼントだと思うから。
ほら、今もブン太ってば不機嫌な顔から幸せそうな表情に変わってる。

「あーあ生クリームついてるよ」
「え、まじ。取って」

ブン太の口元についた生クリームを指で掬って口に運ぶ。

「うん、甘い」
「…お前それわざと?」
「何が…?」
「いや…よく普通にできるよなあ」

ぶつぶつ呟くブン太に疑問符を浮かべていれば、突然くすくすという笑い声が聞こえて肩が強張った。

「ぶ、ブン太、いきなり笑わないでよ」
「別に笑ってねえけど…なまえこそ不気味な声出すなよ」
「出してないんだけど…」

「「………」」

お互い目を見開いてぎこちない動きでテレビへと顔を向けると。

「電源…消したよな」
「う、うん」
「…つけた?」
「つけてないよ!ブン太こそ」
「つけてねえよ」
「じゃあ何でついてるの…?しかも手形が…」

「「………」」


ぎゃあああああああ!!


二人分の絶叫がここら一帯に響き渡りました。

ああ…クリスマスに何やってんだろうね私たち…。


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -